第六話 後編 邪に堕ちた妖精。
クゥゥケアアアアァアァ!!!!
クゥキョー!キョー……キョー……
雄叫びっぽい鳥の断末魔のような声が響く。
ゴブリンの鳴き声キモいんだけど。
鳥もバサバサと逃げていく音がするし、
……空飛びたいなぁ。
でも人形ちゃん捨ててく訳にもいかないしね。
やるっきゃないでしょ。
ドドドド!
派手に足音響かせて、
「クゥケェエエ!」と鳴き声上げて飛びかかってくるゴブリン。
人形ちゃんが自分の判断で切り裂く。
もう一匹来た。切り裂く。
また来る、無表情で裂く、
来た。裂く。
裂く、裂く、裂く。
緑の血の花が咲き乱れ、
排水溝の臭いのような悪臭が漂う。
私も魔法で援護し、腕とか体の一部だけを『捕食手』で食い荒らす。
ゴブリンの邪魔をする。
足を喰われ転けたゴブリンは他のゴブリンに踏まれ、均されて、死ぬ。
そうやって殺せば記憶は増えないしゴブリン供の足場を悪くできる。
一石二鳥だ。
思いついた事だし、もっと足場を悪くしてみよう。
「一瞬だけ一人で耐えてくれ。できるか?」
「一瞬であれば可能です。ですが、大きな魔力反応、ゴブリン上位種が近くに迫っています。注意してください」
やっと来るのか!遅い!
それは一旦置いておくとしてまずは魔法だ。
橙色、太陽に照らされる土の色を意識。
循環、さらに循環。
足から地面に向けて放出。
そのまま外へと広げ……アニメとかで見る荒野を意識。
ゴガガガガ!
周囲の地面が隆起し、
緑の血で染まった草花達が土の茶色へと埋まれ変わる。
足場が大きく崩れ、空に投げ出される醜い妖精。
地に堕ち死ぬ。
生きていたゴブリンも、
また堕ちてきたゴブリンに踏み潰されて死ぬ。
これでかなりの数削れたんじゃないかな?
「クゥケエッエッエ!!」
「「「「クッキョー;;」」」」
「クウッケケッケッキョー!」
「「「「クキョー……」」」」
なんか話してる。後は任せろ!みたいな感じかな?
任せずに撤退して欲しい。
臭いし。
「クゥッケェエ!」
ドスーンと着地音を響かせて、
隆起した大地に囲まれた緑の広場。
私たち二人のいるプライベートエリアへ、
土足で足を踏み入れる。
見た目はツノの生えた二足歩行で四肢?六肢か、それの太い緑のハエとでも言えば良いのか。
ギョロ目だし臭いし、なんか羽生えてる。
う◯こついてそうなので触れたくはない。
つーかこいつゴブリンなの?関節は人っぽいし、歪んだ長い耳は有るけどほぼ違うよね。
ザリガニとエビよりもっと違うよね。
「クゥケ!ケッケー!」
◯んこついてそうな手を出してクイックイとカモンベイベーみたいな事をしている。
腹立つなぁ……
挑発してるあのウザい面に風穴開けてやる。
汚いから綺麗になるように白い魔力を練る。
暗雲を切り裂く一筋の白い雷光を想起。
放出。
音を鳴らさず、熱を放たない不思議な雷光が夜の闇を晴らし、
ゴブリンを撃つ。
しかし、触れる直前で緑の魔力に触れて霧散。
なんと?
「クゥッケッケッケwww」
うぜぇ……
「白樹さま、概念色で攻撃してください。物質色同士は打ち消し合います」
「そうなのか……あぁ、だから黒ティラノにおっさんの剣効かなかったのか」
「クゥキョー?クッキョ!クッケェェエ!」
人形ちゃんと話している最中であるというのに空気も読まず、キモリン上位種は手を緑に染めて殴りかかってきた。
白い魔力で円球を想像、そして回転のイメージ。
「クッキィ?!」
受け流す。キモリンつんのめって倒れかけるが羽ばたいて体制を直す。
鱗粉っぽい臭いものがばら撒かれる。
というか毒っぽい。
人形ちゃんに『捕食手』噛みつかせて抗体を作る。
自分にも作る。
「白樹さま、私はどうしたら良いでしょうか?」
「あー指示出してなかったな。魔法は使えるか?」
「使えます」
「概念色……黒の消滅でいいか。それを同時に撃つ、数字数えるからそれに合わせて」
「クゥオオオ!」
キモリンが私たちに向けて緑の魔力を放出、
まだ想像はしていないみたいだし、避けるか。
「ふっ!」
人形ちゃんが魔力に向かって魔断鋼の剣を振るう。
何やって……魔断鋼?
つまりは……
「クッキョ?!」
緑の魔力が切り払われ、霧散する。
名前の意味そのままか、魔力を断つ鋼。
っと、それよりも黒色魔力練らなきゃ。
「クッキャ!」
拳が飛んでくる。人形ちゃん避けるかな?
心配なので翼の魔力循環だけ白に変えて盾を作り、翼に被せ、
受け流す。
イメージだけで受け流すよりこっちの方がやり易いな。
「クックー!」
連打、それも全部翼で流す。
邪魔だし臭い、
なので目に向かって『捕食手』をのばして噛みちぎる。
「クッキョォオオ?!」
悶えるキモリン、そろそろいいかな?
「クッキィー!」
緑のハエが緑に発光、食い千切った目が治った。
緑は自然の操作以外に回復があるのか……
「いくよー3、2、1」
「クッキュアア?」
「撃て!」
黒い闇の一閃、いやニ閃が月の光に照らされて駆ける。
そのまま一筋の闇となりキモリンの胸元に風穴を開ける。
記憶が増え……あれ?
『色の同調を確認、分体として認識。
祖神による分体作成許可が発行されました』
……なんだ今さっきの音。お姉ちゃんの声に似てた。
っつ?!
……今更記憶入ってくるのかよ、構えてなかったから驚いた。
『クッキャァアア?!』
え?
『なぜこの私がこの様な白髪のクズになっている?!貴様!何をした!』
はい?
『『ブモオオオオオオ!!??』』
『ガアア!?グゥアアガアアアァアア!』
『『シャ、シャアア?』』
うるさいな、なんだこれは。
『おいこの糞白髪が!なんで俺を殺した!』
『あれぇ?なんであたしが白樹くんにぃい?あはははははは!』
「うるさいっつてんだろうが!!!」
「白樹……さま?どうされましたか?」
「……ああ?なんだよ人形。
お前も私を壊すか?私から私を奪うか?
姉だけではなく私まで!」
「何を仰っているのか分かりかねますが、
私の生殺与奪は白樹さまに委ねられています」
「うるさい、ならば死ね!」
人間の力のリミッターをブチ抜いて全力で殴る。
頭部がスイカ割りの如く破裂する。
……あ?何をやっている私は……?
#記録庫について
私の名は祖なる神。白樹に『身体絶対制御』と『記録庫』を与えた神だ。
本来だったらその姉、白奈に与えるはずだったのだが……それはいい、
白樹に与えられた『記録庫』が呪いのようになっている件についてだな。
本来『記録庫』の保存する領域と人格は分離されていた。さらに言うと、思想の保存なんて効果はなかった。
しかし、異世界に転移した際に転移ギフトが発生する。
これは承知の通りだと思うが、このギフトによって『記録庫』が進化、いや変異してしまった。
あの子の魂は****だからな。
容量が******れたとしてもかなり大きかった。
余剰分が『記録庫』の変異に関わってしまったのだ。
命を断てば、殺せば、人格が増え、それも歴史があり、思想がある、
つまりは、
"自分が殺した者、一人一人に転生する。"
と言ってもいい。
それも自分に殺される運命の人生に一度転生する。
自分に全てを奪われる。
自分以外の人格は自分に殺されている。
やはりほぼ全ての人格は自分を怨む。
それは自らの感情ともなる。
"自分の事を好きでいられるか?"
それはそれはとても恐ろしい呪いだ。
白樹の場合は頼る姉がいれば、弱音を吐くこともできたのだろうが、ここにはいない。
《いるのは人形と敵だけ。》