第三話 魔法と魔物
黒神国とかいう国から脱出して、
エルフの領地に向かうこと数刻、早くも疲れてきた。
翼の付け根が千切れそうだし、一回羽ばたく毎に翼を構成している皮膚が破れそうになる。
鳥や蝙蝠に比べて体が重いせいなのと、
かなり寒いせいだ。
7℃くらいだと思う。
今は全長15メートルの4枚の翼で飛んでいる。
非常に大きいがこれ以上小さくすると身体が重くて落ちるのだ。
羽毛があれば風を防げるのだがそれも無い。
翼だけが冷えていてそこを温めるためだけに代謝をあげているため身体は非常に熱い。
あまりやりすぎると細胞を壊しそうだ。
一度降りようかと思ったその時、私よりさらに上空にいた何かが突っ込んでくる。
右翼で受け流すが翼が大きすぎてうまく流せない。
翼の中央部分から引き裂かれる。
何かは突っ込んだ後直ぐに反転しまた突撃してくる。
避けれない、ので右翼を身体から外して何かに被せて一瞬遅らせる。
その隙に落下、下は森だ、恐らくもう追ってこないだろう。
木に当たる前に左翼をパラシュートみたいにして落下速度を軽減したがそれでもかなり怪我をした。
ミンチにならなかったので身体的には全く問題ないが、服がズタズタだ。
まずは……この翼邪魔だな、食うか。
しかしここは何処だろうな、騎士のおっさんの知識には載っていない。
あまり飛んでいないとはいえ、山を越えた先だ。
仕方ないのかもしれない。
……まずは身体を冷まそうか、熱を持ちすぎた。
水分も取れてない、おっさんは焼いて隠してたから血が飲めなかった。
「結構、綺麗だ。やはり人の手が入っていない方がいい」
水の叩きつけられる音が聞こえたので、
その方向に進むと滝があった。
岩肌を削るように飛沫をあげて落ちる水。
足元には丸い石が敷き詰められていて程よく涼しい。
休憩するには丁度いい場所だ。
消化液を出さないようにした首から生やした食事用触手……次からは『捕食手』と呼ぼう、それを川につけて水を飲む。
次に服を脱いで川の中に入る。気持ちいい。
おっさんの鎧は飛ぶのに邪魔だから捨てたので、
今は学校の制服の下に来ていたボロボロのカッターシャツにボロボロのスラックスのみだ。
動きづらいので袴とかスカートとかに変えたいのだが。
ガサササッ
草むらを掻き分ける音、なんだあれ。
二足歩行の……豚か?
それが二匹いる、二人と言った方がいいのか?
腹は膨らんでいるが筋肉質で脂肪だらけのキモい感じではない。
不衛生な感じもあまりしないし。
「フゴ、フグ!フガァァア!」
「フグガァ!」
斧を振り上げ、私めがけて突っ込んでくる。
ここで病魔を撒きちらせば生態系を壊しかねんな、
まず人間の病気が二足歩行の豚に効くかも怪しい。
それなら!
『捕食手』を豚の足に噛みつかせて引っ張り、自分を水の中から引き上げる、『捕食手』の方はそのまま足を喰い千切らせる。
「フゴォオオ!?」
脱いだ服の近くに置いてあったおっさんの剣を持ち、
走りがけに一閃、しようとしたが筋肉に防がれ腹半ばで止まる。
「フゴォ!」
ブン!と勢いよく風切り音を鳴らせながら斧を上段から振り下ろされる。
避けなくていいので避けない。
右腕が飛ぶが無視し、左手で豚の目を刺し骨を内部で生成、掻き混ぜて殺した。
「フガ?!フギィィイ!」
『捕食手』に足を喰い千切られ残った方の豚が、
仲間を殺され、激情したらしく足の惨状を無視して突貫してくる。
『捕食手』の口を広げつつ、もう一本の『捕食手』で豚の背後の足場を掴んで自分を引き寄せる。
こっちの方が速い。
抜け駆けに脚の健を骨剣で断ち切り、背後から頭を『捕食手』に丸呑みにさせて喰わせる。
これにて終了だ。
そして豚の記憶が増える。
豚の記憶なんていらないけれど、豚にも豚の歴史があるらしい。
こいつらは豚の大群からはぐれた奴ららしく落ちこぼれのようだ。
私が久々の餌だったのだろう。
餌にはならなかったけれど。
右腕は回収し、くっ付けた。
二足歩行の豚は……豚人でいいか。
それは焼いて食べた。美味しかった。
あと心臓に当たる部分の横に石が入っていた。
透明な石だ、なんだろう……魔石というらしい。
おっさんの知識便利だな。
魔力を増大させる力があるらしいが、
その効果を出すには杖にしなければならず、
それを作るのに魔力伝導鋼とやらと、木がいるらしい。
でもこいつらは身体の中に取り込んでるんだよな……
それよりもまずは魔力について知らないと。
おっさんの知識を見て……お、あった魔法使いのお爺さんから講座を受けてる話だ、
多分おっさんはこれ覚えてなかったんだろうな、『記録庫』意識しないと出てこなかったし。
『生物には普通の血管と魔力の流れる血管みたいなもの、魔力回路がある、魔物以外は自分の意思で回さにゃならないが、魔物は魔石があるためそれが魔力を循環させる心臓の役割を果たすのじゃ。ワシも魔物に産まれたかったのう』
早速魔石を体内に取り込む用事が出来たな。
まあ次だ次。
『魔力を意識できたかな?』
うむ、出来た。身体弄りすぎて魔力回路がぐちゃぐちゃになってるのを直す方が大変だった。
『ならばそれを手の平に集め、放出するようにする。おっと、その直前ぐらいで止めるのじゃ、概念色と物質色については習っておるな?その中の自らの色を想像し、魔力の色を変えるのじゃ』
待て待て、なんだ概念色と物質色って。
検索……母親に絵本読まれてるのが出てきた。
これでいっか。
『まぁま、お絵本読んで?』
『良いわよ、じゃあこの絵本にしましょっか』
『わぁい!色のお絵本だいすき!』
『むか〜しむかし、黒の神さまと白の神さまは争っていました。
黒の神さまは世界を守るために、白の神さまは世界を壊すために。
黒の神さまはこのままでは戦いが終わらないと思いました。
そこで黒の神さまは自分を分けて数によって白の神さまを倒そうとしました。
そうして産まれたのが時と空間、そして重力の神さまでした。
白の神さまもそれを真似するように、自分を7つの色に分けました。
しかし、こうなっても一向に争いの収まる気配はありません。
黒の神さまの分身、概念の子たちは数こそ少ないものの力が強かったのです。
そして白の神さまは……あら?』
『すぅ、すぅ』
『寝ちゃったのね……よく寝てよく育ちなさいな』
ふむ……概念の子たちとやらが概念色とやらで残った七色が物質色か?
あとおっさん子供の頃かわいいな。殺しちゃったけど。
魔法講義の方に戻ろう。
『色を変えたら次にしたいことを想像するのじゃ、転移であれば空間に引き寄せられる感じじゃな』
想像するだけで良いのか、簡単だな。
物質色、なんていうんだから白色だったら物作れるんじゃないかな?服を作りたい。
その前に魔石を取り込んで心臓ないけど心臓の右に魔石をつける。魔力回路が爆発しそうだが、いじって治す。
魔力を意識、
魔石が心臓のように魔力を押し流すようにイメージ。
循環、循環。
循環させつつ魔力の色を白と黒に変えていく。
手の平の上に魔力を吹き出させて魔力だけで服の形を作る。
『魔力制御』のおかげか簡単だ。
ここまでする必要はないと思うがこうした方が良い気がする。
そして服を想像。集めた魔力が白く発光。
出来た。
新雪のように白く、前には黒いクロスの入ったショートケープに、
バッククロスになった白いブラウス、バッククロスで背中の見える部分はショートケープで隠れるようにして、
下は真っ白でふんわりとしてて、足が開けれるように横にはスリットが入ってるロングスカート、
なかに長いキュロットスカートを付けてるのでセクシーさは皆無。
というか私は男だし男に女のセクシーを求めてはいけないと思う。
女に見られることが多すぎるから私って言ってるだけだしな。
姉ちゃんに似てるから自分の見た目は好きだけど。
バッククロスのブラウスにしたから翼を生やしたままにできるのだ。セクシーさはいらないのに、セクシーだ。
空飛ぶ何かに襲われた時に盾にもなった翼は有用だし。
次は森を抜けようか、その途中で鳥を倒して翼にしたら空飛んで行こう。低空飛行で。
#色の絵本
黒神国は白神国と200年もの間冷戦状態であるため、白色、そして七色を排斥し、それらの色は悪であるとしている。
故にこの絵本は創作であり本当の神話ではない。
本来の神話では白と黒の神は双子であるとされ常に共にあるとされる。
本当は仲良しなのだ。