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護りのチカラ  作者: amatt
2/9

出会い デフ

デフの耳には、今まで気にも留めなかった会話が多く入ってきた。

「最近肩がこる。」「腰が痛い。」

(どの程度の赤みで見えるのだろう。)

「おなかが出てきた。メタボだよ。」「どこか悪くなっているんじゃない?」

(見てあげたい。いや、見たい。さわりたい。でも、自然に触る方法が分からない。)

もどかしさを感じながら、店主の孫の頭をなでる日々。そんな時、珍しくデフの携帯電話が鳴った。電話の主は離れて暮らす姉だ。

「突然ごめんね。元気してた?いきなりで申し訳ないのだけど…。頼れる人が少なくって…。」

一方的にしゃべられたが、だいぶ差しせまった様子であることも用件も分かった。

「お金?役立てるほどの額は当然ないよ?」

「うん。少しでもありがたい。ごめんね。ホライが病気になっちゃって。」

ホライは姉の4才になる娘だ。

「お見舞いに行ってもいい?その時に持ってくよ。ほんとに少しだけど。」

純粋な気持ちであった。どこが悪いのか分かっているのだろうから、能力が役に立たないのは理解していた。

「え?遠いのにいいの?ありがとう。病院の住所メールで送っておくね。ほんと急でごめんね。」

「ううん。全然気にしなくていいよ。」

翌日、バスと電車を乗り継いで3時間かけ病院に行った。病室の前で手ぶらなのに気づいたが、しょうがないのでそのまま入った。

「失礼しまーす。」

姉の姿はなかったが、「あっ。」横になっていたホライがデフの顔を見て声をあげた。

「お兄さんの事覚えてる?」「覚えてる。」

年2回しか会っていないが、覚えてくれていた。ホライの頭に手をのせた。おもわず声が出そうになった。おなかの一部分が真っ赤になっているのが見えた。ぜんそくが軽いとは言わないが、それよりも悪いことは分かる。

「もう着いたの。ごめん、ごめん。」

姉が息を切らして入ってきた。病室の外で少しばかりのお金が入った封筒を渡した。姉は申し訳なさそうに受け取り、病状を説明してくれた。病名は神経なんたらで、手術が必要な'がん'であると。予想以上に深刻だ。

(4才には過酷すぎるよな。)

再び病室に入り、ベッドの横に腰かけ思った。ホライの小さな手を軽く握り、見えた赤い部分に手をのせた。じっとその手を、その向こう側にあるはずのガンを見つめた。

「あったかい。」ホライが言った。

「そうだね。」と返事をしようとした時、体温以上にあたたかく感じた。

(手で感じる体温は高めなのか、子どもの体温が高めなのか。)

手に力が入った。ふと何か見えた気がした。頭の中に見える赤い部分から、もやのようなものが。

(体の中でひろがっていると言うより、外に出てないか?)

もう一度、手に力を入れ集中した。やはり同じような現象があった。

(治れ、治れ。治れ、治れ、治れ。)

目をつむり念じた。何か出ていっているように見えるが、真っ赤な色は変化が無いようにも見える。

(ほんの少しずつ、本当にほんの少しずつ治ってるんじゃないだろうか。)

そう願いながら続けた。ホライはあたたかいのが気持ちよかったのか眠っている。

「そろそろ帰らないと、遅くなるんじゃない?」病室に戻ってきた姉の言葉に、けっこう時間がたっていた事に気づく。ホライが目を覚まして言った

「あしたも来てね。」すかさず姉が「遠い所におうちがあるから、そんなに来れないの。」と言った。

「仕事〈バイト〉が休みの日は必ず来るよ。」

正直デフは、ここに来る口実が出来てほっとしていた。どうしても試さずにはいられなかったからだ。

(可能性があるかぎり、絶対全力を尽くす。)

帰りの電車の中で決意した。

次の日の朝、体が重い。昨日やはり何か力を使えていたと理解する。その次の日、姉に連絡せずに病院に行った。まわりに人がいると都合が悪いからだ。病室ではホライが1人で寝ていた。早速そっと手をのせた。

(やっぱり真っ赤なままだ。でも本当に少しずつ治っていると信じるしかない。)

おとといよりも、集中し更に強く念じた。

そのまま時間が過ぎていった。

「え?デフ?本当に来てくれたの?」姉だ

「うん。特にすることも無いし、喜んでくれるならと思って。でも、おやすみ中だったよ。ハハッ。」

「目を覚ましたら喜ぶよ、きっと。体調も安定してて、いいみたいだし。」娘の寝顔を少しの間見つめて「家事を済ましてこよう。あっ、デフが帰る時間までに戻ってこれないかもしれない。ありがとね。」急ぎばやに出ていった。仕事に家事に病院での身のまわりの世話と休まる暇がない。

(姉さんの為にも、治せるのなら早く治してあげたい。少し疲れるくらい気にしてられんな。帰るまでの時間、力いっぱいやろう。)

今までの人生で、これほど何かに全力を注いだ事など初めてだ。当然これ以上の状況がなかった事もあるが。

「ふぅ。そろそろ時間だ。でも絶対良くなっている。また明日だ。」

確信していた。今日は、ほんの一部分だが赤が薄まっているのがはっきり見える。

夜泣きでもしていたのだろうか、ホライはぐっすり眠ったまま目を覚まさなかった。

「きみは、不思議な力をつかえるのか?」

病室を出た時、思わぬ言葉をかけられた。おどろいて振り向くと、白衣を着た医師が立っていた。その医師は、にこやかな表情で

「おどろいただろう?もしかしたらと思って聞いてみたのだけど、そうなのかい?」

デフはおそるおそる答えた。

「一応そのつもりです。でも、どうして。」

「ああ、実は大学時代にいたんだ。自分は触るだけで診る事が出来て、治す事も出来ると言うものがね。実際にその力をこの目で見たのは一度だけなんだが。」

デフは更におどろいたが、同時に聞きたい事がたくさん思い浮かんでいた。

「その人は今どこにいるんですか?」

「う〜ん、だいぶ前に連絡が途切れてしまったからね〜。どこかで医師は続けているだろが。」

「そうですか。会って色々聞きたかったのですが。」

「そうか。それはそうと、その力は使い続けて大丈夫なのかい?だいぶ顔に疲れが見えるが。」

「はい、休めば元どおりになる…と思います。実は、まだ使えるようになってから日が浅いので。」

「うん。無理はし過ぎないようにね。僕は用事があるのでこれで。」

「あっ、はい。失礼します。」

デフは、しばらく歩き去る医師の後ろ姿を見ていた。

(同じ力を持つ人がいる。次にすべきことは、その人をさがし出すことだろか。)

帰りの道中、頭の中で考えていたので、さほど気にならなかったが相当に疲れていた。明日のためにも早くに床についた。

翌朝、疲れは取れていなかった。

(手術をさせないで、ホライを治すことができるのは自分だけだ。今頑張り時だろ。)

デフは自分に与えられた使命だと感じたのだろう。重い体で病院に向かった。病室の前で大きく一呼吸して、明るく振る舞うよう心がけた。

「こんにちは、ホライ。また来たよ。」

絵本を読んでいたホライは、デフを見て笑顔になった。「またあったかいのするの?」

「あったかいの?ああ、そう。あったかいのしに来たんだよ。」

あたたかくて気持ちがいいのだろうか、すぐに眠ってしまった。頑張るつもりでいたが、体がだるく集中力が続かない。それに成果はわずかなものであった。

(手術の日までには、とても間に合わない。)

心も体も疲労こんぱいで、病院の廊下でふらついてしまった。「おい、大丈夫か。」昨日の医師の声だった。


「わざわざ連絡をくれてありがとう。」

「いやいや、君に頼むしかないからね。それより彼の力は本物かい?君以外で会ったことがないから。」

「ああ、わずかだけど治されている部分はあったよ。あれが使えるのはレアケースだ。」

デフが横になって寝ている部屋に入ると声をおさえた。

「かなり無茶をしたようだね。」

デフの胸に手をあてその男は言った。

「ふぅ、これで大丈夫だ。」

「君や彼を見る限り、その力は多用出来るものではないようだね。ただの疲れとは違うのかい?」

「ああ。休めば回復するものじゃない。それじゃあ、とりあえず今日は帰るよ。」

「え?彼と話もせずに?僕は君と連絡を取っていない事にしたんだよ。いろいろ聞きたい事を君が直接答えてくれるものと思ったから。」

「…うん。すこし様子を見ることにするよ。」

「そうかい。まあ、君がそう言うなら。とにかく、明日の朝一番に奇跡がおきて完治していると告げよう。」

男はじっと医師の顔を見た。

「あっいや、ちゃんと検査をした後にだな。」

「そうしてくれ。」

デフが目を覚ましたのは夜明け前だった。

(ここはどこだ?)

「起きたかい?ここは仮眠室だよ。」イスに腰かけた医師が言った。

(ああ、先生に支えられて来たんだっけ。そのまま眠ってしまったのか。)

「体調はどうかな?コーヒーでも入れよう。」まだ頭が寝ている。「どうぞ。今日仕事はあるのかい。あるなら間に合えばいいが。」

「ありがとうございます。」

一口飲んだ後やっと頭が回りだした。バイトは昼前からだから時間には余裕があるが見栄を張って

「始発で帰れば間に合うと思います。」

(あれ?それより体が軽い。数時間寝ただけのハズなのに。)

「始発なら…ゆっくり歩いてちょうどぐらいの時間だな。さあ準備して。通用口から出るから案内するよ。」

「はい。」(なぜか体が軽いんです。なんて言っても先生からしたら訳が分からないよな。)会話もなく後ろをついて行った。外に出たところで医師は足を止めた。

「それじゃあ気をつけてね。無理は禁物だよ。」

「はい。ご迷惑をおかけしました。」

デフは頭を下げて病院をあとにした。腑に落ちないが考えてても何も結論は出てこなかった。

翌日、バイトで休憩するところだった。不在着信がある。姉からだ、二度きている。急いで電話をかけた。

「デフ、ホライの病気が治ったって。きれいさっぱり完治してるって。悪い所どこもないって。もう、信じられない。奇跡が起こったの。」興奮している姉の口調と合わさって少し混乱した。

(…病気が治った?なんで急に…)

「ありがとう。デフのお見舞いも効いたのよ、きっと。今退院する準備してるから、夜にでもこっちから電話するね。じゃ、きるね。」

「あっ、うん。お、おめでとう。」

(おかしな返答になっちゃった。う〜ん、あの時…疲れが消えてたのもおかしかった。今思えば先生もニヤついてたような。でも何か知ってても教えてくれないだろうな。)

店主の孫が横でお絵かきしている。デフは頭をなでて言った。

「次は、おれが君を治すよ。」


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