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 海賊艦の艦長は、全ての積荷がフィッシュボーンに積まれ、この宙域から去っていくのを見ると満足そうに言った。

『よしいい子だ。積荷は全部頂いた』

「では、我々を開放して抱けるのですか?」

『さてどうしてやろうか…』

 にやにやと笑いながら、顎に手を当てて考え始める。その顔には嗜虐心がありありと表れており、オブライエン船長は嫌悪した。

『お頭。あの野郎との約束が…』

 その時、海賊艦の艦長の横合いから声がした。

『ああ、そんなのもあったな…。おい、乗客のリストもよこせ』

「乗客のリストですか?そんな物一体どうするのです?この船には、出張に向かうサラリーマン位しか乗っていませんが?」

『いいからてめぇは俺の言うとおりにしてればいいんだよぉ!』

(乗客のリストが欲しいという事は、目当ての人物が居るという事ですか…まさか…)

 オブライエン船長の脳裏に先ほど一緒に食事を取った少女の顔が何故か浮かぶ。逡巡していると、海賊の頭目が怒鳴った。

『早くしろ!沈めらてぇか!』 

(くぅ!仕方ありません)

「乗客の…リストを送ってください」

「はい…船長」

 オブライエン船長の苦悩が分かるブリッジに居る船員達は、渋面を作りつつも船長の命令に従い、リストを海賊達に送る。

 海賊船の船長は早速送られてきた乗客リストを手元の端末で確認する。

 しばらく黙って端末を操作していると突然大笑いしだした

『あん?リストにサニア・ロンドロンって名前はねぇじゃねぇか!こりゃ傑作だ!あの野郎ガセネタつかみやがった!ハッハッハ!』

(サニア・ロンドロンですって!?狙いは彼女?でも何故リストに名前が無いんですか?)

 当然オブライエン船長はその名前を持つ人間を知っている。何故ならさっきまで一緒に楽しい会話と共に昼食をとっていたからだ。

 乗客リストは当然、お客が乗船した時に入力され、作られる。船外の貨物の中に紛れ込む密航なら考えら得るが、普通に入り口から船に乗って密航など不可能だ。船内の人数は厳しく管理され、人間が一人増えても一人減っても、それはコンピューターによって異常事態と判断される。宇宙旅行が普通にされる世の中になっても宇宙の厳しさは変わらない。人一人増えれば、水、食料、酸素、その全ての消費が増え、全滅と言う事すらありえる。もちろんそれらの対策として色々な予防策が講じられているが、それでも事故は起こる。

 船のコンピューターに異常事態と判断されると、すぐさまオブライエン船長に連絡が入る。だが、そんな異常事態は、この航海にはいって一度も無かった。

(そうか!)

 あのサニアという不思議な少女は、この海賊達に乗客リストが渡る前に、自らの存在をそのリストから消したのだ。何重にも防御プログラムや攻勢防壁などに守られたこの船のコンピュータをハッキングする事など考えられないのだが、それしか考えられない。

 それにオブライエン船長は、出港時に顔写真付きの乗客リストを確認しサニア・ロンドロンの名を確認していた。若い女性の星系国家をまたぐ一人旅とは珍しいと思ったのを覚えていた。

 ロンドモス号のコンピュータにハッキングし、乗客リストを書き換えたのは、当然サスケだ。船のデータベースを監視していたサスケが、積荷のリストを海賊へと渡したのを見て、クレハの偽名が既に敵に知られていた場合に備えて、乗客リストからクレハのデータを書き換えていたのだ。

 笑っている海賊船の船長に横から慌てたように部下の男が言った。その声は先ほど海賊船船長に進言した男だ。

『まずいっすよ!あの男から、この件は秘密だって言ってたじゃないですか!ターゲットの名前言っちゃってますよ!』

『ならまぁいいさ!この件に関わった連中は皆殺せって言われてんだ。こいつらだって…』

 その会話を聞いた途端、オブライエン船長は、この場からの逃走を選択した。すぐさま通信を切ると大声で言った。

「総員警戒態勢!ジェネレーター始動!シールド前方に全力展開!海賊警報!接客乗務員は、乗客を全て最寄の部屋へ案内して下さい!」

 突然の指示に一瞬戸惑ったものの、ブリッジに居る全員が、すぐさまその指示を理解し実行する。


 命令が機関部に伝わりジェネレータが一気に唸りを上げる。

 本来一度ジェネレータが停止すると再起動には時間が掛かる。本来ならこんな短時間でジェネレーターが再起動する事は出来ない。

 ロンドモス号では海賊に捕まってジェネレーターの停止を命令された場合、ジェネレーターの出力を周りに感知できないレベルまで落とし、さらにジェネレーター自体に、熱や電波などを遮断する特殊なシートをかぶせる事により、ジェネレーターを停止したように見せかけていたのだ。

 これは、口うるさい機関長に言われて作った、海賊に拿捕された時の為に作られたマニュアル通りの作業だった。幸いにも、機関長が居なくても機関士達はマニュアル通りにしてくれていたという事だ。

 口うるさい機関長の助言を聞いておいて良かったとオブライエン船長は思った。そうでなければ海賊達に言いようにやられてしまうだけだっただろう。そのお陰で海賊達に一杯食わせる事に成功した。

 ロンドモス号を包むように半透明のシールドが展開する。その向こうでは、見る見るうちに海賊船に搭載されている三門ある単装ビーム砲にエネルギーが溜まっていく。まるでオブライエン船長達の努力をあざ笑う様に、エネルギーの充填はゆっくりだった。

(アレから撃たれるビームに対隕石用のシールドで何発持ちこたえられるでしょうか?)

「進路30、俯角25!全速前進!」

「アイ!進路30、俯角25!全速前進!」

 一気にメインスラスターを吹かして、海賊の乗る駆逐艦の斜め右上を目指して前進を開始する。

 そうしたのは、そうする事で一門でもロンドモス号に向けるビーム砲の数を減らしたかったからだ。

 コンテナが無くなり軽くなっているとはいっても、それなりに大きな船であるロンドモス号、すぐにスピードが出るわけではない。それに、シールドを張るのにもエネルギーを使っているので、早く早くと思って乗っている者としては、恐ろしくゆっくりとした加速をしながら、海賊の駆逐艦の方へと向かう。

 それが分かっているのか駆逐艦のビーム砲は、確実にロンドモス号に照準を合わせ続けている。

 そして一発目のビームが放たれた。撃ったのはロンドモス号から見て左下の面にあるビーム砲だ。

 放たれたビームは、ロンドモス号の張ったシールドに当たり、砕けていく。


 その様子を見てブリッジの船員達は喜ぶが、船長はまったく喜べなかった。

(今のは、あのビーム砲の死角に入る前に、シールドを少しでも削る為に撃ったビームです。だから出力も弱く、ロンドモス号のシールドでも防げたんです)

 シールドは、無制限に攻撃を防げるわけではない。シールドを張るには、それなりのエネルギーが必要であり、攻撃を受ければ要となるエネルギーは、威力に比例して、さらに必要になる。そのエネルギーはジェネレーターから供給されるが、ロンドモス号のジェネレータは現在出力を上げている途中だ。ジェネレータの出力が最大であれば、海賊船の攻撃なら十数分は余裕で持たせる事が出来るが、今はまともな一発貰うだけでもシールドが吹っ飛ぶ可能性がある。

 そしていま、低出力のまま撃ったビーム砲とは言え、それでかなりのエネルギーが持っていかれた。次のまともな一撃を貰えば、シールドはすぐにでも砕け散るだろう。

 既に斜め上方に移動しようとしているロンドモス号に合わせて、海賊艦は、スラスターを吹かせて船体の回転させている。まだ撃っていないビーム砲は、もう少しでエネルギーの充填は完了する。それを撃たれればロンドモス号はたやすく撃沈されるだろう。


 絶望的な戦いだった。いや、戦いとすら呼べない。一方的な暴力。

 向こうは曲がりなりにも軍用。対してこちらは、殆ど武装も無い貨客船。どう見ても勝ち目なんか無い。それでも何もしないままでは、船乗りの名が廃ると、行動を起こした。だが結果は見ての通りだ。

(申し訳ありません。お客様を港までお連れする事ができませんでした)

 砲門の奥にある暗闇がはっきりと見えたオブライエン船長は覚悟を決めた。いや、生を諦めたというのが正しいだろう。

 その時、通信を切ってから、真っ黒だった正面モニターに文字が現れた。

 "悪いが船のコントロールを一部預かる"と、そうか書かれていた。

 そして、ブリッジにある機器にノイズが走り、船員達の操作を一切受け付けなくなった。

「船のコントロールが利きません!」

「こんな時にどうなってる!?」

「海賊か!」

「もうダメだ!」

 大混乱するブリッジ船員達をよそに、ロンドモス号はそのままの勢いで進んでいく。

「シールド消失しました!」

 シールドの操作をしていた船員から絶望の声が上がった。シールドは正にこの船の生命線だ。シールドも無しにビーム砲を受ければ、貨客船など一発で撃沈されてしまう。

 既に海賊艦のブリッジの中の様子が、ロンドモス号のブリッジからも見えるまで接近している。海賊艦のブリッジでは海賊艦艦長が余裕の表情で艦長席に座ってのけぞっているのが見えた。

 絶望しているロンドモス号のブリッジとは、対照的な光景だ。

 そして、ビーム砲の砲口が光り始める。こうなるとビームの発射は秒読み段階に入ったという事だ。

「シールド再起動!これは!?」

 間一髪でシールドが再起動したが、オブライエン船長の表情は変わらない。苦いままだ。船長は分かっているのだ。

(これではシールドの全力展開は間に合わない!)

 そして、海賊艦のビーム砲が発射された。放たれたビーム砲が直撃し、自分の船であるロンドモス号が、バラバラになる姿を船長は幻視する

「何っ!」

 だが、オブライエン船長の予想は裏切られた。

 シールドが全力展開されたのだ。

 ただし、海賊艦の向けているビーム砲より少し大きい程度の面積を持つシールドが二枚だけだ。

「ピンポイントバ○ア!?」

 地球時代と呼ばれる古い時代のアニメを愛好していたブリッジクルーが驚愕を声を上げる。それと、二門あるビーム砲が放たれたのは同時だった。

 一発は、ロンドモス号の船体に向けて、もう一発は、ブリッジを狙っていた。

 放たれた二本のビームは、突如再起動して現れたシールドに当たった。それはまるで最初からシールドを狙っていたかのように、シールドのど真ん中に当たる。

 シールドに当たったビームは粒子のしぶきを上げる。シールドには、ビームに対して絶妙な角度が着いており、ビームを受け流している。

 ビームの奔流が止むと、そこには無傷のロンドモス号があった。

「完全に防いだ…だと!?」

 乗っていたブリッジクルーですら信じられない現象だった。だが、その信じられないような現象はまだ続く。

 突然、ブリッジ内で警報が鳴り響いたのだ。

「今度は何だ!」

「乗客用の緊急脱出システムが勝手に起動しています!」

「何処の馬鹿だ!こんな状況で脱出しようなんて考えた馬鹿は!止めろ!」

 あまりの事にニトベ副船長が怒鳴るが、システム周りを担当する船員が悲鳴のような声を上げる。

「無理です!制御が乗っ取られたままになっています!左舷脱出艇出ます!」

「よりにもよって左舷だと!?絶対に止めろ!メインモニターに対象が見れる外部カメラの映像を出せ!」

 そして画面に映されたのは、ロンドモス号の船体だった。その映像は船体から張り出している部分から撮っている為、船体の滑らかな曲線が綺麗に写っている。船体には、無数の窓が並んでおり、窓の向こう側には、客室が用意されている。

 オブライエン船長達ブリッジクルーが必死に止めようとしている中、ボンッ!と船体の一部が四角く爆発した。

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