21
それは、一メンテナンスボットの目から見た惑星独立戦争の話だった。
今も昔も宇宙での戦争は、艦隊戦をメインに行われている。宇宙空間にビーム砲を装備した艦艇を並べ、遠距離から撃ち合うのだ。
その為、戦場においてまず真っ先に必要なのが使える艦の数、撃てる砲の数だ。艦の数が多ければ、戦略の幅が広がり、撃てる砲の数が多ければそれだけ敵に打撃を与える事が出来る。
両軍は共に、戦いは数だという事は、歴史からイヤと言うほど分かっていた。だが、それには資源も、資金も、時間もそして何より多くの人員が必要だ。
一つの艦船を動かすのには多くの人員がいる。だが、人員を集め、戦える程度に艦を操れる人間にするには時間も資金も多大に掛かる。
軍備の拡張を行う為には、艦船製作コストの削減と艦の運用に必要な人間の数を少なくする事が必須だった。結果無人化技術、特にボットの技術が急速に発展した。
暁重工社製メンテナンスボットKMB-06も時代の恩恵を受け、開発されたボットの一つだ。
機械に任せられそうな場所は全て機械に任せ、人間による高度で柔軟性の必要な決断が必要な箇所に人間の配置を行い、人員の大幅な削減を成功させた。
ボットの使用を前提設計された駆逐艦は、乗組員が大体数十名で済んだ。ボットが採用される前に設計された駆逐艦には、200名以上の人間が必要である事を考えると大成功と言っていいだろう。
同時にそれは、両軍の戦闘がより激しくなった事を意味していた。
サスケが、生産され配備されたのは一番戦闘が激しかった惑星独立戦争中期の事だった。生産されたサスケが乗ったのは、同じく新造された駆逐艦ロイ・フォドモス。奇しくもサスケが今プロフェッサーに修理を頼まれた駆逐艦デア・ルーラーと同型の駆逐艦だった。
ロイ・フォドモスには、短期艦長教育を終えた若い艦長と軍の訓練学校を出たばかりの乗組員を乗せて出発した。
若い乗組員が多いのは、当時前線では一隻でも多くの艦艇を必要としていた為、未熟としかいえない若者達にも戦場へと送らざるを得なかったのだ。
後に分かった事だが、当時の地球側も同じような状況だったという。正にお互いに身を削りながらの総力戦だったのだ。
駆逐艦の任務は多い。哨戒に護衛、偵察、そして高い機動力で砲火激しい戦場を駆け抜け、敵艦へと肉薄し、重量子ミサイルを叩き込む事。
ロイ・フォドモスが最初に割り当てられた仕事は、最前線ではなく、その手前にある兵站補給基地の警備だった。さすがに最前線にいきなりド新人を送り込むような無謀な事は軍司令部もしなかった。
ロイ・フォドモスに配属されてはいたが、当時のサスケは、何の変哲も無い一メンテナンスボットでしかない。当時乗っていた艦の艦長とは、顔も合わせた事も無かった。
サスケが良く会っていたのは、艦のメンテナンスを担当する技術士官だった。機械任せで艦のメンテナンスは出来るが、それをチェックし、メンテナンスしているボットに異常が無いかを確認するのには、どうしても人の手が必要だった。
若い技術士官は、よくメンテナンスボット用の待機室に並ぶサスケ達を前に愚痴を言っていた。それは、艦内の人間関係の愚痴だったり、早く最前線に行きたいなどの最前線を知らない新兵らしい夢を語ったりしていた。
それから一年ほど、兵站補給基地での警備と、訓練を行った後、とうとうロイ・フォドモスは最前線へと送られる事になった。
その事を、技術仕官は、メンテナンスボット達の前で嬉しそうに話していた。
最前線へと送られたロイ・フォドモスは、呆気なく敵に撃沈された。
「撃沈されちゃったの!?」
その話を聞いたクレハは、驚いた。
「ああ、駆逐艦の側面に敵戦艦クラスのビーム砲を受けて沈んだ」
「それで、良く無事だったわね」
感心したように呟くが、サスケはそれを否定した。
「無事ではなかった。殆どの機能を喪失し、宇宙空間へと放り出された。それから…」
その攻撃により、サスケは、中核部品以外の殆どを破損し、撃沈されたロイ・フォドモスの残骸と一緒に宇宙空間を漂流した。
当時のサスケはロイ・フォドモスが撃沈された時の事を良く記録していた。とは言っても、待機室で待機している時に敵のビーム砲が他のメンテナンスボットごと吹き飛ばし、その衝撃でサスケは固定具がはずれ、待機室の中をビリヤードのボールの如く壁にぶつかりながら飛び回り、最後は駆逐艦のジェネレーターの爆発に巻き込まれて、艦の壁面へとめり込んだ。というだけなのだが。
戦闘ではトルーデ王国軍側の勝利となり戦線を押し上げる結果となったが、トルーデ王国軍の損害も多い。
サスケの漂う宙域には両軍の撃破された艦艇の残骸が多数漂流していた。戦闘が可能な艦や損傷したが航行が可能な味方の艦は、残骸の無い先の宙域で補給と修復を行っている。
サスケが宇宙を漂っているとトルーデ王国軍の特殊工作船トラッシュイーターが現れた。トラッシュイーターは、船の残骸などを集め、その残骸を船内で解体する事が出来る特殊な船だ。
例え残骸であろうともそれは資源の塊である事には代わりが無い。この時代、戦場に捨て置かれるのは、死体だけといわれており、戦場で用意できる物は、兵站艦隊の中に居る特殊工作船により回収され、使えるパーツは取り外され、使えない物は一旦素材に戻して、船内に部品工場を持つ特殊工作船ウィッチキーンによって新たな部品へと生まれ変わるのだ。
トラッシュイーターに回収された当時のサスケは、自身と同じメンテナンスボットであるKMB-06に修理され、また別の艦へと送られた。メンテナンスボットに休む暇など無い。
次に配備されたのは、戦艦だった。
その戦艦ロングランスは敵の砲撃により、艦外でダメージコントロールを行っていたメンテナンスボットが破壊され、艦に配備しておかなければならないメンテナンスボットの定数を割ってしまってい、その補充として送られた。
駆逐艦が、小型でスピードに特化した艦であるとするのなら、戦艦は、装甲火力に特化した艦だ。駆逐艦とは一線を画す威力を持ったビーム砲を複数搭載し、敵に対して強力な一撃を加える事を仕事とする。
戦場では複数の戦艦を並べて敵艦へ向けて一斉射撃を加える。大航海時代に大砲を装備した帆船にちなんで戦列艦とも呼ばれる事もある。
そんな戦艦は駆逐艦より二倍以上大きく、その分艦のメンテナンスを行うメンテナンスボットの数は多い。
戦艦では、メンテナンスボットを統括管理する技術士官が複数居る。これは巨大な戦艦をメンテナンスするボットの数が多く、尚且つ艦内に複数メンテナンスボットの待機場所があり、一人では管理する事ができないからだ。
サスケは、戦艦のメインビーム砲の近くにある待機所へと配属され、そこで戦艦のメンテナンスをする為のデータをインストールされた。その後さらに、メインビーム砲に点いての細かい整備に関するデータがインストールされる。これは、待機場所ごとにメンテナンスする場所が、おおまか決められているからだ。もちろん非常時ともなればそのくびきは外される。
今度のサスケの上司となったのは、恰幅のよい中年技術仕官だった。
彼は、仕事の合間にサスケ達メンテナンスボットを整備しながら、絶対に自分はこのクソッタレな戦場から生きて帰るんだと語っていた。彼は、ハイスクールを卒業した頃に、戦争が始まった。戦争が始まると彼は、即座に軍に志願した。大学へといけるほど頭が良いわけではなく、就職先に困っていた彼にとって軍は、ある意味救いだった。もちろん英雄願望もあった。促成の軍教育を終えた彼は、軍艦に乗せられ戦場へと出た。しかし戦場で待っていたのは、鉄風雷火の現実だった。
彼の乗っていた軍艦が沈んだ事もある。何度も死ぬような目にもあった。何度も止めたいと思った。こんなクソッタレな場所から早く逃げ出したいと。だが、時勢が軍を抜けることを許さない。そんな事をすれば脱走兵として処分されるのは目に見えている。
だからこそ彼は必死に軍務の間に勉強してメンテナンスボット担当の技術仕官となった。メンテナンスボット担当の技術仕官ならば、戦闘中は基本的に安全な艦の内側に配置され、艦の損害状況が逸早く分かる場所に居る事が出来る。いざ艦が危なくなったら即座命令を無視して逃げる為に技術仕官になったとサスケ達メンテナンスボットに語った。
そんな生に執着していた中年技術仕官も敵艦の砲撃により呆気なく死んだ。
会戦に参加していた敵艦から放たれたビーム砲が、弱っていたシールドを貫き、彼の居る待機室へと直撃したのだ。
サスケは丁度その時、他の仲間と艦のビーム砲の砲筒の交換を行っていた為、難を逃れた。
ロングランスは何とか生き残ったものの、多くの戦死者を出し、艦にも大きな穴の開いた状態では戦闘には参加させる事は出来ない。ロングランスは、人員の補充と修理の為に後方のドック入りする事になった。
後方行きの艦は、大体一~二戦闘分の弾薬と食料などの物資を残して他の戦闘艦へ渡すのが当時の慣例だった。当然メンテナンスボットも必要最低限分を残し、他の艦へと譲り渡される。サスケも、これからも戦場で戦いを続ける事になる別の艦へ異動が決定された。
独立戦争は終盤になるにつれて激しさを増す中、サスケは色々な艦、戦場を渡り歩いた。
「そうやって戦い抜いていくうちに、何故か私は軍内で有名になった」
「有名?何で?」
「色々な艦を渡り歩いたと言ったろう?当時のメンテナンスボットは大体4~5艦ほど渡り歩いたら、殆どのボットは失われるそうだ。戦闘によってか事故によってかでな。そんな中、私は、153隻の艦を渡り歩いた。撃沈で38隻、大破で39隻、中破で56隻、その他の理由で20隻渡り歩いた」
「…何その奇跡みたいな数字」
「天文学的確立だそうだ。…そしてとうとう私を配備したいと言う艦はなくなった。私が配備された艦は、必ず撃沈されるという噂を持つ死神として名を馳せていたからだ」
「ああ…軍って意外と信心深いのよね。お父様も験担ぎを大事にしていたわ」
そういうサスケは少し残念そう言っているようにクレハには聞こえた。自身は最大限の職務を果し、生き残って(?)居るだけなのに、周囲から疎まれるというのは、一体どんな罰ゲームだ。
「お陰で私を引き取ろうとする艦は、なくなった。そして最後に…」
そこまで語るとサスケは、続きを喋るのを止めた。同時に、作業していたコンソールに表示されていた文字の洪水も止まる。まるでそれ以上は語る事が出来ないとでも言う風に。
「さて、ここで分かる事は全て調べた。この話の続きはまた今度だ」
異能生存体ならぬ、異能存在体サスケですな。




