表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/41

2

 ヴン!

 キシュュュン!

 ディム!

 突然男達の周囲にあるスクラップの山が騒がしくなる。スクラップの山がイルミネーションを施されたかのように光点が増えていく。

「何だ!?」

「囲まれてる!?」

「全員ライト点灯!何が起こってるか、確認しろ!」

 隊長と呼ばれた男が言い切る前に部下の男達は急いでライトを点灯させ音のしたスクラップの山へと向ける。

「馬鹿なっ」

「ヒッ!」

 明かりに照らし出されたのは、スクラップの山で蠢くスクラップ達だった。

 足の無い人型ロボットがスクラップの山を抜け出すと、山の斜面を滑り落ちた。滑り落ちた時にただでさえ壊れていると言うのに更にどこかのパーツを痛めたのだろう。ギギギと異音を発しながら這いずり始めた。

 別の下半身しかないロボットは足を男達の方に向け、踵を地面に引っ掛けるように這いずる。

 スクラップの中にはサポートボットも多数含まれていた。それらは、ふらふらと不安定にゆっくりと飛ぶ。

 元が何だったのか分からない配線だらけの'何か'が体をうねらせて地を進む。

 それらのすべてが誘拐犯達へと向かって進んでいく。

 その不気味な様子を冷静に見ていた誘拐犯のリーダーは迷わず命令を下した。

「撃て」

 その言葉を待っていたとばかりに誘拐犯達は一斉に発砲し始めた。

 スクラップ置き場に似つかわしくないライフルブラスターの銃声が響き、銃火に晒されたロボット達が再び動かぬスクラップへと戻っていく。

 だが、次から次へとロボット達がスクラップの山から這い出し、または山を越えて現れる。

「くそなんだってんだ!こんなの聞いてないぞ!」

「シネシネシネェ!」

 ロボット達はまるでゾンビの様にわらわらと現れ、誘拐犯達はまるで悪夢の仲に放り込まれた様な錯覚に陥る。

 クレハもさっきまでの気丈な様子とは変わり、ぶるぶると震えていた。

 救いは相手が武装していなかった事だろう。だが…。

 ある程度スクラップを片付けた時、誘拐犯の一人が奇妙なゾンビロボットを発見した。

 発見したのは最初に破壊したアンドロイドと同じウェイトレスアンドロイドだった。

「あいつブラスターを持っているぞ!気をつけろっ!」

 稼動も何も関係ない。アンドロイドの右肩口に真っ直ぐ前に向けてボロボロのライフルブラスターが溶接されていた。まるで子供がただかっこいいからと言った理由で無理矢理くっつけたような出来だ。

「メニュ…ド…ゾ」

 そういいながらアンドロイドは上半身を誘拐犯の一人に合わせる。それは、ライフルブラスターの照準を、その誘拐犯に向けるのと同義だ。キュゥゥウンとエネルギーがチャージされる音が銃声の轟く中かすかに聞こえ、聞いた誘拐犯が急いで銃口をそのアンドロイドに向けた。

 だが、次の瞬間アンドロイドに継ぎ接ぎされていたライフルブラスターが爆発した。

「何だ!?」

 別方向に対して攻撃していた誘拐犯が何事かと叫んだ。

「スクラップに何故かライフルブラスターくっ付いていて、それが爆発したんだ!」

「なんだそりゃ!」

「さぁな。だが武装したロボットがいる!気をつけろ!」

 それから、誘拐犯達の方に向かってくるスクラップの中に数は少ないが、ブラスターを無理矢理装備させられたスクラップが混じりだした。

 だが、しばらくスクラップ相手に戦っていたが、一向にスクラップ達が撃って来る事は無かった。いや撃とうとはしていたが、結果として撃ててはいなかった。最初のウェイトレスアンドロイドと同じように爆発するか、カチカチとトリガーを引く音しかしない。

「あいつら馬鹿だぜ!ボロイ武器撃って自爆してやがるっ!」

「元々ここにあったスクラップの銃だ!撃てるほうがおかしいぜ!」

「クソッタレ!あせって損したぜ!」

「無駄にエネルギーを使うな。近づいてくる奴から確実にしとめておけ」

 誘拐犯達は突然スクラップ同然のゾンビロボット達に襲撃された衝撃から立ち直ろうとしていた。

 確実に仕留められる距離までゾンビロボット達を近寄らせ、そしてブラスターで破壊していく。ゾンビロボットの残骸により、新たなスクラップの山が出来、ゾンビロボット達はその山を越えて誘拐犯達に近づこうとする。

「リロード!」

 誘拐犯の一人のライフルブラスターのエネルギーパックが底を付いた。エネルギーパックを外し、予備のパックへと交換しようとベルトに手を伸ばす。

「ゆっくりで良いぜ。どうせ、うぺぎっ!」

 撃てない。そう言おうとしていた男の頭が爆ぜた。飛び散った血が、リロードをしていた誘拐犯の覆面を赤く染める。

「えっ!?」

「いやぁああああああああああああああああああああ!」

 ぴしゃりと顔の掛かった血にクレハが悲鳴を上げる。

「カリムッ!」

「誰だ!誰が撃った!」

「あいつだ!あのロボットだ!」

 指差されたのはフヨフヨと浮いていたサポートボットだった。一見ぼろいサポートボットだったが、胴体の上部ボロボロのハンドブラスターが溶接され、銃口が発射したことを示すように赤く光っていた。

「あいつがっ!」

 そのボットめがけてブラスターが殺到する。瞬く間にそのサポートボットはボロボロになって地面へと落ちた。

「気をつけろ!あいつらの中に撃てるブラスターを持っている奴がいるぞ!」

 一気に弾幕の密度が増した。だが、誘拐犯達はすでに失敗を犯していた。誘拐犯達は自分達が確実に当てられる距離までゾンビロボット達をひきつけてから破壊していた。

 しかし、それは銃を持ったゾンビロボット達にとっても同じ。誘拐犯達を確実に当てられる距離まで近づいている。しかも、誘拐犯達の破壊したゾンビロボットの残骸の山が遮蔽物となり、近づいてくる敵に対して攻撃がしにくくなっていた。

 ビシュゥゥン!

 新たに近づいていた両腕の無いゾンビロボットが新たに作られたスクラップの山越しに肩に溶接されていたブラスターを発砲する。

「がっ!」

 それにより、また一人脱落する。

「あいつら、俺らが壊したロボットを盾にしてやがる!」

 ここでゾンビロボット達が一気に攻勢に出た。

「…仕方がありません。包囲網を突破し、脱出します。対象を忘れるな」

「「「了解!」」」

「立てオラ!」

 クレハを拘束していた誘拐犯がクレハを無理矢理立たせる。だがその時、クレハに向かってゾンビロボットのブラスターが放たれた。

「きゃあああああ!」

 放たれた弾はクレハのドレスを突き抜け足へと命中した。

 文字通り身を焼かれるような痛みがクレハの右太ももに感じた。

 クレハは足を撃たれた事により立つ事が困難になり、その場にへたり込む。

「おいっ!立てっ!」

「あっ足がっ!」

 拘束していた誘拐犯に二の腕をつかまれ乱暴に立たせようとするが、クレハは立ち上がることが出来ない。

 足から流れ出た血がクレハの着ていたドレスのスカートを赤黒く染める。

 それを見た誘拐犯のリーダーは、ある決断を下した。

「仕方が無い。そいつは捨てていく。殺しておきたいが、エネルギーが惜しい。この様子ならこいつらが始末してくれるだろう。行くぞ」

「「「ハッ!」」」

「えっ!そんな!待ちなさいよ!」

 クレハの声を無視して誘拐犯のリーダーは手榴弾を取り出すとゾンビロボット達が一番手薄だと思われる箇所に投げた。

 手榴弾はすぐに爆発し、周囲にいたゾンビロボット達を一気に吹き飛ばした。

 すぐさま誘拐犯達はその吹き飛ばした場所へ走り出しライフルブラスターの集中砲火して道を切り開く。

 ゾンビロボット達も逃がすまいと吹き飛ばされたあたりに殺到するが、ライフルブラスターの掃射で道を塞ぐことは出来ない。

 誘拐犯達はゾンビロボット達を振り切り、自身たちが乗ってきたワゴンタイプのフロートカーにたどり着き、スクラップ待機場から脱出する事に成功した。


 一方スクラップ待機場に放置されたクレハは…。

「いやぁああああああああああああああ!」

 案の定、ゾンビロボット達に囲まれた状態で叫び声をあげていた。


 突然誘拐されレイプされかけたと思ったら実はホラー映画の中でした。なんて言う100回転生したとしても一回あるか無いかの様な状況なのだ。錯乱しても、それは仕方が無い事だろう。


「もうやめて!私が何したって言うのよ!何が悪いって言うのよ!死にたくない!死にたくなんて無いわよ!!チクショウ!黙って殺されるなんて思うなよ!このゾンビロボット共がっ!」

 倒れたままで地面に落ちていたサポートボットの残骸を持ち上げ最後まで諦めないと悲壮な覚悟を決め暗闇で周囲のゾンビロボットを睨む。

 だがその覚悟は無駄に終わる。

 パッと今まで消えていた明かりがつき、周囲が一気に明るくなる。

「落チ着ケ。助ケニ来タ」

「えっ!キャッ!」

 そのたどたどしい声は自分が持ち上げていたサポートボットから聞こえてきた。微妙に甲高い声且つ、少しおかしな抑揚で喋っていた。

 あまりの驚きに、持っていたサポートボットを落としてしまった。

 落とされたサポートボットは、そのまま地面に落下すると思われたが、地面に落ちる直前にふわりと浮かび上がる。そしてそのままクレハの目の前まで来ると、ばらばらと覆っていた装甲を外していった。

「あっ」

 中から出てきたのは、古い古いメンテナンスボットだった。

 彼女がソレが古いメンテナンスボットだとわかったのは、彼女の父親が古いミリタリーグッズのコレクターだったからだ。前に父親が目の前にあるメンテナンスボットの古いカタログを物欲しそうに見ていたのだ。

 暁重工社製メンテナンスボット KMB-06。それがそのボットの商品名だ。メンテナンスボットの歴史の中でも名機と名高く、メンテナンスボットの歴史を語る上で必ずといって良いほど出てくる程の物だった。

「きゃぁああああああああ!」

 そして再び叫び声をあげた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ