りんりんたんの恋を応援しちゃう恋愛経歴0の女の子の話
『好きな人ができました。どうにか彼をゲットしたいのですがどうすればよいでしょうか?』
そんなメッセージがSNS内のミニメールに送られてきて思わず思考が停止した。
どうして私に恋の悩みがきちゃったのだろう。私の恋愛経験は今年十七歳になる中で一度もないのに。
しかも相手はこのSNS内で一番といっていいほど仲良しの『りんりん』だ。アバターのコーディネートコメント欄に「小悪魔系堕天使りんりんたんだおー!」って書くほどアバターを買っていて、ゲームもかなり上手い。ネトゲのおまけがSNSみたいなところだからそれもそうだけれど。
ただ、今はそんなことよりメールの内容だ。
スキナヒトガデキタ、好きな人ができた。
変換が一瞬危うかったけど、とにかくそういうこと。
どう返信を打とうか悩んで画面に目をやると、もう一通メールが届いていたから開いてみる。
『私奥手なのでアドバイスをいただけたらな、って。前にエルンさん、自他ともに認める恋愛マスターだって言ってましたから。よろしくお願いします』
おっと。恋愛相談される種は自分で蒔いたというわけですか、そうですか。
……言ったよ! そういえば少し前に「エルンさんってお付き合いしている人はいるんですか?」と純真無垢な瞳を輝かせながら聞かれた気がしたから思わずそう答えたよ!!
でもあれはネット上だからとタカをくくっての発言だったのに……。
とにかく、返信、返信……。
「ええっと、『うふふ、りんりんちゃんは奥手なんだー。わたしも奥手だったけど今の彼氏とはラブラブ』じゃなくて! 嘘に嘘を重ねてもむなしいだけなのに!」
クッ……こうなったら少女漫画の知識をフル活用するしかない。今まで読破した少女漫画はゆうに三十冊は超えているはず!
よーし、思い出そう。
りんりんのイメージはちっちゃくて初心でちょっとわんぱく。そこに男には奥手という情報を加味すると……。
ケース1 教室の掃除で、好きな男の机を運ぶ。
掃除の時間、りんりんは目ざとく好きな人の机に駆け寄ると、よいしょよいしょと声をだしながら一生懸命机を運び始めた。
「大丈夫? オレの机重いでしょ?」
「へ、平気だよ!」
「そう?」
「うん! わ、私モーくんの机、運ぶからね!」
「あ、ありがとう」
りんりんはテレながらも一生懸命机を運ぶ姿に、モーくんは自然と胸が高鳴った。
(オレの机をあんなに頑張って……かわいいな、じゃなくて! オレは今何を!)
頭をガンガンとロッカーに打ち始めたモーくんは、その後毎日机を運んでくれるりんりんのことで頭がいっぱいになった。
ケース2 自作お弁当を渡す
お昼休みに自分で作った料理をもって、いつもパン食のブー君のために席を立つ。
「あの、ブー君。これ、私が作ったんだけど……味、確かめてくれないかな?」
「うぇ? りんりんたんの料理! うっひょ! ありがとうございます! ぐへへへ……」
――エルンさんの妄想が十八禁になりそうになったためブー君を逮捕。
しばらく後にテイク2が始まりますので少々お待ちください。
テイク2
「あの、モー君、これ食べてみて」
「ん? もしかしてこれ……」
「察しのいい子は……――」
「お前……風邪か?」
「きら……え?」
「ほら、いつもお前小さくてかわいらしいお弁当箱に入れてきて、それでもおなかいっぱいって言ってるのに。今日はおかずすら手に付けてないなんて絶対風邪だよ」
「え、ち、ちが……」
「ほら、一緒に保健室ついていってやるから」
「……あ、ありがとう」
りんりんは彼がしっかり見ていることに思わずてれちゃう。
問題点はりんりんではなく彼がりんりんのことを気にかけているかによる。
テイク2、改定
「お弁当食べる?」
「ありがとう! これ、もしかしてりんりんが?」
「う、うん……お口に合うかわからないけど……」
「んっ……おいしい! ありがとう!」
「よかったらまた明日作ってくるね」
それから平日のお昼休みはいつも二人で食べるようになった。
ケース3 ボディタッチ
下校中にわざと転んで体を打つふりをした。
「いたたぁ~」
「大丈夫か?」
「う、うん……いたっ。あ、あの、モー君、あの、お願いがあるんだけど……」
「なに?」
「お、おんぶしてほしいな」
「……わ、わかった」
恥ずかしそうに顔を背けたモー君はそのまま背を向けてしゃがみこんだ。そのまま胸をおしつけるようにりんりんはしっかりと彼に抱き着いて完全に体を委ねると、一言、
「モー君の体、広くて、それにあったかいね」
「そ、そうかな……」
「うん。あったかい」
「あ、ありがとう……」
一度体の体勢を整えるように体を押し付けて、あとはぎくしゃくした時間を過ごすことにより、相手との距離はぐっと近くなる。付き合い始めるまでそう遠くはないだろう。
「『――――といった具合にこちらから自分の異性を意識させると良いと思うよ。異性だって意識させれば男はちょろいからね』っと」
エンターキーを押して最後に送信ボタンをクリック。送信完了の画面が出て、ようやく私は一息つくことができた。
いろいろと書いたり消したりしたけど、とりあえず私の知識は渡せたはず。
すると受信箱の数字が「0」から「1」に変わった。もう返信が来た。ハヤイコノコ。待ち構えたの? ねえ、りんりん待ち構えてたの? 怖いよ!
「とにかく、読もう。うん、怖くても、かわいい友達」
ネトゲ友達は大切だからね。
そう思って受信ボックスを開いた。
『ありがとうございます! 明日早速実践してみますね!』
待ち構えてた感じの割には普通の返信だ。うん、これで長文だったら本当にこの子が怖いからね。ちょっと距離を置きたくなるよね。
よかった、りんりんは普通の子だ。
明日実践するとか言ってるけど、ちょっと心配だなって思えるぐらいには。
次の日の夕方、なんとなく外を歩いているとちっちゃくて初心そうで清楚で気弱そうな女の子が、かっこいい男の子におんぶされている光景が目に入った。というか近づいてきてる。
ちらりと、通り過ぎざまに横を見ると、女の子は安心しきった顔で全身を預けるとともに顔を赤らめながら体をおしつけていた。
――――まさかね。
この子もしかしてりんりんなのかな、なんていう疑問をかぶりを振って振り払う。
あの子に今日の結果どうだったか聞こうと少し歩を速めた。
追い風だ。
私の足は自然と早くなる。
そのとき、
「好きです、モー君」
追い風とともに耳に入った女の子の甘ったるい声に、私は盛大に転ぶのだった。
お読みいただきありがとうございます。
おさらい:りんりんたんはかわいい。