平穏
「なぁ影二、最近は平和だねぇ」
某国立大学の講義中に、二十歳前後と思わしき茶髪の短髪で、つり目の青年が影二と言う男に話しかける。
「呑気なことを…つい先日も〈ブレイン〉がサイバーテロ起こしてただろうが」
返事をしたの工藤影二。黒髪の短髪で整った顔立ちをしており、左耳に鈍く光る黒いピアスが印象的な21歳の男性だ。
「まぁそうなんだけどな…すぐWPOの連中が逮捕してたから大ごとにはならなかったろ?」
「直也、それは良いことだろうが…」
どうやら影二と話す男の名は直也というらしい。
西条直也、影二とは無二の親友である。
「ま、ランキング圏外者の俺たちには関係のない話なのも事実だけどよ」
「そもそも〈ブレイン〉がサイバーテロを起こそうが、〈バウンズ〉が暴れようが俺たちには関係ないだろ」
「分かってるよ、でもやっぱ刺激は必要だろ?」
「刺激は昔充分に味わっただろ」
「それはそれ、今は今だよ」
「お気楽だな」
「それだけが取り柄だからな」
直也はニヤリと笑みを浮かべる。
グウゥゥゥ…
すると直也の腹の虫が泣く。
「ふっ、もう講義も終わるし飯でも行くか」
2人は講義室を抜け出して、よく行く定食屋へと向かう。
補足説明だが、ランキング圏外者とはその名の通りランキングを持たない者の事を指す。圏外者は少なくはないが、ランキング保持者からは〈バグズ〉と呼ばれ迫害される事もしばしばある。
ちなみに国内で一定以上のランキングになるとWPOの職員になることが出来る。(拒否も可能)
ガラガラガラ、
「おっちゃん!また来たぜー」
「また来たか、たまには違う所に行きやがれ」
「ここ好きなんだよ、いつもの2つね!」
「あいよ」
直也が声をかけたのは定食屋「たちばな」の店主である。
「おまち、唐揚げ定食2つね」
「待ってました!やっぱこれだよなー」
「たしかにおっちゃんの定食はうまい」
「けっ、褒めても何も出ねぇぞ」
おっちゃんは不貞腐れて厨房に戻っていった。
その背中はどこか照れ臭そうであったが、、
「そういや、知ってるか?」
「何を?」
「一部のミュータントが良からぬ事を考えてるって噂」
「聞いたことはある。けどな、それに俺たちがどう関係あるんだ?」
「いやな、俺たちがどうこうしようってわけじゃないんだけどよ、備えあれば憂いなしっていうだろ?」
「だから?」
「そろそろ〈バグズ〉、つまりランキング圏外者は卒業しねぇかって話よ」
「そんなことだと思ってたよ」
「無理にとは言わねぇ、だがよ、身の回りで何かあった時、〈バグズ〉だと動きづらい」
「別に俺たちなら〈バグズ〉だろうとなんとでもなるだろ」
「でもよぉ、、」
「社会的地位が必要ってか?」
「まぁな」
「、、、、ま、いいだろう」
「そうこなくっちゃ、なら明日早速登録しに行こうぜ!俺たちが元々ランキング保持者だった時のデータはあの時あいつが全部消去してくれたから問題なく再登録できるはずだからよ」
「そうだな、行くか」
「楽しみだな!」
「いい歳してはしゃぐな」
「いいじゃねえかよ、気にすんなっての」
「俺たちはただ登録するだけだからな、羽目外して手を抜く事を忘れんなよ」
「分かってるよ」
「だと良いんだがな、、」
2人は定食屋を後にすると自宅に戻り、登録の為の準備を始めた。
準備とはどれだけ手を抜けば良いのかの確認である。
彼らは現在〈バグズ〉であるが、その秘めた力はただのランキング保持者とは一線を画しているのである。