始まり
歴史を振り返れば明らかである。大きなチカラは争いを生み、皆がチカラを持たぬ事が平和への唯一の方法だと。しかし、人々はチカラを小さくすれど使いようだと理由をつけ、手放そうとはしなかった。争いは再び引き起こされるのか…
1 きっかけ
2人は同い年で同じ街に住んでいるが、お互いを知らない。偶然か運命かほぼ同時刻に命の危機にさらされる。
(あ〜あ、(また月が替わる)これの繰り返しだ。あっ、白いお月さんがまるまるだ。)
プロトは見た目どおり、やる気が無く面倒くさがり。高校卒業後5年になるが定職にも就かず、この日もあてもなく歩いていた。
(人の役に立つカッコイイ仕事は無いかな?ツライのは嫌だけど。あっ、今夜は満月かな。)
デフは見た目どおり、クールでまじめだが妄想にひたる傾向がある。大学卒業後同じく定職に就かず、この日も考えを巡らしながら歩いていた。
そのデフの前を小さな女の子が横切ろうとした時、後方から車が走って来た。とっさにデフはその子にかけ寄り覆いかぶさった。車は目前に迫っていた。
(まずい、せめてこの子だけは。)
一方プロトが歩いていると、踏み出した足のさきにバッタが跳ねてきた。とっさにその足を横にズラして避けたがバランスをくずした。倒れ込んだ道の右側は2メートルほどの石垣になっていて、頭から落ちてしまった。
(やばい、こんなの嫌だ。)
瞬間2人は、チカラを得た。
2 視るチカラ
「いや〜今日は危なかった。受け身が良かったな。さすが俺。」
プロトは擦り傷で済ました自分に酔いながら眠りについた。
(ん?ここは見覚えのある場所だ。夢…夢と分かる夢なんて初めてだぞ。)
その場で辺りを見渡していると、「きゃっ。」女性の声がした。見ると自転車と接触したらしかった。そこで目が覚めた。
「…………。寝よ。」
次の日、夢で見た場所にとりあえず行ってみた。
(うーん、正夢にしてもいつ起こるのか分からんし。ダメだなこれ。)
しかし、その夜また同じ夢の場面にいた。
(きたなコレ。時間、いつだ。日にちも。どこを見れば良いんだ?あっ足が動かない。)
ふとズボンのポケットにある携帯電話に気づいた。
「あるじゃん。…○月△日□時X分。」
「きゃっ。」目の前の出来事を見ることしか出来なかった。目を覚ますと気分の悪さから、少しの間天井を見つめていた。
(明日か…いや今日だ…。)
プロトは夢でみた時刻より5時間も早くその場所にいた。これ意外することも考えることも出来なかったからだ。ただ人や車の往来を眺めて、携帯の時計を確認すること20回以上
(いた。本当に来たぞ。あの女性で間違いないよな。)
あせって混乱しそうになったが、かけ寄って行き不自然なほどに横について歩いた。あの自転車が後方から来た。つねに女性と自転車の間に体を置き、接触することなく過ぎて行った。女性がイヤな顔でプロトを見たが、気にも留めず歩き去った。
(これで終わりだよな。…任務完了だ。ハハッ。…はぁ〜。)
異常なほど疲れたが、それもそのはず、2晩よく眠れず約1日半このことを考えっぱなしだったから。不安はあったが、その夜は例のような夢を見ることなく眠る事が出来た。
3 治すチカラ
デフも無事ではあったが、病院にいた。すんでの所で車が止まったのだが、通行人には接触したように見えたらしい。念のため、女の子のついでに救急車に乗せられて来たのだった。医師にもケガはしていないと言ったものの顔色がわるいから少し様子を見ると帰らせてもらえなかった。
(確かに何度も車が迫ってくる場面を思い出しては、背筋がゾッとしてる。恐怖で顔面蒼白と言ったところか。まあ、もう少し落ち着くまで待とう。)
待合室のイスにすわっていると、警察が来たので説明をした。そのあと、助けたと言って良いのか女の子とその母親がお礼に来た。車の運転手がちゃんと止めてくれただけと説明して収めようとした。
「ありがと。」
女の子が言うと「ございますでしょ。」母親が言った。
「道路では車に気をつけてね。」
そう言って、頭に触れた。それと同時に自分の頭の中に人影のようなものが見えた気がした。
(ん?)
一瞬でよく分からなかった。母親がもう一度お礼を言って、頭を下げ帰っていった。
(…帰ろう。)
「落ち着いたので帰ります。」
そう医師に言うと、医師はデフの顔を見た後了承した。
(いや〜、怖かった。)
まだ恐怖は残っていたが、それ以上にとっさにとれた行動に満足していた。
翌日、普段どおりバイト先の定食屋で働いていた。店主の2才になる孫が、店の中をちょろちょろするのを奥の部屋に入れる役割を担っていたので、抱きあげた。病院の時と同じく頭の中に人影のようなものが見えた。しかし、違いがあった。灰色の人影の口周りから胸にかけて少し赤い。すぐに思い浮かんだ事があった。
(ぜんそく持ちと重なる赤い部分は、そういう事だろう。本当なら、すごい能力じゃないか。)
デフは興奮をおもてに出さないように、大きく息をした。他の人で試したかったが、家族は離れた町に住んでいるし、友人という人もいなかった。まわりで自然にさわれる人間はこの子だけだ。
(どうしたものか。)