ハナトラ・・
夜の流川で・・
「ウォン・・」
「いらっしゃいませ花元さん奥取ってます。」黒服
「花元君お久しぶりです」黒服
「おう。」花元
ジュリナの店の前に横づけされた少し型落ちのベンツ。
「なんや安いベンツで粋がってから」
「まぁ若いのに似合っとるけどな・・」
行き交う酔客は輝くオーラに
多少の嫉妬がまじり皮肉っぽく愚痴るしかできない。
「ふっ、安いベンツって」黒服
「AMGだぞ花元君の・・」黒服
そりゃジュリナのランボルギーニに比べれば安いが、
そのベンツ中古でも1500万はする車だぞ。
ただちょっと来たタイミングが悪かったのが・・
「じゃあワシは帰るぞ」天野
「はいっありがとうございました」ジュリナ
「ありがとうございました」黒服
ふ~・・間に合ったか・・
もう大事なお客来るしな・・
まぁ、貧乏ヤクザは長居出来ないからすぐに帰るんだが、
たまたまこの花元と言う男と天野が通路ですれ違う。
「・・・・・どけ」天野
「ああ?」花元
「ちょっ!」ジュリナ
これにすぐさま黒服とジュリナが割って入る・・
「すいませんでした天野さん」黒服
「・・ああ」天野
天野があっさり引いたのも驚きだが、
まずあの時、一瞬天野が躊躇した・・吠えるのに。
歳は天野より明らかに若い感じの感じの男に・・
何かを感じたのか?あの人に。
「どうぞ♪」ジュリナ
「ん。」花元
VIPルームに入る二人をまだ不思議そうに眺めている新人黒服に・・
「ヒソっ・・」
この花元と言う男を知ってる黒服が耳打ちする。
「・・花元君・・」黒服
「『花虎』さんっすか!」黒服
「・・・・・・・・・・」天野
「あ・・あのお会計・・」黒服
入口の天野も遠くの黒服の会話に少しピクついた。
ハナトラ?・・
しばらくその場で考え込むように動けなかった天野だが、
何か気になる・・・
若いのにVIPルームってのもだが・・
「あっ天野さんっ!開けたらダメですっ」黒服
「どけっ!」天野
なぜだろう・・こんな若造に・・
ワシは流川の天野じゃぞ!
勝てない相手と対面したときの感覚だった。
若い頃も何度かあったこの感覚・・
「ガラ!」
はぁ!?
・・ジュっ・・
「・・・・・・あっ!」ジュリナ
ジュリナが恥ずかしそうに隠れ・・
「・・・・・・・・何?」花元
「・・・・お前何もんじゃ!?」天野
何じゃ?ジュリナがこいつの銜えとったぞ!
しかも店のVIPルームで!
こいつか?
ジュリナのランボルギーニ・・パパは?
「・・・・・・・・代紋もってんのか?」天野
「ちょっ!天野さん!」ジュリナ
何か気配が違う・・
天野がすぐに思いついたのは東京のヤクザ・・今どきの。
もしくは・・・
「水沢の若い衆か?」天野
この毛色だこの男は。どちらにせよ新時代の匂い。
「まぁ、決めかねてる・・・」花元
この広島の未来を・・
そう言って立ち上がり脱いだジャケットに袖を通す花元
「ごめんなさい・・」ジュリナ
「いや、いい・・また後で・・」花元
白けてしまった久しぶりのオフが。
「・・・・・・・決めかねてるだぁ?」天野
「・・・・・まぁ・・」花元
なんじゃ?この小僧っ!
水沢の若い衆になるか決めかねてる?
そりゃ、つまり・・
「・・大刀か水沢でかか?」天野
ちゅうかなんじゃ!?
まるでこの小僧が広島の鍵握っとるかのような言い方しおってからに!
「・・・・・・・・」ジュリナ
「・・・ほう・・」天野
このジュリナの反応で何か分かったというか・・
「・・・・花元と言います。ではまた・・」花元
「・・・・・・・」天野
最後は丁寧にというか・・
まるで俺を小物扱い・・いや、相手にもされなかった・・
「・・・重みが違うな」黒服
これが今の時代の構図なんだろう・・
今の時代はヤクザより金持ってる半グレ・・
事業で成功した元不良・・
しかも全うに・・表舞台で・・
「あっ!ハナトラさんもうお帰りですか!?」黒服
「・・・・・・・・」天野
ハナトラ・・・
通称・・
ハナトラ・・ハナトラ・・
少しばかり分かってきたスマホの使い方。
検索すればすぐにヒットする・・・
『ハナトラです!今回の動画は~』
「こいつや!」天野
動画ではサングラスにマスク姿じゃけど・・
「ユーチューバーってやつか!」天野
あっ!!!
『ランボルギーニとベントレーください!』
『わ~社長っ高級車いきなり2個買いー!!』
これジュリナのランボルギーニや!
さらにいろいろな動画でも大金使うものや、札束見せびらかすもの・・
そんなに儲かるんか?ユーチューバーってのは?
他には自宅の高級マンションや腕時計・・
「・・・ここ最近市内に出来たタワマンか・・」天野
なんじゃったんじゃろ・・ワシの今までの苦労は・・
少年時代から先輩のヤキや理不尽な要求にも耐えて、
ヤクザになってもいつも見栄ばっかりで金も小銭しか持ってなかった。
この年になって、やっと所帯持ち(組長)になれるかどうか。
つまらん人生じゃのぅ・・