第八話 治す。絶対に。
人形ちゃんを抱っこする。止血だけはした。
頭部の破片は食った。
制御さえ戻れば脳も作れるのだが……
戻らないことを嘆いても仕方ない。
半端な状態で作ればおかしな事になる。
なら遺跡に行こう、全て食べてしまったかもしれないが、
残っている可能性はある。
残っていなかったら……どうする?
後にしよう。
『シュルゥ!シャアアアア!』
『シュル?!シャア、シャアアァ?』
うるせぇな、蛇は殺さんから黙れ。
『シュ、シュルシュル!シュルゥ!』
もう良い、無視しよう。
『捕食手』のコントロールが効かないし、
おっさんと男クラスメイトに操られそうだ。
自分に向かって飛んでくるのも時間の問題か。
なら、捨てよう。今は人形を……
戻ってきた。研究所の中は出る前と変わっていない。
あるか?パッと見えるところは全て食べてしまってある。
この研究室をくまなく調べるしかないだろう。
ない。
ない。
見つからない。
地下室があった。入る。
地下牢か?子供の骨がかなりの数落ちている。
無垢な脳を採取し、実験に使っていたようだ。
もしかしたら残っているかも知れない。
探す。
見つからない。
苛立って地下牢を消滅させてしまった。
このクソみたいな記憶の束がなければ……
『もう良いですよ。白樹さま』
人形か……?なぜそんな事を言うんだ。
『私は産まれる事ができました。それだけで良いのです』
そんな訳がない。私が嫌だ。
絶対に治す。
でも……見つからない。
日が開けてしまった。
人形の心臓は動かしているので腐ったりはしないが、
ここまで無いとなると……
『諦めろよ、化け物が。そしてさっさと身体を寄越せ』
『蘇生など夢物語だ。だから死んで後を追え。化け物め』
……何か方法があるはずだ。
何か……そうだ、私の脳を移植すればいい。
『駄目です、白樹さま』
どうなるかは知らないがそれで生き返る。
『嫌です。白樹さま』
さあ、やろうか。
『やめて』
脳が無くてもスキルのおかげで一瞬は保つ。その間に移植すればいい。
『私のせいで……苦しまないでください』
頭は作った。残りは脳を取り付けるだけだ。
死んだとしても、
スキル『祖神の守護』で記憶を引き継いで転生するだけだ。
なら……いい。
『識別名:汐依 白樹の死亡が確認されました。』
『分け与えた事によるスキルの分配が行われます。』
#死
現実世界では何処から何処までを死、とするのかは色々と議論が交わされたりしているが、
この世界では魂と肉体の結合が解かれることを死としている。
『身体絶対制御』のスキルの思考能力は脳が無くても活動できるようにする効果だが、
白樹は人形を救えればそれでいいと、
気が本当に狂ってしまう前に死んでしまいたいと思ったためスキルの効果が停止、
そのまま死に至った。