何年ぶりの帰省
久しぶりに帰省した。
いつ以来だろう。
すっかり無くなってしまったと思っていたのに、家も学校も公園も同じ場所にあったので、急に懐かしくなってしまった。
それぞれは、どこにだってある道、遊具、建物。
なのに、幼い頃から毎日見てきたせいだろうか…角を曲がり新しい景色が見える度に、強烈な懐かしさが胸に迫ってきた。
それと共に、押し寄せる記憶の大波。
アスファルトの道を、学校まで我先に走った。
駄菓子屋の前のガチャガチャで友達といつまでもダベっていた。
大好きなあの子の家を、遠回りしてわざわざ見に行った。
そこは幼い頃の生活の全て。
成長も恋も友も裏切りも優しさも、全部がごちゃ混ぜにやって来るから、濃過ぎて思わず苦しくなる。
一つを見ると、他の場所も確認したくなって、足は自然と遠回りしていた。
まず目に入ったのは小さな頃よく遊んだ公園。
草ぼうぼうで、遊具は固まって動かない。
今では遊ぶ子も居ないのだろう。
公園奥の坂を上ると、一番仲の良かった友達の家。
同じ苗字がかかっているけれど、友達の名前はもう消えている。
大きくなって、家を出ていったのかもしれない。
そこからグルリと裏へ回ると、お寺があって、書き方を習った先生のお宅。
覗いてみたかったけれど、寺が荒れ過ぎていて入れなかった。
あの時既にご高齢だったから、きっと今はもう…。
あの頃は、誰かに会えなくなることなんて考えもせず、ただ精一杯笑ったり泣いたりして過ごしていた。
今頃、友達や好きだった人達は、どこでどうしているのだろう。
たまらなく切なくて、足が止められなくなった。
「いつもは行かないんだけど…」
獣も通らなそうな細い道を何度も曲がり、ぽっと開けたのは小さな広場。
「残ってたのか!」
あの頃から誰も使ってなかったから、もうないものと思っていた。
それでも今日は確かめずに居られなかった。
まだ恋の意味も知らなかった小さな頃、稽古を抜け出しては二人座ったベンチ。
近づきたくて、でも近づき過ぎて動揺してしまい、滑って転けた時の傷が、今も。
「あぁ…」
僕は確かに、ここにいた。
大好きなあの子も、ここにいた。
もう綺麗じゃないし誰もやって来ないけれど、ここは在り続ける。
もう、いいじゃないか。
今日もまた誰にも会えなかったけれど、もうそろそろ、いいんじゃないのか。
心を決めて、僕は来た道を引き返し始めた。
町の出口まで来ると、徐々に緊張する。
息を吸い、止めて、グッと踏み出した。
「…出られた」
振り返ると、今出てきた町の入口に古びた看板がかかっている。
【平成時代集落遺跡(~2019年)】
と読めた。
何年ぶりだよって最後にツッコミたくなってくれたら嬉しいです。