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コンコン!
「おい起きろ。おい!」
クレハが薄っすらと目を開けると、カプセルベッドの蓋を叩くサスケの姿が映った。
「サスケっ!」
ゴンッ!
「ウッ!」
夢から覚め、サスケを見た瞬間、クレハは、サスケに抱きつこうとして勢い良く身を起こした。しかし、見事にカプセルベットの蓋に頭をぶつけ、ベットの上でもだえる結果になった。
「いった~い。ってさっきのは、夢…?」
「何をやっているんだ。…うなされていたから起こしたぞ」
「ありがとう」
涙目になりながら答えた時、再生終了と表示された空間ディスプレイが目に入った。そこには、見ていた動画のタイトルも映っていた。
(そうだ。このドラマを見てて寝ちゃってたんだ)
クレハが見ていたのは、ミドロス星間連邦で作られたドラマで、主人公が宇宙船で移動している時に事故に合い、長い期間、事故で破損した脱出艇で宇宙を彷徨うという極限サバイバル物だった。良く設定も練られてており、且つ実際に起きた事故を参考にしている為、宇宙空間でのリアルな恐怖を良く表現していた。
自分の現在の状況に似ていたので、何か勉強になるかもと思い、見ていたのだ。そして丁度クレハが寝落ちする前に見ていた話が、長い漂流によってエネルギーや物資が枯渇し始め、真っ暗な中、孤独にさいなまれた主人公が発狂しかけるという話だった。
(このドラマを見なきゃ。あんな夢見なかったのに…)
カプセルベッドのカバーを開けて、上半身を持ち上げると、クレハの前にタオルを差し出したサスケがいた。
「酷い汗だぞ」
「ありがとう」
サスケは、タオルを渡すと、コンソールに接続して脱出艇の確認を始めた。
酷い寝汗かいて気持ち悪いと思っていたクレハは、サスケに背を向けながら宇宙服のジッパーを下ろして体をタオルで体を拭く。
「ねぇ?サスケは、居なくなったりしないよね?」
あんな夢を見たからには聞かずにはおれなかった。あの夢は、現実に起こりうる可能性のある事だ。不安になるのも仕方が無い。何しろ彼女は、ロンドモス号を脱出する際に既にやらかしている。
「ん?君の行動による。脱出した時のように勝手なマネをしなければな」
サスケは、コンソールで作業したまま答える。
「しない!もうしないから、居なくなったりしないで!」
その返答に振り向きながら答えるクレハ。
「人を救いたいという思いは、尊いのだろう。だが、自身を危険に晒す行為は慎むべきだ」
「でも…」
それでも、自身の行った行為が間違っていたとは思いたくない。思えない。
「"でも"も"だって"も無い。人を救いたいなら、せめて自分も相手も助ける為にしろ。自らが囮になるなんて安易な事はするな。君は絶対に生き延びるのだろう?だから私は、君に仲間として手を貸すのだ」
人を救う"行為"が間違っていたわけではない。自らを危険に晒し、おとりとする"方法"がまずかったのだ。サスケはそういいたかったのだ。
「自分も相手も…。わかった。次からは何とかそうする」
「分かったのなら、それで良い」
それから三日間、72時間サスケはぶっ続けで脱出艇の修理を行った。
脱出艇の破損状況を確認すると、デブリの海を動き回りゴミとしか言えないような宇宙船の残骸からパーツを抜き出し、周囲に浮かべた。一通り修理に必要そうなパーツが集まると今度は、見つけたパーツから脱出艇の修理改造プランを練った。無数のパーツを組み合わせ、時には、自らのアームで素材を加工しパーツを作り出しながら、脱出艇を修理改造していった。
脱出艇の修理が出来たとしても推進剤が無ければ船は動かない。そこでサスケは、ゴミから特殊なヒーターを作って氷のデブリを溶かし、推進剤を作り出すプラントすら作り出した。
長い間スクラップ待機場に居たサスケにとって船の残骸などが捨てられているデブリ帯など、お宝の山でしかない。蓄積されたリサイクル技術により、ただの壊れた部品が、使える部品へと姿を変えていく。
サスケが作業している間、クレハは脱出艇の中で勉強に励んでいた。
今度また同じような状況になったとしても、今度は別の方法を取れるようにと…。
ロンドモス号を脱出した時にとれた最善の方法という解答など本にもネットにも存在しない。だからクレハは、サスケの記憶装置にあった宇宙においてのサバイバル教本や、脱出艇の詳細に書かれた説明書、宇宙海賊に関するレポートなど広く勉強を始めた。
とは言えクレハは人間なので休息が必要だ。時折、サスケが選んだドラマ(宇宙漂流物は除く)を見たりしながらすごした。
「修理状況はどう?」
クレハは、ベットに腰掛けながらサスケに聞いた。手には非常食であるカロリーバーが握られている。
「修理は、ほぼ完了した。後は、脱出艇をデブリに偽装するのが残っている程度だ」
サスケは今も脱出艇の設定を変えながらクレハの質問に答える。その間にクレハは手に持っていたカロリーバーを一口食べた。
「ムグ…。そう言えば、今日だったわよね?プロフェッサーってお爺さんが来るって日は…」
「ああ、だかあの老人の交渉に乗る必要は無い。修理の目処は立っているし、後一日もすれば偽装も完了して出発する事が出来る」
「なら断るわね」
二人が今後の対応を決めた丁度その時、脱出艇のレーダーに所属不明の宇宙船が映った。
「どうやら来た様だぞ」
姿を現した作業用ポッドは、三日前と同じように脱出艇の前に静止する。だが、すぐに通信は飛んでこなかった。三日前とは明らかに姿を変えた脱出艇の姿を見て、目を丸くしていたのだ。
ポポポッと通信が入った。
『驚いたのう。この短時間でよくここまで修理したもんじゃ』
脱出艇の姿はかなり変わっていた。元々がコンパクトな四角い形をしていたのに対し、今は正面を除いた周囲にこれでもかとタンクや、装甲板などがくっつけられていた。一見無造作に付けられているように見えるが、何故かプロフェッサーには機能美を感じさせる不思議な姿をしていた。
「あら、こんちわプロフェッサー。何か御用?」
『分かっているじゃろう?返事を聞きに来たんじゃ』
「おあいにく様。その取引は必要ないわ。明日になれば準備できるし」
その答えを聞いたプロフェッサーは、慌てて逃すまいと口を挟む。
『ちょちょちょ!ちょっと待つのじゃ!そう言わんと考えてくれんか!取引に応じてもらったら、そんな応急措置の船じゃなく、ちゃんとした船を用意する!安全航路の情報も出す!安全にミドロス星間連邦勢力圏まで行けるぞ!』
「サスケを渡すって条件は絶対に飲めません。諦めて下さい」
『ふふふ、そう簡単には行かんぞ。知っておるぞ。おぬしは、ロンドモス号から脱出してきたんじゃろう?だが、報道では乗客乗員全員無事、奇跡の脱出劇と報道されておった。おぬしの事なんぞ欠片も報道されておらんかったぞ。見捨てられたな。救助なんぞこん。それにおぬし海賊に狙われておるんじゃろ。今あの悪ガキ共は、この宙域の外延部で網を張っておる。今出るのは自殺行為じゃぞ?』
(まぁ。乗客リストから名前を消したのはサスケだし、救助が来ないのは、予想できた事だけど。海賊が網を張っているのは厄介よね)
海賊が網を張っているという話を聞いて、クレハは顔をしかめる。
『そうじゃ!ワシの研究を手伝ってくれるなら、その間、ワシの研究所に匿ってやろう。もちろん食事も出す。その間、そのメンテナンスボットをワシに貸してくれればいい!それなら、いいじゃろ!なっ!そうしよう!うん!』
「…それにしてもどうしてサスケが欲しいんです?サスケはアンティークって呼ばれるほど古いメンテナンスボットなんですよ。ここら辺に浮いているメンテナンスボット直したほうが、いいんじゃないの?」
確かに、窓の外にはメンテナンスボットと思しきボットがいくつか浮いている。サスケによれば、破損しているが、直せないほどではないという事はクレハも聞いていた。そう言うと、プロフェッサーは難しい顔をして答えた。
『この辺に浮いているメンテナンスボットじゃ、新しすぎて整備する対象のデータが無くて整備できないんじゃ』
「それって、一体何よ」
『それは…まぁ見れば分かる。…後生じゃ!わしの一生を掛けた研究に必要な物なんじゃ!それさえメンテできれば、ワシの研究は完成するんじゃ!頼む!』
そういうとプロフェッサーは、画面の向こうで頭を下げた。
あまりに必死な様子に、クレハは、どうする?とサスケを見た。サスケは通信機を使って
「…いいんじゃないか?海賊が網を張っているならしばらく潜伏した方が良い。海賊達は、こちらの食料や水が切れるのを待ち。焦って出てきた所を殺すつもりと思われる。ならば、一旦プロフェッサーの所で匿ってもらえば、やつらの計算は狂う。悪くない提案だ。彼が信用できればの話だが…」
(そう、ソレが問題なのよね。…うん…決めた!)
しばらく悩んだ末、クレハは決断した
「いいわ。その取引受けるわ。ただし、変なことをしたら許さないわよ?」
『本当か!良かった!何心配せんでもお前さんのような小娘に何かしたりせんわ!すぐにワシの研究所に案内しよう!その脱出艇はもう動けるか?』
「大丈夫よ」
『なら、ワシの作業用ポットについて来てくれ。研究所まで案内しよう!』
密集した狭い迷宮のようなデブリの中を作業ポットは、何の苦も無く進んでいく。修理された脱出艇もその後を追っていく。十分ほどで目的地が見えた。
「あれは!」
「何あれ!」
二人が見たのは奇妙なモノだった。でこぼこしたどんぐりの様な形をした大きな岩石デブリ、それに無数の金属のデブリが、溶接で無理矢理くっつけられている。まるでその姿は、ゴミで出来た蓑虫のようだった。そして何より目立つのは、その蓑虫のように改造されたデブリから複数の触手のような物が伸ばされていた。その触手の先には岩石デブリと同じくらいの大きさの破損した駆逐艦が、捕縛されているように繋がっていた。
あまりにも奇異な光景に、クレハは思わず息を飲んだ。
プロフェッサーの作業用ポッドは、どうやらあの奇妙な物体へと向かっているようだった。




