第十二話 未知の分野
人の流れに逆行して歩いていると、亘が徐々に私から後れを取り始め、人込みに揉まれていくので面白くなってそれを茶化すと不貞腐れてしまった。
「怒んないでよ」
くすくす笑いながら言うと、彼は笑うのなら笑えばいいと頬を膨らませた。
「見失わないようにね」
大丈夫だってばと熱心に私の歩調に合わせようとする亘との距離は段々と縮まってきたように思う。
目的の飲食店へ行くのに私が抜け道を選ぶと、彼が質問してきた。
「朱・・・ちゃん」
「呼び捨てでいいよ」
「・・・。女の子を名前で呼んだことないんだよね」
「じゃあ朱ちゃんで」
「朱ちゃん、この道で合ってるの?」
私の勘に狂いがなければ大丈夫だと、振り向きもしないで言った。
しかししばらく歩いてもそれらしき店が見つからないので、私は観念した。
「ごめん、やっぱ見当たらない」
すると亘は苦笑いをしてよかったと呟いた。
「ぜったいに諦めなそうな雰囲気だったから・・・」
「私諦め悪そうに見える?」
「うん、なんとなくそういうとこ姉ちゃんに似てる」
「ははは、私明日香さんみたいにキワモノって感じ?」
亘はおおいに頷くと、私を見ていると明日香さんが見え隠れすると言うので、私にとっては誉め言葉だなと笑った。
生徒たちの群れの中に、ゆうかの姿をとらえると俺は大きな声で彼女の名前を呼んだ。
ゆうかは振り向いて俺を目にすると以前と同じようにやれやれという顔をした。
「冴えない顔してるね~」
朝から元気な俺に、彼女は何となくわかるだろうけれど、あなたと違って自分は午前テンションが低いのだと言った。
「ゆうかちゃんがいつも俺の横にいるっていうのはいいね!」
「いつもはムリ」
彼女がやや辛辣に言う。
「やってできないことはないよ!」
「相田くんて彼女できるといつもべったりなの?」
ゆうかは呆れ果てたような顔をする。
俺はうーんと考えると、好きな人には俺の思いの丈をぶつけたくなるのだと言った。
彼女は予期していたようで、ほどほどにお願いしますと呟いた。
「え~、時間の許す限り俺は一緒にいたいのにな」
不満の声を上げる俺に、彼女はあまりしつこいと我に返ったら自分はあなたのとなりからいなくなっているかもよと言った。
そんなの嫌だよ~と言いながら、俺は心の中でやっと手に入ったというのに、簡単に手を引くわけがないだろうと冷ややかに笑った。
どうなるのでしょう(';')