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「おい!ヤツは見つかったか!」

 デットロリポップ海賊団の頭は、イラついた様子で怒鳴る。

 ここは、デットロリポップ海賊団が乗っている駆逐艦のブリッジだ。

「へい!それがまだ…」

 それに部下はビクビクとしながら答えた。

「馬鹿野郎!ここは俺達の庭だろうが!女一人どうして見つけられネェ!」

「でっですが、あいつが逃げ込んだ場所は細かいデブリが多く発見は困難かと…」

「それなら別の場所は探したんだろうな?かなり損傷している。必ずどこかで修理しようとしているはずだ」

「はい。ですが、闇市で情報が無いか探りましたが、脱出艇を目撃したヤツも新しく来た女の話もありませんでした」

 闇市とは、このリンデット宙域を根城にしている海賊相手に商売する為に非合法な商人達によって作られたコロニーだ。現在は野放図に拡張工事を繰り返された結果、元の姿を保っては居ない。内部は当然法に縛られない無法地帯ではあるが、商人達が海賊達と契約しているので荒っぽい事は荒っぽいが、秩序が無いわけではない。そもそも闇市を支配する商人達と契約しなければ闇市に近づくことすら出来ない。以前闇市を襲撃して、闇市そのものを奪い取ろうとした海賊団があったが、闇市はこれ幸いと、その海賊団をなぶり殺しにして、見せしめにした事もある。

 デットロリポップ海賊団もその闇市を利用している為、荒っぽい事はしない。

 闇市の酒場に居れば、このリンデット宙域界隈での大体の出来事を知る事が出来る。特に女に関する情報などすぐに出回る。海賊は、基本男所帯で女が居たとしても、男達に舐められないように大抵凶暴で、容姿もごついのが多い。闇市にある娼舘に新しい娼婦が入ったら一週間はその話題に持ちきりになるほど、女と言うものに飢えている。ゆえに、見慣れぬ女が闇市に来たとしたら話題に上がらないのはおかしい。

「となるとだ…」

 宙域図を画面に投影して海賊団の頭はそれを睨みつけ、考える。

 一切の情報が無いという事は、他の海賊のテリトリーに居ないという事になる。他の海賊達も自分達の拠点にしている場所を知られたくない。なので拠点の周のデブリに紛れ込ませるようにレーダーを設置している。その網に一切掛からずに何のステルス処理もされていない脱出艇がそこを通り抜けられるとは思えない。そうなれば逆に隠れている場所が絞られる。

 海賊の手の出せない場所。この界隈に闇市を除いてそんな場所はひとつしかない。

「ここだ。ヤツはこの中に居る」

「そこは…あのイカレタ科学者の研究所がある場所じゃないですか。ヤツの縄張りに許可無く入れば問答無用で攻撃されますよ…って事は、あの糞女は死んでるのでは?」

「かもな。だが、確認したわけじゃねぇ。たとえあの糞アマの死んでいても、奴の死体を犯らねぇとこの怒りは収まらねぇ!」

 ドンッ!

 怒りのあまり艦長席にある肘掛を殴りつける。その音にビクリとブリッジにいる部下達の体が震える。

 これが死んでも相手をしゃぶり尽くすロリポップ海賊団の醜悪さ。他の海賊たちからも嫌われているゆえんだった。

「どんな手を使ってもいい。あのキチ○イ野郎のところに探りを入れろ。出来なかったら殺す」

「はいっ!」

 返事をすると部下は脱兎の如くブリッジから出て行った。


 その頃、プロフェッサーの研究所では、駆逐艦デア・ルーラーの修理が進んでいた。

 ボットであるサスケは、24時間ほとんど休憩無しで修理が可能で、しかも元々プロフェッサーが所有していたメンテナンスボットに駆逐艦の整備データをインストールし、手を増やした。さすがにジェネレーターなどのデリケートな部分は、サスケ自身が担当しなければならないのは変わらないが、それ以外の部分の整備までし始めた。サスケは、かつて自分が所属していた軍の兵器が壊れたままと言うのがイヤだった。サスケはジェネレーターの修理を終えるまでに兵装以外は、可能な限りこの駆逐艦を修理する事に決めていたのだ。


 プロフェッサーは、タイムマシンの製作上最大の問題点となっていた高出力のジェネレーターの目処がつき、日々嬉しそうに研究所に篭っている。

 今も真っ白い研究室で、部屋の色と同じ真っ白い宇宙服のような特殊作業着を着て作業していた。

 アラームが鳴り、プロフェッサーの視界に昼食を示すアイコンが現れる。

「おっとそろそろ食事の時間じゃな!」

 それを見たプロフェッサーは意気揚々とその研究室を後にする。研究室の出入り口にあるクリーニングで作業着を浄化し、いかにもマッドサイエンティストが使っていそうな雑多な部屋へと戻る。そこで特殊作業着を脱ぐと何時もの小汚い格好に戻る。


 彼が研究室から出てくるのは、食事の時位なものだ。その食事の時もサスケに修理の進行状況を直接聞ける事になっている為、足取りも軽い。

 いつも食堂へは、年甲斐も無くスキップで現れるほどだ。


 食堂の中に入るとそこには、昼食の準備が出来ており、テーブルの上には促成栽培の野菜炒めと合成肉のポークチョップ、それに軽く焼かれたパンが良い匂いを漂わせながら皿に乗って置かれていた。

「おお!」

 早速がっつこうと席に着き、ナイフとフォークを構えるプロフェッサー。

「行儀悪いですよプロフェッサー」

 それをキッチンから出てきたクレハが嗜める。クレハは今、ツナギにエプロンと言う変な格好をしている。そのつなぎは、普通の服しか持っていなかったクレハに、この研究所で動きやすい様にプロフェッサーがプレゼントしたものだ。

 クレハの手には自分の分の料理が載ったトレーを持っている。

「ふん。そんなもん気にする必要も無いわい!」

 プロフェッサーは、鼻で笑うと、肉を切ると口の中に放りこむ。そのままむぎゅむぎゅと咀嚼する。

「うむ!お嬢ちゃんの料理はおいしいのう!」

「だったら。調味料も用意しなさいよね。私は、もう同じ様な味付けで飽きてきたわ」

 クレハは自分の皿にある切り分けたポークチョップにフォークに肉を突き刺しながら言った。口に運ぶ動作も何処か憂鬱そうだ。

「ええのう。そろそろ行商人が来る頃じゃから。そん時にでも買おうかのう」

 クレハが、プロフェッサーと取引し、この研究所に住み始めてから、何度か海賊と思われる一団がプロフェッサーの研究所の周りをうろうろしていたが、研究所周辺には大量のトラップやら、砲台やらが設置されている事を知っているのだろう。一定の範囲内には、入ってこなかった。



 クレハは、食事と洗濯、そして自分部屋の掃除をするくらいで基本暇だ。なので暇な時間は、ストレッチなどをしながらサスケがロンドモス号からコピーしたコンテンツを部屋で見ていた。サスケがコピーしていたデータは以外と膨大であり、全てを見るには10数年は掛かる。

 コンテンツのほとんどは、ミドロス連邦製の作品だ。自身の出身国であるトルーデとは、ほぼ断交状態である為、クレハは今まで、ミドロス連邦で作られたゲームやドラマ、アニメなどのエンターテイメント作品と触れ合う機会すらなかった。

 母国圏とは一風変わったエンターテイメントに新鮮な驚きと共に楽しんだ。

 やはり価値観の違いによるものだろう。

 特に驚いたのが、惑星独立戦争を描いた映画だ。トルーデ王国では、悪逆女王は悪役として描かれているのだが、ミドロス側では、ただの一国家元首として描かれているのが多かった。それに、トルーデ王国では、悪逆女王の姿は大抵ぶくぶくと太った女性が演じる事が多いのだが、それが、すらりとした美人として描かれていたのだ。最も驚いたのが、ミドロス星系は、"悪逆女王を非難していない"という事だ。惑星独立戦争の事を検証したドキュメンタリー番組を幾つか見て知ったのだが、トルーデ王国は、碌に事件の調査をしないまま犯人を女王と断定し、処刑。事件を無理矢理終わらせたという事だった。


 当時ミドロス側も同盟軍として調査団を派遣し、しっかりと調べ、必要であれば容疑者を取り調べ、犯人を国際裁判にて裁こうとしていた。だが、それらの要求は、トルーデ王国に拒否され、一方的に結果だけを突きつけられた形となっていた。


 とは言え、トルーデ王国が協力を拒否したミドロス側もただで引き下がるわけには行かない。当時の戦場にはトルーデ軍以外にも様々な星系の軍が戦っていた。当然軍同士の連携をとる為に通信を行っている。ミドロスは、当時の戦場に飛び交っていた通信を全て解析した。もし仮に女王が鹵獲したプラネットインテリトゥムの発射を命じたとしたら、その命令は当然旗艦からプラネットインテリトゥム搭載艦へと送られる。ならばその命令の通信があるはずだと。

 周辺で戦っていたミドロス艦の通信データを全て洗い出し、そうと思われる通信を探った。結果、偶然近くに居たミドロス軍の情報収集艦が、トルーデ軍の旗艦ロイヤル・オブリージュからプラネットインテリトゥム搭載艦に向けて通信がされている事が分かった。

 これだけ見れば、女王自身がプラネットインテリトゥム搭載艦に命令を出した様に見える。が、その内容は当然高度な暗号化が施されている為、当時のミドロス軍では解読が出来なかった。分かったのは旗艦ロイヤル・オブリージュから、プラネットインテリトゥム搭載艦へ、何らかの通信が送られた事のみ。

 それでも、不断の努力により当時の飛び交う通信から、プラネットインテリトゥムの発射を命令した第一容疑者が浮かび上がった。

 その容疑者は、何と女王の弟ウィリアム…後のトルーデ王国国王ウィリアム一世だった。

 だが、トルーデ側は、突然プラネットインテリトゥムの発射を命令したのが女王であると女王の弟ウィリアムが発表、そしてあろう事か既に処刑済みだとして、事件の完全終了を一方的に宣言した。

 

 もちろんミドロス側は、その発表はおかしいと声明を出した。その発表は到底納得できるものではなく、第三者たる調査団を受け入れ再度事件を検証すべしと。

 だが、その声明に対し、ミドロス側の予想の斜め上を行く対応をとった。

 トルーデ上層部が行ったのは、トルーデ王国側とミドロス側との情報の操作と遮断。

 トルーデの主要メディアは、女王の非道さをことさら喧伝し、ミドロス側が賠償金を得る為に不条理な言いがかりをつけていると。

 それは、滅ぼした地球連邦が各惑星国家に行ったのと同じ手段。情報を封鎖し、自分達の都合の良い様に国民を操ろうとしていたのだ。

 それによりミドロス側は激怒。戦争の一歩手前まで行ったの言うのだ。


 正直それはクレハにとって衝撃的事実だった。そんな事、母国の学校では教えられた事は無い。

 ウィリアム一世は、現代トルーデ王国の祖で敬うべき存在だと教えられていた。だが、地球破壊の第一容疑者だったなんてそんな話は露とも知らない。

(嘘でしょ)

 クレハの中であった悪逆女王のイメージにひびが入り、ガラガラと音をたてて崩れる。とは言え彼女の中で新たなイメージは湧いて来ない。それはまるで題名が書かれた台座だけしかなく、飾られるべき作品の存在しないモニュメントの様になった。


 それから、クレハは貪る様にミドロスで製作された独立戦争に関するコンテンツを漁った。戦争に参加したミドロス兵の証言を纏めたもの、存在していたはずなのに、唐突に消えた艦隊の話などのオカルトチックな物まで多岐にわたる。

 これ程何かに興味を持って調べ物をした事は、クレハが生まれてから初めての事だった。

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