友人たちと、学校と
「あのねぇ坂田君、これでもう4度目の遅刻だよ?貴方は学校から家が近いんだから、せめてあと五分くらい早く起きるだけでいいんだよ?」
担任からの短い叱責ののち、今度はなたら熱意のある体育会系学級委員、宮城奏からの叱責が飛ぶ。ちなみに担任からのありがたいお言葉は「はいリーチ」とのことで、次に遅刻をした場合、何らかのペナルティがあることしか分からないというある意味恐怖を感じさせるものであったということを、ここに記述しておく。
「知っているか宮城。ある調査によれば、学校から家までの距離が近ければ近いほど、遅刻の回数が多くなるらしい。それは交通手段であったり、志の関係らしいが、まぁ家が近いからという理由だけでこの学校を選ぶような人間に、そのような心意気があるはずがないだろう?」
「それとこれとは話が違う・・・あれ?違わないのかな」
追記するとこの学級委員、熱意と体力は人一倍あるのだが、勉学的実力があまり伴わない。脳みその作りが筋肉に寄っているのだろうと世界は分析している。
「いいか宮城。僕はあと一回で何らかのペナルティが待っていることにも等しい宣告を断った今担任から受けた。宮城はペナルティを受けたいと思うか?つまりはそういうことだ」
あえて明言を避け、他人に誤解を与える詐欺師の初歩テクニックのようなことをやってのける世界。よく言えばまっすぐで純粋、悪く言えば単純で単細胞な奏は
「そっか!そうだよね!うんうん!分かってくれればいいんだよ!」
と、何やら納得したようにその場を離れて行った。やはり阿呆は阿呆かと、世界が一人で納得していると、後ろから声がかかった。
「朝からお熱いな。もうどっちからか告白してしまえよ」
友人の中道二郎である。周囲の評価はモテる男で、ヒラエルキー上位に君臨している男である。しかしその実態は恐ろしいまでのアニメオタクであり、一見するとミュージシャンを目指す若者のような部屋も、クローゼットなどの扉をすべて開け放つと美少女フィギュアやアニメのポスターが顔をのぞかせ、煮詰まってドロドロに濃くなったディープな部屋と化す。中道自身隠すこともなくアニメの話をするのであるが、周りは聞かなかったことにしているのか、はたまた脳がすれ違った情報をシャットアウトするのか、いずれにせよ、彼が重度のアニオタであるということは周りに認知されていない。
「馬鹿め、僕は宮城を好いていないし、宮城も僕を好いていない。どこをどうすればよいというのだ」
対してこの坂田世界という男は、まぁ、モテるにはモテるのだが、偏屈な性格のせいで彼女がいない。とだけ言及しておく。
「まぁ、お前がそういうのなら無理強いはしないが・・・そうそう、もう少しで件のものが発売されるが・・・どっちを買った?」
と、中道は恋沙汰事情の話をバッサリ切り上げ、近日中に発売される美少女アニメ原作の携帯ゲームで発売されるシュミュレーションゲームの話を切り出してきた。
「無論、コンビニ限定版だ。お前はネット限定版だろう?」
このシュミュレーションゲームは、何故だかコンビニとのタイアップが決定しており、コンビニ限定の美少女フィギュアが付いてくるという、なんとも言えない辱めにも近いことをやってのけてきているのである。なまじゲームの中身が前作で保障されているために、周囲の目を気にしないような猛者たちのみ買っているというのが現状である。
「さすが、世界は俺のことを分かっているな。じゃあ、Xデーから2日後、俺の家で」
それだけ言うと、自分の席に戻っていった。その数秒後、現国の先生が教室に入ってきた。なるほど、気配察知も一流だな。と流し目で二郎のことを見た世界は、自身の得意科目である現国を心ゆくまで堪能した。