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異変と、異世界転生と

 放課後。教室掃除の当番でも、自身の入っている文芸部の活動日でもないため、坂田世界は1人、帰路についていた。帰路と言っても、徒歩10歩以内の自宅である。学校内を歩く方が長い。1階に降り、校庭に出る。この時点で、若干心臓に違和感を感じた。

 その違和感を疑問に思いながらも次の一歩を踏み出した瞬間、一気に来る全身への激痛。彼の知識にある心筋梗塞やくも膜下出血と言った突発的な病気とは全く違う症状に、坂田世界は崩れ落ち、焦った。深呼吸をしようにも、息を吸うだけで体が痛い。吸わない方がマシにも思えるほどである。

 坂田世界は、次に自らの体の状態を確認した。無理に右手を動かし、激痛の走る原因を探る。皮膚の裏側がすべからく内出血を起こしている。真っ黒だ。恐らく全身内出血なのだろう。やはりこのような症状は、世界の知る限りなかった。周りはどうだと見まわすと、同じような症状に苦しんでいる。

 ここで世界はいくつかの仮説を立てた。一つ、謎の疫病説。一つ、毒ガスまたは細菌兵器説。そして・・・と、最後まで思考が回る前に、世界は意識を失った。




 坂田世界は、暗闇で目を覚ました。辺りを見渡しても、自らの体を見ようとしても、暗闇が広がっているだけである。

 もしや目が見えなくなってしまったのだろうかと、世界は不安になった。幸いにも手や体にあたる服の感触から、触覚が生きていることは分かった。

 次に小さく、声を混ぜながら溜息を吐くことで、自らの声帯と聴覚が機能していることもわかった。体を小さく動かし、全身が動くことを確認し、上着のポケットの中に押し込んでいたスマートフォンを取り出すことに成功した。

 電源ボタンを押すと、ホーム画面に設定していたロボットの画像が出てきた。どうやら視覚もしっかりと働いているようである。

 体全体の機能が確実に動くことを確認し終えた世界は、次に自分が今置かれている状況を知るために、スマートフォンのライトをつけた。

 照らされた先は地面。舗装も何もされていない土である。前にライトを向けると、土の壁、上に向ければ土の天井、左に向ければ土の壁、右に向ければ抜け穴。どうやら洞窟であるようだ。

 一本道でしかない上に、ここにいてもどうしようもないため、とりあえず歩く。途中、手を光にかざしてみたが、内出血の跡などは見られなかった。

 歩きながら、坂田世界は考えた。気絶前に立てた最後の仮説が、どうやら現実味を帯びてきている。と。

 歩き続けること3分。洞窟を抜け、ドーム状に開けた場所へ出た。天井は目測で5メートルほど、円の反対側まで300メートルほどといった程度であろうか。中心には壺状のオブジェが天井付近までそびえ立っており、若干だが明るかった。

 ここで行き止まりであることを確認した世界は電池節約のためにスマートフォンの電源を切り、恐らく何かが入っているであろうオブジェをノックした。直後に地響きのような重低音が響き、勢いよく煙が噴き出てきた。その煙が徐々に形になっていき、少し崩れた人のような形となった。


「・・・あ、まだ残ってたんだ。てっきりさっきので全部送ったかと思った」


 男性とも女性ともつかない声が、世界に話しかけてくる。世界は特に動じることも、驚くこともなく、堂々とした態度で


「おそらく人間より上位の存在と見受けられるが、どんな世界にうちの学校の人間を飛ばしたのだ?」


 と、切り出した。


「そこまで分かっているなら、私が暇つぶしの為に呼び出したこととか、送る世界に文明と発展を促してほしいとか、そういうのも分かっているっぽいね。もしかして、どこかに隠れてた?」


 聞きたかったこともあっさり話してくれる上位存在のフランクさに少し緊張を解いた世界は、滑らかに語りだす。


「いや、起きたのはつい先ほどだ。気絶寸前に周りがバタバタと倒れていたところが見えたので、いくつか仮説を立てていた。そして起きたところが校庭でも病院でもなかったところで仮説はひとつに絞られたというわけだ」


 なるほどね、と、ひとしきり納得した上位存在は、世界に再び話しかける。


「今まで何回かこういうことしてきたけど、キミみたいな存在は中々見かけないね。面白い。他のには1個だけしか上げなかったけど、特別に2個あげちゃう。何でも言ってよ!どんな願いもかなえてあげよう!」


 尊大かつ破格の願い。それならばと世界は少し思案して、願い事を言う前に一つだけ、と上位存在に了承を得て、確認を入れた。


「今から僕が送られる世界は、一体どのようなところなのだ」


「世界の根幹は魔法で構成されている世界だね。まぁ化学兵器なんかもここ百年で確認されるようになったけど、基本的には魔法が主流だよ」


 100年という単語に違和感を覚えた世界は、予防線も含めてこう答えた。


「僕の半径10メートルで、魔法やあなたのような上位存在から与えられた他人の能力が掻き消えるようにしていただきたい。それともう一つは・・・近接戦闘に関する知識を、僕の現在の実力に収まる範囲内でいただきたい」


 これを聞いた上位存在は、勢いよく笑いだした。


「あっはははははは!!さすがだ!やっぱり君、分かってるね!無限の知識を願ったやつがいたけど、向こうについてすぐ脳みそはじけ飛んだね!」


 やはりか、と世界は納得しつつも、自身の友人の顔を思い出した。二郎は・・・持ち前のスペックでどうにかしているだろう。脳金は知らん。最初に願ってしまえばそれまでだ。


「ああ、それと魔法と私の与えた能力の無効化だね?いいよ!いいよー!ほんとつくづく分かっている人間だよ君は」


 上位存在は、そういって世界に手をかざす。とたんに光に包まれる世界の体。いよいよ転送が始まるのかと、少し世界は不安になった。


「やっぱり君でも初めてのことは不安かい?そんなに肩ひじ張らなくても大丈夫さ!君は大当たりの選択肢を引いたんだぜ?正直私は驚いたよ!他の欲望まみれの奴らとは一線を画す!いや、他数名だけ当たりとまではいかないが、及第点を引いたのがいたか。まぁそんなことはどうでもいい!そういえば名前を聞いていなかった!君は何という名前だ?」


 及第点が誰なのか、聞きたいところだがどうせこの分だと名前も聞いていないだろうと、世界は早々に聞くのを諦めた。


「僕の名は世界。坂田世界だ。上位存在、貴方こそ、よい暇つぶしを」


 その言葉を待っていたかのように、世界の体は光の粒子となった後、虚空へ消えた。


「・・・上位存在、か。面白い考えだ。いい暇つぶしになりそうだよ。坂田世界くん」


 誰に聞かれるでもない独り言を、上位存在はつぶやき、壺の中に戻っていった。


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