第三話 「春季東京都地方大会」
一輝の活躍は大阪遠征にとどまらなかった。
その後も数多くの強豪校との練習試合でヒットを量産し、
スタメンの座を脅かす存在にまでなる。
時にスタメンで出場する機会もあり、
打率は五割を超え、
矢羽一輝という名が相手校の間で
少しずつ広まっていった。
神明高校監督、澤口 昭は言う。
中学の頃から持ち合わせる
一年とは思えないほどのバッティングセンスは当然ながら、
チャンスでの打撃力、ピンチでの守備力をものにする
ポテンシャルの強さこそ一輝の武器なのだと。
全国の猛者たちが集う神明高校で、
一年ながら頭角を現してきた矢羽一輝は、
いよいよセンバツの甲子園をかけた
春季東京都地方大会を迎えることとなる。
春季地方大会、一輝はスタメンとまではいかないものの、
背番号十八を背につけ、ベンチ入りを果たす。
四大会連続で甲子園出場、全国制覇をしているだけあり、
相手を全く寄せ付けず、平均得点七点を誇る強力打線で
決勝まで勝ち上がった。
まさに名門に隙なし。
しかし、決勝の相手は、打倒神明を掲げ、
一年間磨いてきた打撃に絶対の自信を持つ紅南高校。
決勝までの平均得点は、神明を上回る八得点だ。
神明ピンチで盛り上がる春季東京都地方大会決勝戦、
まもなく開戦のサイレンが鳴ろうとしている。