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送り神  作者: Licht
2/5

第一話 佐藤翔一

最後の部分以外今回は主人公視点ではありません。

…………ここは……どこだ?

俺はどうしてここにいる?

この服は……病衣!?

周りにはいくつもおかれた医療用ベッドがある。

そうか!ここは病院なのだ。

しかし、なぜ俺は病院にいるんだ。


俺は、自分の記憶を遡ってみた。

いつも通りの午前7時に家を出て、僅少な貯金を使って、やっとの思いで買った俺の愛馬スカイウエイブ250にのって国道248号を駆け抜けていたところまで思い出したところで私の記憶の扉は閉じられた。


冷や汗が一筋顔をつたっているのに気づいたとき、突然横から

「佐藤 翔一さん、目を覚ましたみたいですね」

心臓が止まるかと思った。

女性の声がした。しかも見ずともわかるくらいにあどけなさが伝わってくる。

俺は先程から鳴り止まない鼓動を無理やり押し込み、平然を装いながら横を見た。

そこには医者……ではなく若い高校生くらいの男女が立っていた。


先程声をかけてきた少女は、純白に近い銀色の長い髪をひとつに束ねている。スッキリした輪郭にふっくらした頬、天色の大きな瞳を優しくこちらに向けている。スマートだが、出るとこはしっかりと出ている体を包んでいる服は、黒と白を基調としていて、まるで今から戦いだしそうな戦闘服だ。そして、なぜか腰には日本刀と思わしきものを引っ提げている。

少年の方は、少し長めの黒髪、顔にはまだ少し幼さが残っている。しかし、なにかを警戒したような黒い瞳でこちらを真っ直ぐ睨んでいる。こちらも黒と白を基調とした戦闘服を身に付けているが、こちらは黒の割合が高いように見える。そして、こちらもなぜか黒と白の重々しい二刀を両肩に装備している。


俺は二人の観察を素早く済ませ、重い唇を無理やりあげてやっとの思いで言葉を発した。

「お前らはなんなんだ?」

しまった!、と言いたげな表情をした少女は慌てながらいった。

「あっ、自己紹介してませんでしたね。私は、送り神補佐官の四宮 雪といいます」

「送り神の大野 知也」

初めて言葉を発した少年は、いまだにこちらを睨んでいる。

すると突然、少女が白い頬を赤く膨らませながら、

「もぉー、目上の人にはちゃんと敬語を使わないとダメだよトモくん!」

「い、いいじゃねーかよユキ、それくらい。あと、人前でトモくんは止めろよな」

どうやら少年は照れているらしい。語尾になるほど声から力が抜けている。

「ダメだよトモくん!前のお仕事の時、そのせいでおじいさんを怒らせたんだから」

少年は、少女にトモくんと呼ばさせないのは無理だと諦め、渋々なのが心の底から伝わる声音で、

「す、すみませんでした」

「いえ……」

少女の勢いとこの謎の時間に気圧されて言葉が続かなかった。

それを察した少女が、

「さ、許してもらえたことだしお仕事始めましょうか」

「仕事って?」

「佐藤さんは送り神をご存知ないんですか?」

「聞いたことなら……」

確かに聞いたことならある。

しかし、送り神という言葉を知っているだけだし、それに今の状況がまだ分からず戸惑いを隠せずにいると少年が、

「その様子だと自分の状況をまだ理解してないみたいですね」

少年の敬語がこそばゆかったので、

「いいですよ。ため口で」

「じゃ、お言葉に甘えて。あんたはつい2時間前に信号無視のダンプに突っ込まれて死んだんだよ。ほら、死んだと聞かされたからすぐ横で眠ってる別の自分が見えるだろ?」

すると、なぜ今まで気づかなかったのか不思議なくらいの近さにもう一体の自分が寝ていた。

「これは、私の死体?なるほど、そうですか……」

「驚かないのか?」

「ええ、死んだと聞かされたからでしょうか。それとも、自分の死体を見たからでしょうか、はたまた、自分から感情が抜け落ちているのか。少し動揺してますがすんなり受け入れられました」

「なら話が早いな」

また意味がわからなくなり少年を見て、

「何が?」

「仕事だよ。もしかしてあんた、送り神の仕事の内容知らないのか?」

「内容までは知らないですね」

少年は呆れた表情で一から説明し始めた。


「はぁー、今時、神や堕神や送り神、全部高校の教科書に載ってるぞ。」

「す、すみません……」

「まぁいいや。普通、人は死んだと同時に成仏する。しかし、最愛の人、親友。つまり、自分と縁の一番深い人に別れを告げずに死ぬと成仏できないんだ。そこで、俺達、神の使者である、送り神と送り神補佐官の出番だ。まず、ユリのような送り神補佐官が別れを告げられなかった人と死人を少しの間だけ会わせて、別れを告げさせて成仏できるようになったところを俺のような送り神が成仏させる、それが俺達の仕事の内容だ」

長々と説明して疲れたのだろうか。少年は少し疲れた顔をしている。

しかし、ここでひとつ疑問が浮かんだ。

「じゃあ、お二人が持っているその武器はなんですか?」

「これか?あんたは知る必要ないよ」

少年の目が更に鋭くなった。これ以上聞くなというのが伝わってきたので深く踏み込むのはやめて話題を変えた。


「仕事内容は分かりました。あなた達が私を成仏させてくれるのですね。」

「そういうこと。にしてもあんた、異常なほどものわかりがいいな」

その質問に対して、私ではなく少女また頬を赤くして答えた。

「トモくんあれだけ対象者情報をしっかり読んでっていったのに読まなかったの?」

「ワリぃ」

「ちゃんと言うこと聞けない人には夜ご飯作ってあげないから」

「そそ、そんなぁ……」

少年のひどく落ち込んだ姿をみて少女が、

「冗談よ。そんなに落ち込まなくてもいいじゃない」

今度は少女がとても照れ臭そうになった。二人とも見つめ合っている。

「おっほん!」

俺の制止に二人は慌てて自我を取り戻したようだ。

「で、何で俺の情報を知ってるんですか?」

俺は半分呆れていた。

「あ、それはいつも現場に向かうときに情報が送られてくるんですよ。今回は、『佐藤 翔一、新人サラリーマンで人当たりが良く友人も多い。そのうえ察しが良く、頭脳明晰』っていうかんじですね」

なるほど、確かに、そう聞けば誰でも物分かりがいいと思うだろう。

「てことはもう四宮さんは私が思いを伝えるべき人を知っているんですか?」

俺には検討もつかない。俺が誰だろうと頭を抱えていると少女は妙に優しい口調で、

「知ってますよ。気づきませんか。病室の外からの声に」

俺はそこまで聞いたところで、耳を済ましてみた。

すると、何時間も泣かないとならないようなかすれた鳴き声が聞こえてきた。

次の瞬間、まるで稲妻に打たれたかのごとくある人についての記憶が俺の頭のなかに流れ込んできた。

俺はなぜ今までこの声を、いや、この人を忘れていたんだ。それに気づくと同時に、とてつもない絶望感にさいなまれた。

やっとの思いで口を開き、

「妻が……妻がいるんですか?」

目からはすでに幾筋の涙がこぼれていた。

「はい、そうです」

それを聞いたとたんさっきまで受け入れていたはずの死がたまらなく怖くなった。

「そんな……そんなぁ!!妻のために、、生き返ることはできないんですか?来月生まれるんですよ。俺達の子供が」

ここから先を言葉にすることができない。いや、正確には、泣きすぎて過呼吸気味になっていて、おぇっ、おっ、といったことしか発せられない。

「残念ですが、私達にできることは、あなたを奥さんに会えるよう可視かして、あなたを成仏させてあげることしかできないんです」

「そ、そんな…………ぞんなぁー!!」

少女もつらそうだ。すると、少年が声をあらげて、

「あんたはここで泣いてることしかできないのか?ちがうだろ!奥さんだってずっと泣いてるんだぞ。そこに声をかけてやるのが男のすべきことじゃないのか?」

なぜだろう、少年の叱咤を受けたはずなのに気持ちが少し落ち着いた。

やっと、涙も収まった。

「……そうだな、俺もまだまだだな。こんな少年から諭されないと気づけないなんて」

「最後のは余分だろ」

「はは」

俺は覚悟を決めた。

「四宮さん、妻に……会わせてください」

「分かりました。それじゃあ、いきましょうか。ほら、トモくんも」

「ああ」

そして三人で病室をあとにした。


病室を出るとすぐ横に一人のお腹の大きな女性がいた。

女性はいつもは美しく凛としている顔を、今日は、まるで子供が悪い点を取ってくしゃくしゃに丸めて捨てたテスト用紙のような顔で、まだ下を向いて泣いていた。

その女性に少女は声をかける

「佐藤恭子さん」

すると、泣きながら、真っ赤にした目と鼻をこちらに向けて、

「なんですか?」

今にも消え入りそうな声だ。

「私は送り神補佐官の四宮です。今日は恭子さんに翔一さんと最後の時間を過ごしてもらうために来ました」

「翔一さんに、会えるんですか?」

まだ涙は止まっていない。

「はい。少しだけですが」

「本当ですか?……お願いします会わしてください」

「会わしてくれ。頼む」

「分かりましたではいきますよ。エインテゥ ウール」

少女が謎の言葉を発した瞬間、向こうからは認識できてなかった俺を認識したようだ

しばしの沈黙が流れた。

そして、俺から口を開いた。

「恭子……」

「翔一さん……」

二人は病院中のガラスが割れるのではないかと思うほどの泣き声をあげながら抱き合った。

「翔一さん……翔一さん……あなたがいないとわだじ……」

「すまない。本当にすまない」

「あなたのいない世界なんていや!私、もう生きていけない……」

「だめだ!お前とお腹の子は俺の最後の希望なんだ。死人の最後の願いを聞いてくれ、俺の分までお腹の子の成長を見届けてくれ」

「だって、だって、これからじゃない!三人で幸せな家庭を作ろうって……翔一さんいったじゃない!」

彼女の悲痛な叫びに胸が締め付けられる。

「もう戻れないんだ。前を向いてくれ恭子。頼む」

「無理よ。翔一さんと一緒じゃな」

彼女が言い切る前に俺は彼女の唇を俺の唇でふさいだ。

静かな時間が流れる。実際には十秒ほどだが、俺達にはまるで永遠の時のように感じた。

お互いにゆっくりと唇を離した。

彼女は一瞬うっとりとした表情をしたが、俺の意思が伝わったのか、彼女もなにか決心したようだ。

「分かったわ。私は翔一さんの託したこの子と一緒に、生きていく。だから、翔一さんもずっと見守っていてね」

「ああ、絶対に、絶対に、未来永劫見守り続ける。約束だ」

指切りをした。

そしてまたしばらく抱き合った。

どれくらい時が経ったのかわからない。ただ、お互いの涙はとうに枯れきっていた。このときが永遠に続けばいいと思った。

しかし、それが無理なのは俺が一番理解しているはずだ。

俺は今までで一番優しく呟くような声で言った。

「それじゃあ、そろそろ逝くよ」

「うん……」

すると部屋を出てからずっと黙っていた少年が俺の肩に手をおいてきた。

「俺の姿は一般人には見えていない。だから、このまま送るぞ」

「はい」

「ゼンデゥン」

少年がそういうと、俺の体は白い光に包まれ出した。

ここで俺は、いつの間にか少年の睨みが暖かい瞳に変わっているのに気づいた。

そして私は最後に、

「恭子、本当に、ありがとう…………」

翔一を包んだ白い光は翔一と共に、彼方えと消え去った。


「本当にありがとうございました。おかげで、生きる力を失わずにすみました」

「いえいえ、これが仕事ですから」

「それにしても、一人でこんな仕事をしているなんて送り神は大変ですね」

「そんな事ないですよ。それに、一人じゃありませんし」

「?」

「いえ、今のは聞かなかったことにしてください。それじゃあ、 私はこれで、恭子さんこれから頑張ってくださいね」

「ええ、四宮さん本当にありがとうね」

こうして一人の少女、いや、少年少女は去っていった。




もう、夕暮れ時だ。

「お疲れ様トモくん!」

俺の相棒ユキは満面の笑みをこちらに向けながらいってきた。

「ああ、お疲れ。でも今回は裏切りが起きることもなく戦闘にもならなかったから楽だったな」

「でも、精神的には結構こたえたよね」

「そうだな。だけど、良かったなぁ、あの二人」

「そうだね、ね、私達もする?」

「何を?」

「キ、キ、キス……」

「バッ、バカ!、しねーよ!」

「あは、冗談だよー」

冗談という割には顔が夕日の影響もあるが顔が真っ赤になっている。 まぁ、人のことを言えた義理ではないが……

「ささ、さっさと本部に報告して帰ろうぜ。俺もう腹へったよ」

だめだ、ろれつが回らない。

するとユキはくすくすっと笑いながら、

「そうだね、じゃあ、今夜はカズくんの大好きなハンバーグにしよっか」

「マジ!?よし、そうとなりゃ早くいこうぜユキ!」

「あ、ちょっと、トモくん待ってよー」

こうして、俺達は颯爽と帰路についた。

初投稿です。下手ですが、気楽に読んでいただけたら幸いです。

アドバイスなどいただけたら嬉しいです。

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