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確認と、雑談と

世界事件(世界がギルド内に足を踏み込んだため魔道具が一部ダメになり、事務所が一時的に休業となった一件)の後、世界と二郎は一路、町に出ていた。理由は単純、レイバンに明日また来いと言われたからである。勿論、中には入るなとのお達し付きで。


「やっぱりこの町も、ザ、田舎!って感じがするよな。シャッター通り的な意味で」


「お前の田舎の価値観は一体どうなっているんだ」


 確かに寂れてはいるが、まだまだ店舗を構えている人は多くいる。さらに言うと、今現在この場にシャッターなどという文明の利器はない。二郎の価値観はやはりどこかでずれているのかについて、長考しようと世界が自分の世界に入りかけたとき、顔に何やら冷たいものが当てられる。ヒャッ!と甲高い声で驚いたのち、すぐに世界は振り向いた。二郎であった。手には二本ほどガラスのような容器に入れられた赤い飲み物が握られている。何なのだろうかと疑問に思っていると、二郎が解説し始める。


「これか?これはここら辺の名物、赤い果実のしぼり汁だ。にしてもお前、割とかわいい声で悲鳴を上げるんだな」


「お前には二重の意味で失望させられた。一つは盗みを働いたこと。もう一つは男性に性的興奮を覚えることを今まで隠していたことだ」


 ゲームで言うイベント発生を見事につぶされたためちょっとした仕返しをしたつもりが、盛大に友人がどんびいてしまうという悲劇的現象を前に、二郎はすまんすまんと平謝り。世界としてはまず男色家であるというところを否定してほしかったのだが、そんなそぶりを一切見せることなく二郎は話す。


「俺だって、一応はギルド員なんだぜ?五年前の蓄えってのも、微々たるものながら残っているからそれで買ったんだよ」


 じゃあなぜ今謝った。そして何故男色について弁明しない。世界は激しく問いたかったが、その言葉を言う前に、二郎はさっさと次の話題に行ってしまう。


「にしても世界、さっきこの飲み物を売っていたばあさんに聞いたんだが、ここ五年で不可思議な現象や化け物が増えてきたらしいな。さらに言うと、ここの寂れ具合もその影響があってのことらしい」


 まぁ、その原因って俺なんだけどな!そんなことをのたまい、カラカラと笑う二郎。周りに聞かれることを心配した世界だが、そもそも自分の結界内に人がいなければ言語が通じないことを思い出し、まぁそれならばと甘酸っぱい飲み物の意外なおいしさに身を委ねようとして


「・・・そういえば、何故お前は現地の人々と会話が出来るのだ?」


「そりゃあ、呪いの効果で今まで使えなかった通常魔法が使えるようになったからだろうよ」


 呪いの効果とは一体・・・そんな考えが世界の口から洩れたためか、二郎は簡単な補足説明を入れてくれた。


「俺が掛った呪いは、何も肉が削げ落ちるようなものじゃない。スケルトン系の魔物化の呪いだ。しかもなまじ魔力が高かったために、ただの動くしゃれこうべじゃなく、最上位のワイトキングになったんだが・・・実は、魔物と人間の魔法体系って、全く異なるものだったんだ!」


「そうだろうな」


「なんで知ってんの!?」


補足説明に加えた、衝撃の事実。この世界で確認されていない事象であることは、ワイトキング時代に本などで十全に理解していただけに、まさかこちら側に来て2日とちょっとの友人がわかっているなどとは、ましてやさらりと流されることになるとは彼の頭で理解しがたかったので、二郎はちょっとしたパニックになった。


「もともとその設定は多くのメディアで取り扱われているからな。この世界でその法則があてはめられても何ら不思議ではない」


「あ、そう・・・ともかく!翻訳魔法は俺が一番最初に覚えた魔法だし、魔力消費量もそこまで高くないから常時展開しているんだ・・・ところで、完全魔力キラーなお前はどうしてあのギルマスとコミュニケーションが取れるんだ?」


 ボディランゲージ?などと聞いてくる二郎に、世界は解説を、自分の想像も加えながら話し始めた。


「僕の能力は、何も魔力や解呪だけじゃない。上位存在・・・二郎の言う神の与えた奇跡すらも打ち消すことが可能だ」


「おう・・・ん?どういうことだ?話がかみ合わないぞ」


「二郎、バベルの塔の話は知っているか?神の怒りに触れた人間が、別々の言葉を話すようになり、散り散りになってしまう」


 ここまで言っても、二郎はまだよくわかっていなさそうに頭を抱えていたが、やがて合点がいってように勢いよく頭を上げ


「まさか、神様が!?」


「やりそうだろ?暇つぶしに」


 正直、世界に確証はなかった。しかしこの考えは的を得ており、実際この発言を定点観測で見ていた上位存在は


「あー、やっぱ分かっちゃうかー。流石世界くんだねぇ。ほんと面白いわこの子」


 などといいながらけらけらと笑っていた。

そしてこの考えを聞いた二郎は、怒るでも、戸惑うでもなく、只々手をポンと打ち


 「あー、そうかあ、まぁ、そういうパターンもあるか」


 普通に受け入れた。やはりこの二郎という男、順応性の塊である。


「さて話を戻そう。俺としては?俺のような末路をたどってしまった、ほかの可哀想な同級生ないし上級生下級生または先生方を助けてやりたいところだが、世界はどうする?」


 二郎はそう言いながら、世界の肩に手を回す。世界はそれをはねのけ、二郎に向き直り


「僕は・・・ダメだ、いけない」


 顔を曇らせながら、そういった。二郎はそうかそうかと頭をワシワシ掻き、少し考えるようなそぶりを見せたのち、


「・・・一応、理由を聞いても?」


そう言って、世界に目配せをした。その言葉を待っていたかのように、世界は淡々と言葉を紡ぐ。


「まず、手遅れの人間を見ることが怖い。いくら冷静ぶっても所詮僕は人で、高校すら卒業できていない17歳の子どもだ。目の前で死体を見ること自体が怖い。今回お前は魔物化の呪いで見た目が死人になっていたが、逆に魔法で生きながらえていたものがいた場合は?死にたくないと願ったやつが、今まで致命傷を受けていて、僕の能力でそれが開いたとしたら?それを考えるとたまらなく怖いのだ・・・それと僕と二郎、二人だけでこの異界中に散らばった全員の救済はほぼ不可能だ。第一僕らに助けてほしいものなど、それこそ少数だろう。自分の目の前に助けを求める人間がいれば、それはまず助けに行くが、まだ見ぬ助けを必要としているかもわからないものの為に善を尽くすというのもお門違いな話であると言わざるを得ないな」


「オーケー、要するに面倒なのか」


「その通り」


 一瞬で自分の考えを看破する友人を、流石であると心の中で称賛し、この町でどうやって生きて行こうか算段づけようと、世界が試行し始めるタイミングで、二郎は話を再開した。


「でも、正直、そんな簡単に面倒事を回避できるような異世界ライフになるとは思えないんだよなぁ・・・」


聞き捨てならない二郎の言葉に、何を馬鹿なことをと反論しようと口を開いた世界であったが、


「・・・あの上位存在が、僕の平穏を望んではいないために、こちらから行動を起こさない限り何かイベントをぶつけてくる可能性があると、そう言いたいのか」


 直後に思いついたことがあまりにも容易に想像できることだっただけに、確かに自分からかかわっていった方が楽かもしれないという考えに至った。


「そうそう。それじゃなくとも、明日はギルドマスターとの話し合いだろ?絶対無理難題吹っ掛けられるって。俺らじゃないとクリアできないクラスの奴」


「ギルドマスターではなく対魔獣駆除係係長だ。異世界だからと言って、ニュアンスで話を進めるとすれ違いが起きるぞ。それにその可能性だって十全に考えているさ」


 本当かなぁと言う友人の目に耐え切れなかったからか、世界は目をそらし、何か目ぼしいものはないかときょろきょろしだした。その時ふと、目に留まった真横の壁にあるチラシ。言語の呪いすら解呪できる世界の能力によって浮かび上がった字は



『驚き!再生する永遠の少女』



と書かれてあった。


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