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 貨客宇宙船 ロンドモス号は、全長200mを誇る特異な形をした宇宙船だ。船体の上面に客室などの旅客設備が並び、下面には、肋骨のような柱が伸びており、その柱の間には輸送用のコンテナが多数抱えられている。遠くから見れば、それはまるで卵を抱えたエビのように見える船だった。

 この船は、建造されてからそろそろ50年がたつ。元は別の名前の客船だったのだが、建造十年目で元々所属していた船会社が不況のあおりを喰らい倒産。売却された船を今の船会社が買い取り、大型のコンテナも運べる貨客宇宙船に改造した。その際船名をロンドモス号と改名し、トルーデ王国の属国の様な扱いのクロクト商圏連合とミドロス星間連邦間の定期船として就航した。

 トルーデ王国とミドロス星間連邦の間に国交は殆ど無い。トルーデ王国のほぼ属国であるクロクト商圏連合は、宗主国と仲のあまり良くない国との交易はあまりおおっぴらには出来ない。とは言え、クロクト商圏連合としてもミドロス星間連邦間とのパイプは合った方が良い。苦肉の策として提案されたのが、この改造貨客宇宙船による定期便だった。あまり儲けが出る航路では無いが、殆ど交易の無い両国の珍しい品を取引でき、万が一クロクト商圏連合がトルーデ王国と何かあった場合、ミドロス星間連邦との繋ぎになるある意味では重要な航路だ。


 とはいえ、ロンドモス号の乗り組員でその事を理解しているのは船長以下ブリッジクルー位なものだ。他の船員達は、あまり大もうけは出来ないが、早々切られる事の無い、堅実に稼げる職場程度にしか思っていない。

「船長、ワープドライブに入り、48時間が経過しました。船内異常無しです」

「そうですか」

 交代の時間になりブリッジに上がったオブライエン船長に、ニトベ副船長が報告する。仕事の終わり間際という事もあり、ニトベ副船長の言葉にも眠さがあった。


 現在はワープ中の為、ブリッジの窓には装甲が降りており外は見えない。ワープ中は、船の周囲の空間が歪み、フラッシュの様な発光現象が続く為、外の様子が見えないようにしているのだ。


 いつもと変わらない報告に返事をしつつ、オブライエン船長は船長席へと座る。すぐさま手元にある端末から、自分がブリッジに入っていなかった時の航行状況や、船内の出来事の確認した。

「異常無しと報告しても、船長は確認するんですね。いつもチェックしてるご様子ですが、何でです?」

「ん?ああ、これですか。いや、君を信用していない訳ではないんです。私は、私が尊敬した船長…ああ、私が船長になる前に乗っていた船の船長なんですがね。その人が何時もやってたんです。これをね。船長とは、船の全てを知っていなければならないって言う人でね。私もそれにならってるんですよ」

 この時代、殆どが宇宙船はコンピュータ制御になっており、ブリッジクルーの仕事は、航路の決定や、他の船との通信。あと、船内に異常が無いかの監視くらいだ。航路を決めさえすればコンピュータが自動的に船を動かしてくれる。

 ここ十年ほど、ロンドモス号も航海の最中に乗客のいざこざ意外に問題など起きた事が無い。今では、そんな事をするのは古いタイプの船乗りだけだ。

「その船長は、元々は宇宙軍で駆逐艦に乗っていたそうなんですが、宇宙軍の上官から口をすっぱくして言われていたらしいんですよ」

「へ~。巷に聞く宇宙軍の連中のうわさからは、信じられないですね」

「今のあの連中を見てたら信じられませんが、昔はもっとまともでしたよ。その船長もドンドン腐っていく軍に嫌気が指して退役して民間の船会社に就職したんです」

 なんて事は無い船長の昔話。貴重でもなんでもない日常の一コマであった。

 その時、ドォン!と言う爆発音と微細な振動がブリッジに伝わった。その途端、ブリッジの明かりが消え、代わりに赤い非常灯が灯る。同時に警報がうるさい位に鳴り響いた。

「どうしました!ニトベ状況報告!」

 ニトベ副船長が近くの端末に飛びつき、船の状況を調べる。

「機関室にて小規模な爆発が発生!船体にダメージは、少ないもののワープドライブジェネレータが破損しました!ワープを維持できません!」

「機関室!何があった!何が爆発した!機関室!!」

 オブライエン船長が機関室に通信をつなげるが、返事は来ない。

「ワープが解除されます!」

「くそっ!ワープ解除後センサーの出力を最大値まで上げなさい!現在地の確認です。それに機関室にオフだった機関士と警備班を向かわせなさい!無論警備班は武装させて!後、乗客に非常事態のアナウンスです。船内で小規模な爆発があったが、船体に大きなダメージは無い。安全の為にワープアウトしたと伝えなさい!」

 ブリッジが慌しく動き出す。そこはプロフェッショナル指示を貰うとそれぞれが迅速に動き出す。

「ワープアウトしますっ!!」

 ドゴンという衝撃と共にワープからロンドモス号が抜ける。

「位置はっ!」

「現在地現在確認中!」

「急ぎなさい!」

「くっ!確認しました!リンデット宙域です!」

「海賊の出現地域!何てとこに出たんですか!」

 ワープが終了した事によりブリッジの窓を覆っていた装甲シャッターが上がっていく。あらわになった窓の先には、無数に光る星と、巨大な岩石が浮遊している光景が広がっていた。

 リンデット宙域。そこはクロクト商圏連合とミドロス星間連邦の丁度境にある宙域のことだ。特徴として大きな岩石や氷の塊などが浮遊している危険地帯だ。クロクト商圏連合とミドロス星間連邦の両国も国境警備をしている宇宙艦隊もこの辺りの航行は避けている。そのせいで、海賊が住み着くようになり、さらに危険な場所になってしまった。

 普通は、海賊達の獲物は、リンデット宙域の傍にある惑星へ行く貨物船や客船だ。そして、獲物を獲たら警備艦隊が来る前にリンデット宙域に逃げ込むのだ。障害物が多く海賊からの不意打ちが考えられるリンデット宙域に乗り込んでまで海賊を追いかけてくる警備艦隊は無い。せいぜいリンデット宙域の周りから、海賊船に向かって砲撃する程度だ。それで海賊船を撃沈する事もあるがそれはまれだった。


 リンデット宙域の事は無論ロンドモス号の船員達は全員知っている。

 貨客船であるロンドモス号に、大した武装は無い。せいぜい隕石や浮遊物を排除するのに使用するパルスレーザーガン位だ。その程度の武器では、海賊船の張るシールドを破壊する事すら出来ない。

 それゆえに、多少燃料が割高になろうともリンデット宙域から離れた場所へとワープアウトするのがロンドモス号の何時もの航海だった。

 

「クソッ!エンジン始動!海賊どもに見つかる前に、この宙域を一刻も早く抜けますよ!」

「救難信号を出しますか?」

 航海士の一人がオブライエン船長に聞くと船長は怒鳴りながら答えた。

「止めなさい!海賊共を呼び寄せる気ですか!警備班!状況はどうなっている!」

『こちら警備班!機関部には、メルビン機関長が倒れていました。外傷は大した事はありませんが、ただ、うわ言ですまん、すまんと…』

「クッ!ワープドライブジェネレータの様子はどうです?」

 一縷の望みを掛けてオブライエン船長が聞く。だが、結果は無残だった。

『機関士のヤマモトです。ダメです。中核部品が完全にやられてます。交換修理以外に治せそうもありません!』

 その報告に続いて、ブリッジのレーダー担当から嫌な報告が入る。

「レーダーに感あり!所属を示すIFF無し!正面です!」

「海賊!嵌められた!救難信号を出せ!もうばれてるなら、かまいません!救難信号を出しなさい!」

「了解!」

 あの口うるさい機関長を思い浮かべる。状況からして、機関長がこの場所に出るタイミングでワープドライブを破壊したのだと容易に想像がつく。

(あの方は、口はうるさいが、仕事はきっちりとこなす方です。クソッ奴の家族でも人質でも取られたのでしょうか?完全に詰みです)

「所属不明間から船長へ通信要請です!」

「正面モニターに出しなさい」

 オブライエン船長は、海賊に捕まるという屈辱に顔を歪ませながら、通信相手が出るであろうモニターを睨んだ。


「今の振動は何!」

 久々の人間らしい会話と昼食を終え、部屋でぼーっとしていたクレハは突然の振動にはっと頭を上げた。

「船内での爆発を確認。船体の損傷は軽微。だが…」

 机の上で待機していたサスケがすぐさま答える。

 サスケはロンドモス号のコンピュータをハッキングして、常に情報を確認している。なので、この船の異常は、すぐに把握できるのだ。

 クレハの実家に居る間、ありとあらゆる情報を収集し、その中でハッキング技術を学んだサスケにとって、民間用宇宙船舶のコンピュータをハッキングするなどお茶の子さいさいだ。

 ロンドモス号がワープアウトしたドゴンと言う衝撃がした

「今度は何!?」

「この船がワープアウトしたんだ」

 クレハの問いにサスケが答えると、船内アナウンスが流れた。クレハは頭を上げて、部屋に備え付けられたスピーカーを思わず見る。

『お客様にお知らせします。現在、船内にて小規模な爆発を確認いたしました。船体へのダメージは軽微なものの、万が一の事を考え、ワープアウトしました。しばらく通常空間を航行しながら、船体の点検作業を行います。その際には、お客様には客室にて待機する様お願いいたします。点検が終了しだい、再度ワープに入ります。ご協力の程、よろしくお願いいたします』

 一見普通の調子で流れた船内アナウンスだったが、機械であるサスケには、それが焦りを押し隠した声である事は、平時の時の声と比較する事ですぐに分かった。

 ワープアウトしたという事で外の様子を確認しようと、クレハは、部屋の端末を操作した。だが、部屋にある窓の装甲シャッターは開かず、端末には、現在使用する事は出来ませんと表示された。本来ならワープアウトしたら外の様子が見れるようになるはずなのにだ。

 それはただことでは無いという事の証明だった。

「どういう事?」

「ここは、リンデット宙域だ」

「リンデット宙域!?それって海賊の根城じゃない!何でそんなとこにワープアウトしたのよ!この船の船長馬鹿じゃないの!?」

 事前に自分達が進む逃走経路はクレハも調べている。特に経路に危険地帯があればしっかりと。なのでリンデット宙域が、海賊の縄張りである事は知っていた。

 クレハは内心私は貴族のお嬢様なんだけどなぁ。何で逃亡生活なんてしてるのかしら?と思いながら調べていた。

「違う。この船のワープドライブジェネレータが破壊されてワープが維持できなくなったのだ」

「そんな!」

「しかもブリッジの話を聞くとどうやら機関長が仕組んだ事らしい」

 ブリッジの会話を盗聴したサスケの報告に怒っていたクレハのテンションが一気に落ちる。

 気がついたのだ。

「…まさか、私達を狙って?」

「可能性は高い」

「…」

 クレハ達は、なるべく人気の無い船を選んだ。ここまでの逃亡中でも、なるべく巻き込まれる人が出ないように旅をしてきた。現に今乗っているロンドモス号も乗組員を除けば、50人位しか乗客は居ない。ロンドモス号程度の大きさの貨客船であれば、乗客は数百人乗っていてもおかしくない。

 クレハは、自身の危機と同時に誰かが巻き込まれて傷つく、ましてや死ぬのが嫌だった。人々の悲鳴や断末魔を聞きたくなかった。

「運がよければ奴らは、この船の積荷をやれば海賊は、去っていく。そうなる事を期待しよう」

 サスケが慰めるように言うが、それは当然の如く叶わない願いだった。

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