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REVENGER  作者: h.i
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剣の修行

「そう、あまり力まずに剣の重さを利用して振る!」

「ふん!」ブン!

「違う。剣は振るのではなく、落とすんだ!剣の重さを最大限に活かせ!」

「はぁ!」ブゥン!

「まだ力んでいるぞ!」

やぁ!とぉ!との掛け声と指導が響く。一体妖剣を何回縦に振っただろうか?軽く七百や八百は越えているのだろうが、一向に進展が無いようだ。大狼の言いたい事は良く分かる。余分な力を削り、遠心力と妖剣その物の重さを使って降り下ろせと言う事なのだろう…が!分かっていても、上手く出来ない自分がもどかしい。

日の出の少し後から剣を降り続けて今は太陽が昇ろうとしている。大体四、五時間は続けているのだろう。

「理想の形に少しづつ近付いては来ている。だが、基本を完全に出来なければ他を幾らやっても無駄だ」

「ふん!」ブゥーン!

「なぁ、大狼殿」

何度も妖剣を振りながら隣で砕けた大岩の欠片に腰掛けている大狼に隼也が声を掛けた。

「なんだ」

「大狼はどうやって此処に来たんだ?」

「どうやって…とは、どう言う事だ?」

「この世界にさ。俺は…さ、目が覚めたら此処に居て…当たり前みたいに事が進んで…」

シュィイィ…ン

妖剣が今までとは全く違う、正に空を切る音が残響を残し、綺麗な青々とした光の尾を携えて垂直に真っ直ぐ振り抜かれる、まるで喜んでいるかの様に剣は輝きを増した。

「良いぞ、その調子だ。…私はこの世界に生を受け、この世界に育てられた。きっと…この世界で生を終えるのだろう。それ以上は私には考えの及ばない事だな」

…ィイィ…ン

先程と同じような音と光を放ち妖剣が振り抜かれる。

「何か手応えを感じた様だな」

「あぁ、おかげさまです。…俺は正直そういうのが羨ましい。だってそうだろ?自分が誰か分からない、昔の事も良く覚えていない…挙げ句の果てには、良く分からない力の使い方を学んでいて…俺自身も何の抵抗も無く受け入れてると来た。一体……俺は...何なんだろ?」

隼也が剣の肩に担いで空を仰いで目を細める。それを見て、大狼が足を組んで冷ややかに答えた。

「そんな事は今は関係無い。今やるべき事を考えろ」

それを聞いて隼也が眉をひそめ、剣を持った手をダラリと下ろし、大狼の方へ向き直る。地面に触れた妖剣が勢い良く地面と擦れて激しく火花を散らした。

「そんなこたぁ分かってるけど…」

隼也の言葉を遮る様に大狼が口を開いた。

「この山に暮らす連中に認められる事…その為には力が必要だ。生半可な物では無い、正真正銘の力」

大狼の語調は先程のそれとは明らかに違う、強い物になっていく。

「だから、それは…」

大狼の言葉に隼也も食って掛かる...が、それさえも押し潰して大狼の言葉は続く。

「そして、お前にはそれを手にする素質がある。我々には無い物だ!……お前は…お前の思う以上に強い…」

大狼の言葉が突如として勢いを失い、声も小さくなった。

大狼は目を瞑り大きく息を吐いて瞼を上げる。その深紅の瞳には何とも言えない深い感情が宿っている様に見えた。

「これだけは覚えておけ…力無くしては何一つ守れない。理想にも近付けない。そう…何一つも…だ…」

何か、重い過去がある。過去に付いて何も覚えていない隼也にもそれだけは分かった。何か大きな圧力に押されている様な気がして隼也は動くことが出来ず、ただ、棒立ちしているしかなかった。

暫しの静寂が流れた。その静寂を破ったのは大狼だ。

「今のは忘れろ。さぁ、手を動かせ!上達は振った分だ!」

「え?あ、あぁ」



それからひたすら妖剣を縦に振る練習を続けた。記憶を壊されている所為か、大狼の言う素質なる物の為か隼也の成長は驚く程の速さであり、日が沈む少し前の頃には大狼も目を見張る程の縦振りを見せた。しかし、隼也自身は理由も可能性も知るよしはなかった。


一日中妖剣を振り続けるのも酷だ、と言う事で妖剣を大量に作る練習も少し挟んでいった、少し前までは6本程度だった物が今は8本程度まで同時に作れる様になり、それを打ち出す、一度展開した妖剣を瞬時に別の場所へ再度展開する等の操作を大狼から習った。妖力の底上げの練習として、座ってただ妖気を放出し続けると言う物も習った。妖力が底を尽くと更なる消耗に対応する事が出来る様に体が妖気の最大の量を上げるらしい。そして再び明日の日の出にこの場所へ集まる様にと指示を受け、解散となった。


日が殆ど沈み空が少しづつ夜に塗り潰される中、隼也は森の中をトボトボと歩いていた。烏も寝床に帰る様な時間、大きく白い息を吐いて隼也は嘆く。

「寒っ!家無いのか………ん?…そう言えば、また会いに行くか!」

隼也は突如、とても良い案が浮かび、何かに弾かれる様に飛び上がり今まで進んで来た方向から、少し西よりに進行方向を変え、宙を強く蹴り出した。


ズザザッ!

「彼女には悪いけど…」そう呟きながら少し困った様な乾いた笑いを溢しつつ隼也は少し進んだ、あの巨木の元へ。

「居るか?…居るよな居てください」

ハァー…と大きく息を吐き、今度はスゥ…と思いっきり吸った。そして強く腹筋を収縮させる。

「おーーい!居るー?!」

声が木霊し、少しの静寂…すると巨木の洞に白く輝く雪の様な物がちらりと見え、それに続くかの様に白銀に輝く羽をパタパタと動かして勢い良く幼い少女が飛んできた。

「きたのー!」

少女の飛んでくる勢いが良過ぎる為にぶつかるかと思い咄嗟に少し身構えたがそれは要らぬ心配で、目の前でふわりと減速し元気な笑顔を見せてくれた。

「ごめんな?こんな時間に…」

「いいよ、いいよ!おうちのなかではなそー!」

来客がさぞ嬉しいのか、やたらハイテンションでグイグイと隼也の腕を引っ張って行こうとする。『すまない、俺そんなにフワフワ飛べねーんだ…』そんなことを内心思いながらも妖精に引かれるがままに付いて行った。


「やくそくおぼえてたんだぁ!よかったぁ~」

「まぁ、な?最近忙しく為りそうだったから来れないかも、って思ってたけど…少し用事が有って、な?」

用事との言葉に隼也は首をかしげ、不思議の眼差しで見詰めてくる。今にも頭の上に、?が3つ程付きそうだ。

「ようじ、ってなに?」

「いや、あのな…?」

気が引けて言うのを躊躇う、まさかこんな小さな子にこんな事を聞く事に為るとは全く予想外だった。

「この辺に家…無い?」

「おうち?」

あぁー…やっぱり無いか...この反応は恐らく無いわ。

「いいよ!」

はい?!

「良いよ…って?」

耳を疑った。「あるよ」以上に予想外な返答だった。「いいよ」とは?

「つくってあげる!」

ィイィーャァアッホォウ!

まさか!小さい不動産がここに居たとは!

「ついてきてー」

「了解!」

少々疑問が残るがそれは些細な事、喜びを必死に押さえつけて少女に着いていく。少しでも気を許すと微笑みを装っている顔がニヤケ顔になってしまう。そうなれば誰が何処からどう見ようとも無垢な幼女の後をつける変質者のツーショットだ。それだけは御免、それを誰かに見られたとしたら!

そんな俊也を他所に少女が立ち止まり「どこにしよっかなぁ~」と、キョロキョロと辺りを見回していた。

「ここにしよ!」少女の指差した先は小さい花が数輪咲いている場所の横だった。

「任せますぜ」頼んだ側はあまり注文をせずに従う。

少女が地面にしゃがみ込み「いっしょだからさみしくないね!」と小さな花に笑いかけた。すると花がまるで返事するかの如く嬉しそうに少し光った様に見えた。

あれは...?

「いくよー!」

少女が両手を胸の前に寄せる。可愛い。すると地面が若草色に淡く発光し始めた。

それを見て隼也は、おぉ…と声を漏らす。今、少女から大きな力を感じる。ハッキリとはまだ分からないが、全てを守り、癒し、安らぎを与える様な力…とでも言おうか?少なくとも隼也よりは強い力だろう。

「ん~…」

少女の握り締めた両手が光を放つ。

「やぁ~!」

少女が花の咲くように胸の前に構えた両手を大きく解放した。

すると、目の前に光柱が現れた。光柱のある場所だけ燦々と太陽が降り注いでいるかの様に照らし出されている。

その神秘的な光景に声を出すのを忘れてしまっていた隼也に「おおきくなるまですこしだけまってて!........…ねぇねぇ、おうちにいこーよ!」と少女が声を掛けた。

それに「あぁ、うん」とだけ答えて少女の後を追って家に付いて行った。


「なぁ、ちょっと良いかな?」

「なーにー?」

巨木の洞の中で向き合って座っている少女に隼也が声を掛けた。

「この山ってさぁ、なんと言うか…その、怖い妖怪が来たりとかしないのかな?」

大狼達に聞いた話だ。大狼達にはあまり詳しくは聞けなかったが、隼也なら大丈夫だろう。

「うん、たまにね。でもね、だいじょぶなの!」

「大丈夫って?何が?」

「おかあさんがまもってくれるの!どうぶつさんも、むしさんも、ぜーんぶおかあさんがまもってくれるの!」

少女が勢い良く立ち上がり両手を腰に据えて胸を張り誇らしげな顔をした。

「おかあさんはとっ.....ても!すごいんだよ!みんなをいじめるこからまもってくれるんだ」

「守ってくれるか」

恐らくだが、この子の言うお母さんはこの巨木だろうか?皆を虐める子ってのは…この山への侵入者の事だろうか?

「みんなを虐める子って、どんな子が来るんだ?」

「いろいろ!とってもおおきなくまさんとか、いのししさんとか。ほかは~...えぇっと〜しゅんやみたいなかんじのこも」

俺みたい?同じ様な境遇の奴がいるのか?それとも大狼の話に出て来た人型の奴ってだけか?

「なぁなぁ、俺みたいな…」

「しゅんや!もういいよ!」

ティアーが俊也の言葉を遮り外を指差した。一ヶ所だけ太陽の様に降り注ぐ柱、そこには先程まで無かった大木が有った。

「そんなに時間は掛からないんだな」

大木の根元まで歩いて呟いた。今更だけどこの子は、かなり力を持った部類なんだろう。話し方はアレだが…な。

そう考えていると少し笑みが溢れた。家が有る事の安堵か、この子に対する可笑しさなのだろうか。

隼也が振り返って声をあげる。

「おーい!ありがとな!」

「………」

しかし、そこに少女の姿は無く、有るのは寥々とした夜の森と大樹のみだった。

おかしい。返事が無い。あの子なら必ず返して来ると思ってたがそんな事は無かった。

「おーい!」

少し声を大きくして再び呼んでみたがやはり返事は帰って来ない。

隼也は不安に囚われる。もしかするとあの子の身に何か!?

急いで大樹の洞を覗き込んでみる。そこには少し隠れた様に少女の寝顔が見えた。一瞬にして大木を育てたのだ、きっと疲れたのだろう。と思い隼也は口をつぐんだ。

隼也は少し微笑んで空を仰いだ。

安心出来たからか、なんだかドッと疲れが出て来た様だ。

木漏れ日の様に葉っぱ達の間に見える星空を見詰めて、それからおもむろに妖剣を作り出した。

昼間の事を思い出す。

「俺は…何をしたら良いんだろう…」

妖剣を大きく横薙ぎした。鋭く風を切る音が寝静まった森に響く。

「何を言われても、あんまり不思議に思わない…」

袈裟斬り、切り上げ、縦振り…何回も素振りをする。ブン!と、極希に鈍い風にぶつかる音がするが、殆どが鋭い風切りの音。習った物は縦振りのみ、しかし、体が自然に動き、どうすれば良いのかが自然と分かる。

何故、不思議に思わない?

何故、疑問を持たない?

何故、体がこうも動く?

「気持ちワリィ」自身が何が何だか分からない感覚に隼也は形容し難い気持ち悪さを感じた。

その気持ち悪さを振り払う様に全力で妖剣を振り払った。群青色の腕が妖剣を先導し、それに続く様に群青の刃が走る。

隼也の吹き飛ばす力が呼応して、妖剣が爆火を噴き上げ更に加速する。

剣のその光はより鋭く輝かしい物へと一時的では有るが進化し、その勢いは妖剣自身のみならず、自身の主である隼也をも振り回し、剣を振りきった隼也は妖剣の加速の余韻に数m引き摺られ、地面に靴の滑った後が付いた。

「これは....」

隼也が妖剣を振り始めた位置、数m程後ろを振り返って見ると、そこには舞い上がる青藍の火の粉と妖剣に引き摺られた隼也の靴跡が残っている。


気に食わない。

今までも当然の事の様に、事が進んできた。

またか?またなのか?

気の所為かもしれないが...何なんだろ、何処からか見られてる様な....

都合の良い事ばかり。誰かが誘導しているみたいに...

「アー!クッソ!」

何故こんな事を考えているのだろうと嫌気がさしてきた。

終わりだ!誘導だの何だのは全部気の所為だ!

頭を振り、マイナスな考えを振り払う。

「もう良い...寝よ....」

妖剣が切っ先から霧散していき、やがて手から剣の柄の感覚も無くなった。

隼也はフラフラと頼り気無く歩きながらあの子が作ってくれた、大樹の洞の中に入った。

大人1人が寝るとかなり一杯になる程の広さ。しかし、両足を伸ばす事が出来たので、さほど不自由は感じなかった。

隼也自身も気付かぬうちに、眠りに落ちていた。まるで時が止まった様に深い眠りに沈んで行った。








少々、急ぎ過ぎてしまったかしら?....良いわ...これからは怪しむ間も無く目紛しくなる。

それに...






そろそろ、あの子の準備も整うわ。

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