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 KMB-06は自らが運転できるように改造した運転席に来ると、体を固定する為に座席に作った固定器具に自らの体をはめ込んだ。カチリと音がし、アームによってKMB-06が運転席に完全に固定された。同時にオプションパーツ用ソケットに、コードが接続され、兵員輸送車の操縦系につながった。


『出発スルゾ。シートベルトヲ閉メロ』

 兵員輸送車に搭載されているスピーカーからKMB-06の声が響き、クレハは言うとおりにシートベルトを締めた。



 スクラップ待機場のゲートの横に詰め所がある。そこに兵士が詰め、彼等が交代でゲートを監視、管理し許可の無い者の進入を阻む。

 そんな詰め所にある薄汚れていた警備室に一人の兵士が雑誌を見ながら鼻歌を歌っていた。若いが軍服をだらしなく着崩し、どう見ても全うな兵士には見えない。

「ふんふ~ん。ふふふふ~ん」

 安物のしかも相当年代物の椅子に腰かけ、スクラップ待機場に設置されている監視カメラを操作するコンソールに足を乗せていた。コンソールの上には灰皿の上にタバコの吸殻が山になっている。

 (いやぁ。今月は臨時収入が入ってうはうはだな。おっと)

 その兵士は自分の懐に入っているマネーカード事を考え、思わず顔が緩む。

 そこでピッと音がすると扉が開かれ、彼の同僚である中年の兵士が一人入ってきた。こちらの兵士も軍服の前を閉めていない不調軍人だった。ただ、こちらの兵士の場合、腹が出てきた為、軍服の前を合わせるのがきつくなってきたという理由もある。

「おい、顔がにやけてるぜ。どうせ胸ポケットの中身の事でも考えてたんだろ?」

 だがそう言っている本人ですら顔がにやけている。

「まったくうまい商売だよな。監視カメラのメンテとちょっとトイレに行くだけで、大金が手に入るんだから。それでお客さんは帰ったのか?」

「ククク何言ってるんだ。俺達は、真面目に仕事をしてるだけだぜ?客?こんな時間にこんな場所に来る奴なんて居ないだろ?何か大急ぎで出て行ったぜ」

「クククそうだったな」

 そして再び、座っていた兵士がにやけながら大金の入ったマネーカードを何に使うか考えていた時、中年の兵士が声を上げた。

「ん?おい、A53-37で何か動いたぞ」

 監視カメラに付けられていたモーションセンサーが何かが動いた事をメインスクリーンの隅に表示していた。

「ちっ!また死にぞこないのスクラップが動き出したか?A53-37だなメインスクリーンに映す」

 コンソールに乗っけていた足を下ろし、カタカタと操作する。するとスクリーンにスクラップ待機所のどこかにある風景が映った。


 素行不良の兵士といえど、そこそこ働いておかないと、公私共においしいこの職場を離れることになる。それは惜しい。

 第13スクラップ待機所は、軍にとってただスクラップを廃棄するだけの場所ではない。人材に関しても廃棄する場所なのだ。素行不良の兵士、何かしら大失敗した仕官、そして上官や仲間からハメられた者。ここは軍のリストラ部屋なのである。

 上昇志向の人物なら第13スクラップ待機所にまわされた時点で除隊を考えるが、そんなものが存在しない兵士にとってはある意味天国のような職場だった。

 やる事は、スクラップの山の巡回警備。決められた順路に従いスクラップ待機場を歩き回ったり、警備室で適当に監視カメラの映像を確認したり、たまに来るスクラップを満載したトラックを適当に通すだけ。楽なものである。

 スクラップの山に、ミリタリーマニアに売れそうな物があれば密かに持ち出して裏のミリタリーショップなどに売り飛ばして小遣いを得る事も出来る。

 そのような場所だからこそ、今回の様に裏の人間を密かに入れることもある。もちろん、そういう場合は上司である第13スクラップ待機所の管理責任者から話がくる。この場所は、根っこから腐っているのだ。

 

 画面に、震えているように見えるスクラップの山が映った。時折上の方にからスクラップがごろごろと転がり落ちていく。

「何だ?地震か?」

「馬鹿、地震だったら、ここも揺れるはずだろうが!多分埋もれているスクラップが動き出したんだ」

「A53-37。…Aの53か。ちっ奥の方じゃねぇか面倒くせぇ」

「まったくだ。しかし行くしかねぇだろ。大事なお仕事だからな」

「だな…」

 だが、不良兵士が二人思い腰を上げようとした瞬間、画面にスクラップの山が爆発した。

 ドンッ!

 カメラの映像からほんの少し遅れて爆発音と振動が詰め所を襲う。

「うぉ!」

 コンソールの前に座っていた若い兵士がコンソールにしがみ付き、中年の兵士はしりもちを付いた。

「何だ!何が起きたっ!」

 あわてて若い兵士がメインスクリーンを見るが画面は真っ黒になっており左上に'no signal'と表示されていた。

「早く別の監視カメラに繋げろ!」

「ああ!」

 若い兵士がすばやくコンソールを操作して、A53-37があった場所が見える監視カメラの映像をスクリーンに出す。

 映った画面にはもうもうと煙を上がる煙が映っていた。監視カメラが設置されていたはずの鉄柱は半ばから折れ、カメラがある筈の先端が地面に突き刺さっている。

「一体何が起きたんだ…。とりあえず警報出せ!」

「わっ分かった!」

 若い兵士がコンソールにある透明なプラスチックカバーをめくり、下にある赤いボタンを押す。

 すぐさま警報が第十三スクラップ待機場に鳴り響く。中年の兵士もコンソールにあるマイクを掴むと放送ボタンを押した。

「異常事態発生!A53区画にて原因不明の爆発が発生。待機中の兵士は至急現場へ向かい原因を調査しろ!これは訓練ではない!繰り返す!これは訓練ではない!」

 人数は少ないといっても軍の施設であるこの場所でも、それなりの数の兵士が詰めている。

 警備室につながる廊下のほうからは碌に身支度も整っていない兵士達がばたばたと走っている音がした。

 その様子に腐っても兵士かと中年兵士が思っていると、若い兵士が大声を上げた

「何だ!ありゃ!」

「どうした」

 声につられて、中年兵士がスクリーンを見るとその光景に驚愕した。

 ボロボロのシートを纏った何かが爆煙の中を突きに抜けてて出てきたのだ。

 その何かは、すぐに監視カメラの前を突っ切って消える。

「くそっ!何処行きやがった!おいっ!早く別のカメラに切り替えろっ!」

 中年兵士は、若い兵士をどやしつけた。

「おっおう!」

 スクリーンが切り替わり、別の監視カメラの映像が写される。

 走り回っている何かからボロボロのシートは次第に剥がれていき、その下にあったものが街頭に照らされ露になっていく。

「ありゃ装甲車…いや旧型の兵員輸送車か!」

 ボロボロのシートの下から現れたのは、中年の兵士が言うとおりディープグリーンの装甲に砂埃と赤錆を纏った旧式の兵員輸送車だった。

 八輪あるタイヤを唸らせて風のようにスクラップ待機所の敷地を駆ける。

 中年兵士が、走っている物が兵員輸送車である事を看破できたのは、スクラップの中にあるお宝を見つけて売る為に古い軍事兵器を調べていたからだ。

「このルートだと…ヤバイですよ!こっちに向かってきます!」

「はぁ!マジかよ!クソッ!」

 中年兵士は悪態を突くと再びマイクに飛びついて叫んだ。

「総員聞け!スクラップ待機場内を所属不明の旧型兵員輸送車が暴走している!しかもそいつはこの詰め所に向かってきている!多分外に出る気だ!なんとしてでも止めろ!でなきゃ俺たちゃ全員軍法会議に掛けられるぞ!」




 第十三スクラップ待機場の兵士達が謎の爆発と正体不明の兵員輸送車の出現に右往左往している頃。

 一方兵員輸送車の中では…。

「モウ耳ヲ塞ガナクテ良イゾ」

「あ~すごい音だったわね」

 猛スピードで第十三スクラップ待機場の敷地内を土煙を巻き上げながら出口に向かって突き進む兵員輸送車。

「直したって言ってたけど、本当よく動いたわね。タイヤなんて劣化して使い物にならなかったんじゃないの?」

「コノ兵員輸送車ノタイヤハ、内部ニ特殊ナ樹脂デ作ラレタ、ハニカム構造体ガ入ッタ特別ナタイヤダッタノデ問題ナカッタ」

「へ~」

 と暢気に会話をしていた。


 そして、暴走兵員輸送車がモーター音を唸らせて第十三スクラップ待機場のゲートの前500メートルほど手前まで来た。ここからゲートまでの道は一直線で、第十三スクラップ待機場の出口がKMB-06の高感度カメラに映った。

 第十三スクラップ待機場唯一のゲートと言っても、簡単な開閉バーがある程度の簡素なもので、車なら簡単に突っ切れそうな頼りないものだ。

 ゲートには、使い古された四人乗りのジープがゲートを塞ぐ様に置かれ、その前には低いながらも土嚢が積まれていた。兵士達はゲートの前にバリケード兼簡易的な陣地の様なものを作っていた。

 詰め所の上におかれたサーチライトが点され、ゲートへ向かっている兵員輸送車を明るく照らす。

 KMB-06はカメラの感度を下げ、兵員輸送車のフロントガラスに被された装甲の隙間から、しっかりとゴールを睨む。

「止まれ!止まらないと撃つぞ!」

 サーチライトの横に立ち、拡声器を持った中年兵士が声を張り上げる。

「あいつら撃つって言ってるわよ!この車大丈夫なんでしょうね!」

「大丈夫ダ。タダ万ガ一ノ時ノ為ニ頭を低クシテ、衝撃ニ備エロ」

「…分かったわ」

 クレハは若干不安そうにしながらもKMB-06の指示にしたがってシートベルトにしがみ付き、頭を低くした。


 一向にスピードを落とさない装甲車に中年兵士は舌打ちすると、土嚢の後ろに立っている兵士達に命令した。 

「全員撃てっ!タイヤだ!タイヤを狙え!絶対にあれを外に出すなっ!」

 その瞬間クレハの乗った兵員輸送車に向けて一斉にライフルブラスターが放たれた。

 放たれた弾は次々に兵員輸送車に当たるが、せいぜいぼろいシートを引き剥がすが、装甲にこげ後を残すことしか出来ない。腐っても装甲車両だという事だろう。

「下手糞!タイヤを狙えって言ってんだろうがっつ!馬鹿共がっ!」

 見かねた中年兵士が、自分のライフルブラスターを構え、タイヤを狙い。撃った。これでも落ちぶれる前は、射撃に定評のある兵士だった。酒で身を持ち崩してこんな場所に送られたが、接近してくる装甲車のタイヤを撃つ簡単だ。

 撃った弾は、見事に左前輪に当たりパパンと言う音をさせてバーストさせる。

「どうだっ!」

「無駄ダ」

 だが、タイヤの内部には、たとえタイヤがパンクしたとしても走れるようにハニカム構造体が入っている。KMB-06は意に解する事なくまっすぐにゲートへと突っ込んだ。

「こっこっち来るぞ!」

「にっ逃げろっ!!」

 土嚢の後ろに陣取っていた兵士達も一切の躊躇も無く突っ込んでくる兵員輸送車を見て、正面から逃げ出した。

 兵員輸送車はそのまま簡易陣地に突入。土嚢を弾き飛ばし、そのままジープへと突っ込んだ。

 ドギャン!

 圧倒的に質量の多い兵員輸送車にものすごいスピードで突っ込まれたジープは、大きくひしゃげながら跳ね飛ばされ、ゲートの開閉バーをへし折りながら第十三スクラップ待機場の外へ冗談の様に転がっていった。

 兵員輸送車はそのままゲートをくぐり、街のある方へと出て行った。


 中年兵士は、走り去る兵員輸送車に向かってエネルギーが底に付くまでライフルブラスターを乱射するが、弾は一発も当たることなく、そのまま彼の視界から消えた。

「くそっ!くそっくそーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 兵員輸送車が見えなくなると、中年兵士はエネルギーが切れたライフルブラスターを地面に叩き付けると、その場で頭を抱えて座り込んだ。

「なんてこった…。もうおしまいだ」




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