第十三話 逡巡する
「人込みに酔っちゃってさ・・・」
先日、葉月朱と会った日のことを錦に報告している。
「亘は人がわんさかいるところはいつも酸欠状態だもんな」
僕は錦の言葉にふくれながら、誰も道を譲ろうとしないとしないから仕方がなかったのだと不満をもらした。
「まあ、その子との間にしこりが残らなくてよかったな」
「うん」
たしかに、自分があの子の立場だったら、僕に抵抗感を覚えそうなものだが、こちらの謝罪を受け入れてくれ、友達として関係を深めてもくれた。
「ちょろいな♪オンナコドモたちは」
「えっ?」
錦はニンマリすると、亘くんがその子と街を漂ってる間、俺は持って生まれた運の強さもあって、ゆうかを射止めちゃいました~!とはしゃいだ。
「えっ!?だって菊池さん彼氏は?」
「ピリオドを打ってくれるってさ」
「これから別れるの?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
錦はまるで他人事のような顔をして自分はそういうのを全く気にしないタイプだと言った。
「知ってるけどさ・・・」
その結果として傷付く人がいるのではと懸念した。
僕の反応を見て錦は困ったように笑った。
「亘さあ、口開けて待ってるだけじゃ何も手に入んないぞ」
「それは困るけど・・・」
そうは言いつつも、僕はやはり心のなかでときどき錦のような人が理解できないと感じた。
相田錦とのことの顚末を朱に話すと、彼女はふーんと言った。
「拒み続けてた割にはあっさりくっついたね」
私はまあねと言うと、妻子持ちに振り回されるのはもうたくさんだからと口を尖らせた。
「ゆうかのことちゃんと手放すの?あのおじさん」
そう言われてみると深追いしてきそうなタイプだ。
「勢いで離婚するとか言われないようにね」
「怖いこと言わないでよ」
フードコートの水を飲み終えた朱は、紙コップを手でもてあそびながら、顔を上げると自分には経験があるのだと言った。
「何が?」
「前にちゃんと別れなかったとき、しばらくの間家の近くにその男の車が待機してて怖い思いしたの」
私はご忠告ありがとうと言うと、きちんと別れないといけないなと感じた。
「そっちはどうなの?あの男の子とご飯食べに行ったんでしょ?」
「うん、おごってもらったよ」
朱は彼のことを割と天然で、一緒にいると安らぐと微笑んだ。
意外と彼に心酔しているようなので驚く。
「クラスにいたら完全に目立たないタイプなんだけどね・・・。なんだろう、明日香さんの保護下でずっと生きてきて、健全になるしか道がなかったって感じ」
幸せそうな朱を見て、なぜだか置き去りにされたような感覚がしてうらやましく思った。
「いい人そうでよかったじゃん」
努めて冷静をよそおうとしたのだが、なんだか煮え切らない思いが私の中に渦巻いていた。
ためらっております(';')