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駆逐艦を捕らえる触手のように見える通路を通ってクレハ達は、中へと入っていった。
「案外中は明るいし、綺麗なのね」
駆逐艦の中に入ると、中はクレハの想像に反して綺麗なものだった。
通路は明るく、所々不自然に色の違うパネルが嵌まった通路が延びている。壁や床には、色の分かれた複数のラインが引かれ、時折、そのラインに数字が書かれていた。
クレハの想像では、駆逐艦の中は薄暗く、天井や床からコードが垂れ下がり、空気がよどんでいる。SFホラー映画に出てくるような物。
今は、メインのジェネレーターが故障しており、エネルギーを艦内に流されていないが、プロフェッサーの研究所からエネルギーの供給を受けている。なので、重力発生装置は動かしていないので無重力ながら入る事が出来る。
「当然じゃ。メンテナンスボットに掃除をさせたからの。それに普通のメンテナンスボットでも出来る部分は修理させた」
サスケは、駆逐艦に乗り込むと通路の中をビュンビュンと飛びまわりながら、破損状況はチェックしていく。その姿は、機械らしからぬ生き生きしているように見えた。そして、船内を区画ごとに分ける隔壁の横へとたどり着く。
ボディからコードを伸ばし、隔壁の横に付いている端末へと接続する。しかし、駆逐艦のコンピュータは何の反応も見せない。明かりが点いている事から、エネルギーが来てないという事は無いはずなのだが。
「無駄じゃ。この駆逐艦のコンピュータには、もう緊急廃棄プログラムが実行されてて何も残っておらんぞ。明かりが点いているのもワシが無理矢理改造したからじゃ」
緊急廃棄プログラムとは、簡単に言えば削除プログラムだ。インストールされているコンピュータにあるOSからちょっとした文字データまで、その全てを削除する。削除するだけではない。さらに敵にコンピュータを鹵獲されたとしても復元されないように、エネルギーが続く限り、無意味なデータで記憶装置を上書きし続け、絶対に復元出来ないようにする。
軍の基地や軍艦などに存在する全てのコンピュータにインストールが義務付けられている重要なプログラム。
「さすがトルーデ王国宇宙軍。一刻を争う事態だと言うのに、きっちりと緊急廃棄プログラムを使用し、退艦したという事だ」
その声は何故か嬉しそうだ。
「ブリッジは無事か?」
端末からコードを抜いて振り向くと、サスケはプロフェッサーに聞くいた。
「一応無事じゃったが何しに行くんじゃ?あそこは緊急廃棄プログラムで特に念入りに消されて、何のデータも残ってはおらんぞ」
「無事ならいい。次はそこへ行く」
そういうとサスケは、唐突に通路にあるダクトの蓋を開けるとその中へともぐりこむ。そこは、本来は艦内に空気を循環させる為のダクトなのだが、緊急時には、メンテナンスボットや、医療用ボットが通れるように設計されていた。
「あっ!ちょっと」
正にあっという間の早業であった。サスケの入ったダクトはどう見ても人間が入れるほどの大きさではなくクレハは追う事すら出来ない。
「アヤツ、はこの艦がよほど気に入ったと見えるのう。ついて来い。こっちにブリッジに行くルートがある」
プロフェッサーが軽く、床を蹴ると、壁に用意されたスライドグリップを掴んだ。するとプロフェッサーが掴んだグリップがレールに沿って動き出し、プロふぇサーの体を引っ張って行く。
(サスケ貴方、私を守ってくれるんじゃないの?何勝手に一人で行動してるのよ!)
「ええ」
あっけに取られつつも、先行するプロフェッサーと同じようにスライドグリップを掴んで後についていく。
幾つかのスライドグリップを乗り換えつつ、進んでいくと一つのいかにも厳重そうな扉の前に着いた。
プロフェッサーは扉の横についている端末に怪しげな装置を取り付けるとなれた様子で操作する。すると瞬く間にピーと言う電子音が響き扉が横にスライドして開く。
「これは…」
「うわぁ!」
クレハの目に飛び込んできたのは、ブリッジ内にあるモニターが全て起動し、尚且つ意味不明な文字の羅列が高速にスクロールしている風景だった。
この時代の艦船にはまだ、空間ディスプレイが装備されておらず、携帯端末のような物理的な画面が存在していた
サスケはそれを艦長席のあたりで浮遊しながら見ていた。
「言ったじゃろう。ここにはもう何のデータも残っておりゃせんよ。大方損傷状況を調べようと思ったんじゃろうが、無駄じゃったな。損傷はおろか艦名すら分からんのじゃぞ」
「いや、分かった。この艦は、トルーデ王国軍第2358艦隊所属のフィオランド級駆逐艦デア・ルーラーだ。独立戦争に参加し、その際の被弾によりジェネレーターが暴走を開始。戦線から離脱。その後、ジェネレーターの爆発する可能性が高かった為、艦を放棄したそうだ」
「は?嘘じゃろ。ワシがコンピュータを調べても、何も分からなかったのじゃぞ!」
プロフェッサーは、怒鳴った。プロフェッサーが、この駆逐艦を見つけてから自身の研究所と接続し、研究所のエネルギーで艦の機能を一部復旧させて調べたのだが、それでも殆ど分からなかった。
「この頃の緊急廃棄プログラムには、プログラムが実行されたとしても、味方が回収する可能性に備えて、廃棄プログラムが実行される直前の最低限の情報は暗号によって残されているのだ」
「くくくははははは!何とそんな事が!これはいいわい!あははははは!」
「何がそんなにおかしいんだ」
「おかしいんじゃない。嬉しいんじゃ。これでお前が、この艦を修理出来る事が確信できたわい!」
そこで、クレハがふと疑問に思ったことを言った。
「そういえば、プロフェッサーは何を研究しているの?」
「ワシが研究しておるのはタイムマシンじゃ」
「タイムマシン!プッアハ!アハハハハハ!そんなタイムマシンって!」
それを聞いたクレハが、体を縮めながらおなかを抱えながら笑う。
タイムマシン。それは、宇宙へと生存圏を広げた人類がいまだに開発できない機械。この時代、SFといえば、もはやタイムマシンと地球外原生種ネタ位しか題材が残っていない。宇宙ステーションでのウィルス汚染による人間の化け物化や、宇宙戦争はただのフィクション(F)であって、SFとは呼べなくなっている。
クレハが笑っているのも無理は無い。それこそ、鉛を金に変える研究をしていると言っている様なものだ。
今では、タイムトラベルは、不可能であると言う論文が提出され、それが学会で広く認められた事もあり、タイムトラベルを研究する科学者も皆無だ。 皆無のはずだった。
だが、何事にも例外はある。その例外がプロフェッサーだ。
「ふん!貴様も、あの下らん論文を真に受けた口か!」
今まで何人もの人間に同じような事を言われたのだろう。腹を抱えて笑うクレハを忌々しそうな顔で見つめるプロフェッサー。
「では、可能なのか?」
「もちろん可能じゃ!」
サスケが聞くとプロフェッサーは、胸を張って答えた。
「その研究を完成させる為には、この艦を修理せねばならんのじゃ!で、どうじゃ?修理は出来そうか?」
「使える設備と修理物資は何がある?教えてくれ」
「これじゃ」
懐からデータメモリーを取り出すとサスケに差し出す。受け取ったそれを自身の読み取り端末に入れると、内容を精査する。
「…修理は可能だが、少し足りない物資がある」
「何じゃ」
「それは…」
修理に足りないものについて話し合っている。そんな話を聞いても面白くも何とも無いクレハは、ブリッジの中を見て回る。惑星独立戦争時代の映画は沢山製作され、その中でもブリッジのシーンは沢山あった。実際に惑星独立戦争に参加した、この船と同じフィオランド級駆逐艦を使った映画なども話題になった事がある。
クレハも、旧兵器好きの父親に付き合わされてその映画を鑑賞した。その映画の中で見たブリッジと、今自分が立っているブリッジが同じものだと思うと不思議な感じがした。
映画で見たものとは違い、このブリッジは生活感の用な物があった。それは、端末のキーボードの脇に張られた、何かが書かれた古ぼけた付箋だったり、クルーが座っていたであろう椅子にあるちょっとした傷などだ。
その時ふと、ブリッジにある壁がクレハの目に入った。モニターやら計器やらで埋めつくされていたブリッジの中でそこだけが何も無い壁だった。
実はその壁は何も無いのではなく、ブリッジ内にある機器のためのメンテナンスハッチなのだが、特に兵器とかに興味の無いクレハには分かるはずも無い。
メンテナンスハッチには、よほど急いでいたのだろう、文章が殴り書きされていた。それを何とはなしクレハは読む。
"我らが戦友よ。共に戦えた事、誇りに思う。安らかに眠れ。トルーデ王国と女王陛下に栄光あれ"
それを見たクレハは、なんとも微妙な思いに駆られた。
書いたのは当然この艦のブリッジクルーだろう。もしかしたら艦長かもしれない。共に戦ってきた戦友であり、自分達のもう一つの家である艦を捨てなければならない兵士達の艦に対する最後の感謝の言葉。それには感動すらする。だが、同時に悪逆女王と名高い当時の女王を称える文言には嫌悪感に似た何かを感じる。
(悪逆女王の一体どこがそんなに良かったのかしらね?)
悪行しか聞かされた事の無い古い女王に対して、どうしてそこまでの忠誠と献身を奉げられるのか理解できない。
現在のトルーデ王国も王政をしいているが、国民は王に対しては敬意を抱いてはいるが、忠誠を誓っているというわけではない。
クレハとてトルーデ王国の一貴族として国王に仕えているという立場だが、国王について忠誠などという時代後れな物を持ってはいない。ただ立場上上位に居る人間程度の認識だ。
(そういえば、サスケもこれを書いた人達と同じ時代を過ごしていたのよね…)
「よし、それなら修復計画が立てれそうじゃな!早速戻って計画を立てるとしよう!サスケ君は、このまま艦のチェックをしてくれたまえ!頼んだぞ!」
「分かった」
いつの間にか、サスケはプロフェッサーにサスケ君と呼ばれていた。
話し合いが終わったのか、興奮した様子でプロフェッサーは、研究所へと戻っていった。
サスケはブリッジに残って、修理に必要な情報を集めている。
「ねぇサスケ。本当貴方何者なの?そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
そんなサスケに、クレハは聞いた。
何故か、さりげなくクレハに惑星間独立戦争のことを勉強するように促し、異様に興奮しながらこの艦の修復しようとする不思議なメンテナンスボット。彼は一体何者なのか。無性に気になった。
サスケは、クレハの方を振り向くと少し悩んだようだが
「いいだろう。少し長くなるぞ?」
「かまわないわ。どうせ、今私に出来る事は無いんだしね」
「そうか…私は、トルーデ王国軍所属の暁重工社製メンテナンスボットKMB-06。私が生産されたのは戦争の中期に製作され、即座に戦線へと送られた。私は、当時の色々な艦に配属され、働いた。とは言っても、その頃の私に明確な意思など無かったがな…」
サスケが語り始めた。
そろそろストックが尽きそうです。




