能力と、戦闘と
光の粒子が、乾いた地面に集まり始めた。それはどんどんと人の形に集まり、坂田世界となった。
「・・・あー・・・よし」
周りを視認し、音を聞き、声を出して、手を動かし、体全体を動かして、五体に問題がないことを確認した世界は、この異界が夜であり、星明りが地球よりも明るく感じるということを覚えた。
更に目が慣れてくると、ここが遺跡のような場所であり、形状からして闘技場の真ん中である、と見て取れた。
とりあえず朝までここに居よう。そう思い世界が腰を下ろした瞬間、一瞬だけ頭が痛くなった。
脳に直接静電気が走ったような痛みに、思わず顔をしかめた世界だったが、その後は何事もなかったため横になった。横になったついでに、もしかしたらと思い近接戦闘について思いつく限り考えてみようと、一時間ほど脳内で考えた結果、この場で考え付くだけでも格闘術数種類、ナイフ術2種類、剣術5種類、槍術2種類、盾術4種類、その他特殊武器諸々が多岐にわたり出てきた。
明らかに自分で調べたこともないものも、まるで自身が実践を10年以上続けたかのような玄人観を伴って思いついてしまった。これが上位存在の特典か。そう思った世界は、とりあえず目をつぶり
爆裂音に目を見開いた。
飛び起き周りを見ると、一帯が燃えている。しかし、自分の周囲半径10メートルは不自然なくらい焼けていなかった。ここで願いが全て聞き入れられたことを確認した世界は、地面の抉れ方から上空からの炎であることを確認し、こちらを攻撃してきた何者かを見据える。
地面から10メートル。距離にして300mほどであろうか。そこにいたのは、空を飛ぶ骨。魔術を使う、呪いの怪物。ワイトであった。装飾から見ると、その上位種であるワイトキングであると分かるが、異界に来たばかりの世界には、分からないことであった。
「―――立ち去れ、人の子よ。我は骨魔王、ワイトキングなり―――」
世界が分からないことを知っているのか、はたまたそういうテンプレートを作成しているのか、いずれかは分からないが、おどろおどろしく、やたら通る低い声でワイトキングは名乗った。自らの名前を名乗るあたり、この骨は話の分かる奴なのかも知れない。そう思った世界は、ワイトキングに話しかけようとし、直後、ワイトキングの後頭部に何かが当たった。勢いよくはじかれたそれは、世界の近くに落ちてきたため拾い上げてみる、弓矢であった。
「―――――――――ッ!!」
たけだけしい声と共に、30代後半から40代前半くらいの年齢の、鍛え上げられた筋肉を持つ男が一人、闘技場内に駆けてきた。言語は分からないが、どうやら相当頭に血が上っているようである。
「―――話し合いは叶わぬか―――」
話し合いも何も、まず対話の形すら取っていないんじゃないか?と世界は思ったが、この場で口をはさみ、思わぬ攻撃をくらいたくないので黙っていた。そうこうしているうちに、ワイトキングは骨の手を紫色に光らせ、呪文を唱え始めた。数秒後、地面から無数の人骨が、形を成して男に押し寄せていく。正確にいうと世界の方向にも数体向かってきてはいるのだが、半径10メートルに入ると崩れ去ってしまうのである。
「――――――!!!」
対して男は、背中から鉄塊のようなハンマーを振り回し、骨を砕き、進んでいく。世界はこの様子を、海賊バイキングの斧使いに近いなと考察し、ワイトキングからの攻撃が基本的に届かないことをいいことに、男のについての考察を入れ始めた。
言葉遣いまではよく分からないが、言語体系や顔はアジアよりも北欧系に近い。体の銅を守る、やたら光る鎧も、ところどころなるほど、これが俗にいう中世ヨーロッパ風異世界か。次に、この男がここに来た理由を考える。あの怒り様は尋常ではなかった。恐らく家族、友人、仲間のいずれかをこの怪物に殺されたのだろう。
そんなことを思っているうちに、どんどんと男が劣勢になってきていることに気が付いた。やはり多勢に無勢。体力に上限のある男に対し、ワイトキングの骨の軍勢は、潰しても潰しても変わりが出てくる。勝つには土台無理な話なのであった。
世界としては、ここで男を見捨てても構わなかったが、この男が奇跡的に助かり、のちにあらぬ噂を立てられるのも面倒であり、何より目の前で人がむごたらしく惨殺されるなどという、トラウマ確定な代物を目の前で繰り広げられたくないため、男と骨の化け物の間に立った。むしろ味方であることを示すために、あえて男のすぐ近くへ行き、男に背を向けて立った。
「あっ・・・あんたは誰だ・・・」
近くに来たとたんに日本語を話し始めた男。それなら最初から日本語で話せよと世界は思ったが、今はそれどころではない。目の前の骨の群れや、後ろに構える骨の王は問題ではないが、それにつられて大型の怪物が表れる可能性もある。早急な対応が必要であった。
「すまないが、挨拶はあとだ。後は任せてくれ」
それだけ言うと、世界は骨に向かって走り出した。走るだけで骨の群れは一気に消滅していく。時折ワイトキングが飛ばしたと思しき魔法も飛んできたが、それらもすべてかき消していく。ワイトキングが範囲に入るぎりぎりまで駆け抜け、世界はバテた。
「ぜぇ・・・はぁ・・・御覧の通り、お前のしもべ、魔法の全ては僕には効かん。大人しく引け」
「―――小癪な・・・あれ、もしかして坂田世界か?―――」
宙に浮くワイトキングへの攻撃方法を持っていないため、どう引きずりおろすかを考えていたところで、ワイトキングが厳重な言葉づかいから一転。やたらとフランクになった。
「如何にも、僕は坂田世界だが・・・まさか二郎か?」
言葉遣いに聞き覚えがあった世界は、恐る恐る自身の友人の名を口に出す。
「―――そうそう!流石客観視の塊。こんなになってもわかってくれる人がいるっていうのは、嬉しいもんだ―――」
骨の怪物は、そう言ってカタカタと笑い出した。