表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

何年ぶりの帰省

作者: 佐伯みあ

久しぶりに帰省した。

いつ以来だろう。


すっかり無くなってしまったと思っていたのに、家も学校も公園も同じ場所にあったので、急に懐かしくなってしまった。

それぞれは、どこにだってある道、遊具、建物。

なのに、幼い頃から毎日見てきたせいだろうか…角を曲がり新しい景色が見える度に、強烈な懐かしさが胸に迫ってきた。

それと共に、押し寄せる記憶の大波。


アスファルトの道を、学校まで我先に走った。

駄菓子屋の前のガチャガチャで友達といつまでもダベっていた。

大好きなあの子の家を、遠回りしてわざわざ見に行った。


そこは幼い頃の生活の全て。

成長も恋も友も裏切りも優しさも、全部がごちゃ混ぜにやって来るから、濃過ぎて思わず苦しくなる。


一つを見ると、他の場所も確認したくなって、足は自然と遠回りしていた。

まず目に入ったのは小さな頃よく遊んだ公園。

草ぼうぼうで、遊具は固まって動かない。

今では遊ぶ子も居ないのだろう。


公園奥の坂を上ると、一番仲の良かった友達の家。

同じ苗字がかかっているけれど、友達の名前はもう消えている。

大きくなって、家を出ていったのかもしれない。


そこからグルリと裏へ回ると、お寺があって、書き方を習った先生のお宅。

覗いてみたかったけれど、寺が荒れ過ぎていて入れなかった。

あの時既にご高齢だったから、きっと今はもう…。


あの頃は、誰かに会えなくなることなんて考えもせず、ただ精一杯笑ったり泣いたりして過ごしていた。

今頃、友達や好きだった人達は、どこでどうしているのだろう。

たまらなく切なくて、足が止められなくなった。


「いつもは行かないんだけど…」


獣も通らなそうな細い道を何度も曲がり、ぽっと開けたのは小さな広場。

「残ってたのか!」

あの頃から誰も使ってなかったから、もうないものと思っていた。

それでも今日は確かめずに居られなかった。


まだ恋の意味も知らなかった小さな頃、稽古を抜け出しては二人座ったベンチ。


近づきたくて、でも近づき過ぎて動揺してしまい、滑って転けた時の傷が、今も。

「あぁ…」


僕は確かに、ここにいた。

大好きなあの子も、ここにいた。

もう綺麗じゃないし誰もやって来ないけれど、ここは在り続ける。


もう、いいじゃないか。

今日もまた誰にも会えなかったけれど、もうそろそろ、いいんじゃないのか。


心を決めて、僕は来た道を引き返し始めた。

町の出口まで来ると、徐々に緊張する。

息を吸い、止めて、グッと踏み出した。


「…出られた」


振り返ると、今出てきた町の入口に古びた看板がかかっている。


【平成時代集落遺跡(~2019年)】


と読めた。


何年ぶりだよって最後にツッコミたくなってくれたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ