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KMB-06に似た外見を上げるとしたら、ジャンパーソンのアールジーコ。又はギアーズオブウォーのジャックを思い浮かべていただければ良いと思います。

 KMB-06は、数百年前に作られた名メンテナンスボットだ。名メンテナンスボットとは言っても数百年前に生産は終了され、現存している物もみな博物館やコアなコレクターに保管収蔵されている。そしてどれも実際に稼動可能なものは存在しない。目の前の例外を除いて。


 しかし、クレハにとってKMB-06は周囲に立って、彼女を見つめているゾンビロボットと違いは無い。悲鳴を上げるのは当然だ。しかも別のサポートボットの皮(外装)かぶっていたのだ。たとえるならゾンビの内側から更にグロテスクな化け物が皮を剥ぎ取って素顔をさらした様なものだ。しかもデザイン的にもサポートボット開発の過渡期のぼっとである為、色々中身が剥き出しなので悲鳴を上げても無理は無い。

 KMB-06は困ったように周囲を見回すが周囲にいるのは彼が修理したロボットしかいない。それもボロボロで恐ろしい姿をした。

(助ケニキタト言ッタノニ。ナゼ?)

 KMB-06はどうする事も出来なくその場に浮いている事しか出来なかった。

 

 クレハが落ちつたのは、彼女の喉がかれるほど叫んだ後だった。

「落チ着イタカ?」

 ぜいぜいと息を吐きながらへたり込んだクレハに向かってKMB-06は言う・

「ええ。けど、あなたは何?軍でも警察でも無いわよね?それにあなた達が私を撃った事を忘れてないわよ」

 問い詰めるようにクレハはKMB-06に質問した。

「私ハ、私ガ何者カハ分カラナイ。撃ッタノハ、オ前ヲ置イテ行カセル為ダ。足手マトイハ捨テルダロウ?」

「何あんた。壊れているの?」

「自己診断デハ、エラーハ無イ」

「じゃあ何であたしを助けたのよ?」

「…オ前ハ'絶対ニ生キ延ビテヤル'ト言ッタ。ナラバ仲間。ダカラ助ケタ」

 少しだけ間を空けてKMB-06は答えた。\\

「たったそれだけで?」

 クレハはKMB-06と話しながら、ロボット達に撃たれた傷の手当を行っていた。とはいっても手当てする道具などこんな場所には無い。だから、クレハは迷う事無く自身のドレスの汚れの少ない部分を選んで裾を引き裂き、撃たれた傷口の上の部分をキツク縛り上げる。

 頼りない電灯の元、ドレスのスカートが裂かれて少女らしい健康的な足が晒されるが、今それを見る事の出来る人間は居ない。

「私ノ目的モ同ジ、生キ延ビル事。仲間ガ居ル方ガ、生キ延ビル確立ハ上ガル。ソレヨリ早ク移動スルゾ。アイツ等ガ戻ッテクルカモシレナイ」

「あんたサポートボットの癖に偉そうなのね。よっと。でいい隠れ家でもあるの?」

 頭部が存在しないアンドロイドの手を借りて立ち上がりながらクレハは言う。

「アア、アル」

「じゃあ案内して頂戴」

 

 KMB-06に案内されたのは、クレハが連れてこられたスクラップの山の向こうにあるまた別のスクラップの山だった。この場所には電灯は無く、遠くの街頭から届く光でかろうじてクレハにもそこにある物の大体の形が分かる程度だった

「ほんとにここにあるの?」

 目を凝らしてみるがクレハにはスクラップの山しか見えない。

 周囲にはKMB-06とクレハを支えているアンドロイドだけ。他のゾンビロボット達の大半はKMB-06によってスクラップの山の中へ戻された。

 

「ココダ。見ロ」

 KMB-06がそういうとスクラップの山が不気味に蠢いた。

 その様子は先ほどのゾンビロボットの出現を彷彿とさせたが、今回のは無造作に転がっていたスクラップが一斉に動き出し、隠されていたランプドアが現れた。大きさとしては、二人の人間が余裕で並んで入れるほどの大きなものだ。

「これって旧式兵員輸送車じゃないの?」

 ランプドアを見てクレハは驚きながらも一発でそれが何か看破した。

「分カルノカ?」

「ええ、父が軍人でミリオタでね。私は興味ないんだけど、よく父が基地の写真や精巧な模型を見せてくれてたのよ」

 クレハは苦笑しながら言った。


 この兵員輸送車は、この場所がスクラップ待機場になる前に保護用のシートを掛けられ、非常時には、簡単な整備をすればすぐに使えるようにモスボール状態で置いてあった物だ。だが時間が経ち、スクラップ待機場の管理はずさんになると、兵員輸送車の隣にまでスクラップの山が築かれるまでになった。そしてだんだんとそのスクラップの山が崩れていき、最終的にこの兵員輸送車を覆うまでになってしまったのだ。そこから、さらに時間が過ぎ、その場所に兵員輸送車があった事は人々から忘れ去られてしまった。

 

 ピッと音がすると上部から外側に倒れるようにハッチが開いた。KMB-06が開くように命令を出したのだろう。

 クレハは、その時にドアが軋み一つ上げ無い事に驚いた。それは時の流れを感じさせない滑らかなものだった。

「入ッテクレ」

 ハッチが完全に開ききり、車内灯がうっすらと点く。

「なにこれ…」

 そこはクレハが知る兵員輸送車の中身とはまったく別物だった。薄暗くてよく分からないが色々な物がごちゃごちゃとしており、人の入るスペースの殆どが改造され、座れないようになっていた。

「ココ座レ」

 KMB-06に示されたのは、ランプドアを入ったすぐ脇にある唯一改造されていなかった兵員用の椅子だ。首なしアンドロイドに手伝ってもらい座る。

 そうするとクレハの移動を手伝っていた首なしアンドロイドは出て行った。

 そしてゆっくり静かにとランプドアが閉まる。閉まったランプドアの向こうからスクラップが蠢く音がし、ランプドアがスクラップによって隠された。

 ランプドアが閉まってから少しすると薄暗かった兵員輸送車内部が一気に明るくなった。

「眩しっ!」

 いきなり明るくなったのでクレハは目を細め、目が慣れるのを待った。

 慣れてくると目をぱちぱちを瞬きし、改めて車内を見渡した。フル装備の兵隊が10人くらい余裕ではいるはずの車内には、クレハには良く分からないロボットのパーツや配線で改造され、クレハの見た感じB級映画に出てきそうな狭い研究施設といった感じだった。

「ほんとあんた何者?」

 クレハは自分の目の前で浮いているソレに話しかけた。

「私ハ暁重工社製メンテナンスボット KMB-06」

「ああ確かそんな商品名だったわね。そうだ、まだお礼言ってなかったわね。ありがとう。私の名前はクレハ・サイオン・クロードロン。貴族であるクロードロン家の長女よ。よろしくね」

「マダ助カッタ訳デハナイ。奴ラハ、死体ヲ確認スル為ニ、マタ来ルダロウ。ソモソモ何故アンナ場所ニ居タ?」

「私にだって分からないわよ。パーティーに出てその帰り道に襲われて…それで。何でなのよ!何であたしが誘拐されて殺されなきゃならないのよっ!」

 危機的状況から一時的にも安全な場所に来たせいかクレハは一気にわめき始めた。

 KMB-06は困惑しつつも落ち着くのを待つことにした。

「ふぅ。とりあえずこのスクラップ待機場を管理している兵士に保護してもらえば…」

「ソレハ止メタ方ガ良イ。ココノ兵隊ハ不良品ダ」

「どういう事?」

「ゴミノ不法投棄、横領、侵入者ノ黙認。碌ナ兵士ハ居ナイ。ココノ兵士ノ前ニ出テ行ケバ、高確率デ証拠隠滅ノ為ニ殺サレルダロウ」

 KMB-06はクレハに背を向け、何かごそごそと探しながら言った。

「そんな!ならどうしろって言うのよ!」

「コノスクラップ待機場カラ脱出シ、オ前ガ信頼デキル人間ニ保護シテモラウシカナイダロウ」

「そんな!足がこれじゃ、この場所からすら出られないわよ。そうだ!あんたみたいな骨董品が動いてるくらいなんだから、使える通信機とかないの?それでお父様に連絡してここに来てもらえば!」

「ナイ」

「なんでっ!」

「人間ト通信スル必要ガ無カッタカラダ。…アッタ」

 探していた物が見つかったのか、KMB-06は白い箱を持ってクレハの前に持ってきた。

「コレヲ使エ」

 KMB-06は白い箱をクレハに渡した。

「これって、ファーストエイドキットじゃない!助かるわ!」

 恐る恐るその箱を開けてみると中には真空パックされた包帯や薬など、救命用具がぎっしりと詰まっていた。

 クレハは、顔を喜色に染めるがすぐに曇った。

「でも。これ使えるの?一体何年物のファーストエイドキットよ?」

「元々コノ車ニ搭載サレテイタ物ダ。シカシ真空パックハ、破レテイナイ。薬以外ハモンダイナイ筈ダ」

「家に帰るまでの我慢ね。しょうがないか」

 クレハは、とりあえずファーストエイドキッドがいつの物かと言う疑問を胸の奥に封印し、ファーストエイドキットの中から真空バックされた包帯と同じくパックされた脱脂綿、消毒用アルコール、鋏を取り出しててきぱきと自分で治療を始めた。簡単な応急処置などは父親から、非常事態が起きてもある程度は大丈夫なように厳しく仕込まれていた。

「話を戻すけど。じゃあ私はこの場所から出られないの?」

「イヤ可能ダ。コレニ乗ッテ脱出スル」

「これって?」

「コノ兵員輸送車ニ乗ッテ、スクラップ待機場のゲートヲ突破スル」

 その答えに治療している手を止めてクレハは目を丸くした。

「えっだってこの車、スクラップに埋もれてるんでしょ。それにこれ、そもそも動くの?」

「動ク。私ガ直シタカラナ」

「あなた何でも直すのね」

 クレハは治療を再開しながらKMB-06に言った。

「生キ延ビル為ナラ何デモスル」

 KMB-06は、そう言うとまるで恥ずかしがるようにクレハに背を向けた。その様子がつぼだったのかクレハは小さく笑った。

「フフッ」

「ダガ一ツ問題ガアル」

「何?」

 クレハはそう言いながら太ももに真空パックされていた包帯を巻きながら聞いた。

「何処ニ行クカダ」

「…私の家に行きましょう。移動時間から考えて家ならそう遠くないし、家まで行けばお父様が居るから確実に安心と言えるわ。…よし出来た」

 応急処置が終わり、クレハの太ももにはには真新しい包帯が巻かれた。

「デハ場所ヲ教エテクレ」

 そう言うとKMB-06はごちゃごちゃとした車内から今度は薄汚れたプレート型形態汎用端末を取り出してクレハに渡した。

 クレハが受け取った端末はすぐに起動し、一枚の地図を表示した。

「あれ?私の家が無い」

 行き先を指定しようとプレートの上を指が上下左右に動かして表示されてる地図を動かすが、クレハは自分の家を見つける事は出来なかった。

 クレハが何で?と思いながらも探している時、そのデータがかなり古いものである事に気が付いた。

「…これ何年前のデータよ。あたしの家が表示されて無いじゃない。となると、え~っと。ここがあそこで、となるとこの道があれだから。私の家は…。ココね」

 クレハは自分の屋敷があるであろう場所をタップする。

「ソコカ。分カッタ」

 KMB-06は、クレハから携帯端末を受け取り、元の場所に戻すと、狭い車内を悠々と動き運転席へと移動した。

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