分つ時
シャイルは葬儀がとり行われているフーテの家に入った。その見た目の変わりようは泣き叫んでいたフーテの母が絶句するほどだった。髪は白髪が混じり、顔は青白く頬はこけていた。あの夜、気を失い丸一日目を覚まさなかった。何か恐ろしい未来を視たのではないかと考える人もいた。
今日もシャイルはフーテの墓に来ていた。ジルマはこの日、声をかけた。
「シャイル…。」なんて声をかけていいかは分からない。
「…最期にもう一度声を聞きたかった。」シャイルは振り返ることなく呟くように返した。
少しの沈黙の後
「シャイル、ちょっといい?」ジルマが話を持ち出せずにいたところ、待ちきれずスホンが近づいてきた。
「この子たちもお墓参りをしたいって言うの。」シャイルがふりむくと、スホンの後ろに2人の子が立っていた。フーテに泣きついていた男の子とその姉だ。
「君らは…。どうぞ。」シャイルは横にずれた。男の子は姉の所作をまねて手を合わせた。2人が立ち上がるとスホンがジルマの背を軽く押した。
「あの、それからシャイルは知るべきなんじゃないかなと思ってることがあるんだけど…」
「うん?何を?」
「え〜と。この男の子、ベフォルが何か視たみたいなんだけど…」
「あのね、私が説明するね。」我慢ならずスホンが前に出る。
「おとといベフォルが熱をだしたから病院で診てもらったんだって。そしたら少しだけど黒衣がついているって言われたらしいの。ね?」姉はうなずいた。
「こんなに幼いのにチカラが?…それで?」
「それで。何か夢を見たとしても覚えてないかすごく断片的なものだったと思うんだけど。聞いてみてもやっぱりよく分からないみたいで。でも前にもあったでしょ。姉さんに会うと泣き出したこと。会話でフーテって名前が出た時にも泣き出したんだって。だから、もしかしたら…」ジルマがはっきり言いきれない間にシャイルはベフォルに歩み寄り抱きしめた。フーテの名前を聞いてベフォルは涙ぐんでいる。
「つらい思いをさせたね。」
「うぅ…そうか…。このチカラは、ちゃんとフーテを護ろうとしてくれていたんだ。…俺はこのチカラを恨んでしまうところだった。」スーと息を吸いゆっくり吐いた。
「ありがとう。これで前に進むことができる。」
ジルマとスホンはこの話をして良かったのだろうとホッとした様子で顔を見合わせた。
後日ジルマはシャイルの家を訪ねた。当然村に戻れるわけはないので一人きりでいる。これからも変わらず暮らすのだろうと思いながら聞いておきたい事があった。
「やあ、ジルマ。」表情に暗さはなくなっている。
「ちょっと、これを見てくれ。」シャイルは本を差し出した。ジルマはこれをよく目にしていた。
「姉さんが読んでた本だよね?」
「ああ。後ろの空白のページを見てくれ。集中したら何か見えてくるだろうから。」言われるままに目をこらす。
「あっ、うっすら何か見えるかも。でも読めないな。」
「そうか、俺にははっきり読めるよ。フーテにも間違いなく読めたんだろう。」
「ということは大きなチカラを持ってると見えるってこと?…で、何が書かれているの?」
「チカラを発展させる方法かな。でも少し読んだだけではさっぱり分からないけど。」
「これって150年前に燃やされたハズのものだよね?どうしてこんなのが残っているの?」
「たしかに150年前チカラは封印され関連する書物は燃やされた。だから失われた直後に誰かが書き残したのだろう。大きなチカラを持つ者にしか見られないよう細工して。こんな本が何冊もあるみたいだ。」
「姉さんはこれを読んで何か別のチカラを使えるようになったのかな?」そうであることはほぼ間違いないのだがシャイルは答えなかった。
「シャイル、何か良くない未来を視たの?」ここで気になっていた話を切り出した。少し間をあけて
「俺にはやらなければならないことができた。でも1人では到底できない。だから同志を募ろうと思っている。ジルマは俺を信じてついて来てくれるか?」
「何をするの?」
「詳しくは言えない。ただおきてを破ることになるから村には帰ってこられないだろう。」
「僕は…。僕は村に残るよ。」急な選択を迫られたが思い入れが強く離れるということは想像できなかった。
「そうか。ジルマが村にいてくれたら安心だ。」
翌日からシャイルは村人を集めて同志を募った。村人たちの未来を守るためという以外詳しい内容を話せないとした。が、特に若者を中心にシャイルに対する信頼は厚かった。
この動きに大人たちは村長のもとに集まり対応を話し合った。ひと通り議論した後村長が口を開いた。
「今、チカラを封印して街で暮らす者、子にチカラを目覚めさせない親も出てきている。時代の変わり目にあるのかもしれんな。私は村の未来は若者たちに委ねようと思うがどうだろうか。」村長が動かなければ、この流れは止められないと思った村人たちからは、これ以上意見は出てこなかった。
わずか数日の間、村の中は慌ただしくただ荒れるような動きは見られなかった。やはり若者の大半はシャイルを信頼し付いて行く決断をした。
「私は残るよ。フーテも愛したこの村が好きだから。」スホンも他に村に残る若者たちにも、これをきっかけに自分の役割を果たそうと決意することとなった。一方、ベフォルの姉はシャイルに付いていくことを母親に告げた。娘の気持ちに気付いていた母親は、まだ子どもであることを心配したが決意の眼差しを見て送りだす決断を下した。
「シャイルのそばにいておあげ。」
村の人々は残る者、出ていく者、送りだす者、送りだされる者それぞれ決断と決意をした。
寂しさと平穏が入り混じった静けさに包まれていた。だが内に秘めた想いはしっかりと前を見ているものである。受け継いでゆくこと。そのときまで。




