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REVENGER  作者: h.i
13/36

新たな仲間

「何から話して行きましょうか...?」


日中だと言うのに薄暗く木漏れ日が差し込む道をあやめと隼也は歩く。周りの環境とは裏腹に地面は整えられていて、とても歩き易い。

大狼は何かの書類についてで、あやめに追い立てられ、そそくさと帰ったらしい。


「何か聞きたい事は有りますか?」

あやめは歩きながらに聞いた。その歩みはゆったりとした物で、決して速くはない。だが、その中に何処か、気品や上品さのような物を感じるものだった。


「じゃあ...同僚はどんな人がいるんだ?」

まさか同僚が一人だけな訳は無いはず。

「ええと...私含め5人ですね、私達双子と筋肉馬鹿が二人、まとめ役が一人」


筋肉馬鹿...毒舌過ぎるんじゃ...

「わ、私達双子...言うと?」

「言葉の通りに取って良いですよ。私は双子なんですよ。私は妹で兄がいます」


「筋肉馬鹿って言うのは?」

「あの二人ですか...俺の武器には力が要るんだ!と言っては鍛えてばかりの人ですよ。まぁ実力は確かな物ですけど」

なんと分かりやすい脳筋なんだろうか。

気になる言葉が一つ有った。

「俺の武器には〜、って...その二人は武器が違うのか?」

大狼が長剣、椛が剣と盾だったのを思い出せば、確かに噂の二人も武器が違っても違和感はない。

「半分正解。でも半分は間違い。正しくは私達の隊に武器が同じ者は一人も居ません」

「という事はあやめも...?」

「ええ。勿論です」

そう言うと、あやめは半身に構えて右腕を斜め下に差し出した。

シュィン!

すると、黄金の燐光を放ちながら、鋭い金属音と共に右腕に沿う様にあやめの背後から槍が突き出して、綺麗に手の内に収まる。

長い...2m近く有るだろうな。


二又の刃の先は鋭い作りに為っているが、逆に根元の本は大きな返しが付いており、突き抜かれれば一巻の終わりであろう事は容易に想像がつく。

槍の穂先は銀色の金属で作られているが、刃部分は鋭い金色を呈している。

槍の柄は螺旋状に赤い炎の様な装飾が施してある。


うわぁ...


いつの間にか隼也の口から溜息が出ていた。

槍の刃ばかりに気を取られていて気が付かなかったが、槍の穂先の反対側を見てみると凶悪な物が目に映った。


「とっ....刺々しい」

槍の反対側は棍となっていた。それも棒術のようなスラリとした物ではなく、先に重りが付いており、より殺傷力を高める為と思われる棘がズラリと並んでいる。


「その棘は...」

「棍ですよ。槍だけでは対応が難しい場合にこちらを使います。どうしても硬く、槍が通らない...そんな場合も有り得ますから。どちらも有効なら両方使いますけどね」


恐ろしい...見ているだけで血の気が引く...

「どうしました?顔が青いですね...まぁ、初めてコレを見た者は大抵が、その様な表情を浮かべますし」


少し先を歩くあやめがゆっくりと振り向いて微笑んだ。

「それに......お兄様の方が更に禍々しい得物を持っていますから」



あぁ...もう帰りたい。











「さぁ、もう直ぐですよ」

前を見ると蛇行して、先の見通せない長い階段と、木々の隙間から僅かに覗く何かの建物があった。


階段に足を掛けながら隼也が切り出した。

「あの建物は?」

「あぁ、寒い...あの建物ですか?関所です、白狼の里に入るための。因みにあの関所が私達の詰所も兼ねています」

「て事は、あそこに他のみんなが?」

「そう言う事です。もう詰所と呼ぶより我が家ですかね?皆、彼処に住込みなので」

手を擦り合わせて息を吹き掛けながら、あやめが答える。

確かに今日は寒い。ここまで寒いと妖怪の身にも応えるのだろう。

曲がりくねった階段を登りながら、より大きな角を曲がると、先に小さく、大きな門が見えた。

「隼也...」

あやめが歩みを緩め、振り向かずに声を掛けた。

「彼が一人目です」


ガサガサッ!

突然木々が擦れ合う音が響いた。隼也がそれに反応する暇もなく肩を強く掴まれ、背中には3点、何か鋭い物が突き付けられた。

しかし、力が異様に強い。肩を掴まれただけなのに振り解くどころか身動き一つ満足に出来ない程だ。

肩越し隼也を掴む手には同じ様な形状の刃が三つ連なっているのが見えた事によって隼也はまず一つ理解した。

武器を突き付けられている...


隼也が考えを整理するより先に背後から男声が聞こえてくる。

「あやめちゃん?どういう事だ?何故尾行を許した?」

「彼の拘束を解いて下さい、竜胆さん」


「ッ...!」

背中に当たっていた刃が僅かに食い込んだ。

「樹さんが手解きを与えていた、例の人ですよ」

「例の...?あぁ!成る程な!」

「それに...話していたのに尾行な訳が無いでしょうに...」

あやめの説得により納得をしてくれたのか、ワリィワリィと謝りながら離してくれた。

背中を摩りながら振り返ると隼也よりも小柄な青年が立っていた。

「いやぁ...ゴメンな?敵襲かと思って爪立てちまって」

「いえ...大丈夫です」

とは言うもののかなり痛かった。服越しに背中を触ると僅かに血も付いている。


「自己紹介くらいしとかないとな。俺は、双羽竜胆ふたばりんどうだ。よろしくな」


自分に突き付けられていた武器の正体が今分かった。

剃刀の様に鋭く研ぎ澄まされ、金色の細工の施された刃。

それだけならば、一級品の芸術品にもなるのだろうが...然るべき人物が持つと途端に覇気を放つ。


一見構造は手甲鍵と似通っているが、大きく異なるのは刃の部分だ。片手に三つ、両手で六つの刃は、手甲鍵の様に引っ掛ける為の物では無く、それこそ猛獣の爪の様に相手を引き裂く為なのだろう、一つ一つが20〜30cm程は有る刃が三枚組とは、非常に恐ろしい光景だ。

手ばかりに目を奪われていたが、足に目をやると、そこにも大きな刃が備えられていた。抜き蹴り、踵落としに回し蹴りなどで、手同様に敵を真っ二つに出来る様にだろうか。


竜胆の武器に気を取られていると、竜胆は隼也の後ろに回り込んで話す。

「例のヤツ...えっと、隼也だっけ?今日来たって事は新入りになるのか」

「そう、なります」


う〜ん...


「よし!隼也!」

「うぉっ!」

いきなり竜胆が肩を組んできた。

「これからは俺の事は気軽に『双羽先輩』と...」

「竜胆、で良いですよ。隼也さん」

「ヒデェ...」

あやめの例の微笑みが時々だが、とても恐ろしく感じるのは気の所為なのだろうか?



「じゃ、さっさと詰所に戻ろうか」

「は...はい、双羽先輩」

「へへッ、どうせ樹のヤローに敬語使うなって口酸っぱく言われてんだろ?竜胆って呼べや」

竜胆はそう言って笑う。

出会いこそ難ありだったが、とても気さくな人の様だ。

「...分かった。竜胆」

「そーそー、お固くなんなよ〜」


残りの真っ直ぐな石段を登る。人、一人が通れる位の幅で、両端には甘く見積もっても隼也の身長と同じ程の高さの段差がある。見た感じでは明らかに登る為では無いらしい。

不思議に思っていると、あやめが丁寧に説明をしてくれた。

細い石段は敵襲の際に一気に攻め込ませず、出来るだけ一対一の戦況を作る為らしい。もし階段で力尽きても、その亡骸が敵の侵攻の邪魔になるらしい。こちらは籠城する側なので、石段が通れない不利は敵が被る様だ。

左右の石段については、ただすれ違う邪魔になるからとの事らしい。石段両端の森に関しては木々が密生しており武器の取り回しどころか、入り込む事すらも困難なので問題無いらしい。

ただ、その様な対策も空を飛べない外敵に対しては有効だか、少しでも相手が空を飛べるならば意味は成さない。


その様な事を話している内に階段を登り切り、関所の前に立った。

「関所って言うより門かな?」

聳え立つ関所の両開きの巨大な扉は人が通れる程に開放されており、見張りの一人すらもいない。


「見張り...とかは?」

「いませんよ。強い力を持った侵入者なら事前に気付きますし...弱いなら此処に来すらも出来ませんしね」

竜胆が門を押して通り道を広げる。すると、隼也の目には素晴らしい光景が広がった。

直射日光を遮り、優しい木漏れ日を投げ掛ける木々の下にその集落は有った。

大小様々な民家に商店と思われる家などの間を椛達と同じ様な銀髪の人々が行き交い、遠巻きから眺めていても活気ある声が聞こえる。しかし、隼也の視線を釘付けにしたのはそれだけでは無い。

集落を覆う様に生い茂った樹木の幹を支えに、更に民家などが有ったのだ。

木々の合間を縫って架けられた通路や広場にも目を凝らすと、人々が利用し、生活の場になっているのが分かる。この集落は所謂、二重構造になっているのだ。


綺麗だ...

まるで絵画の中にでもいる様な...

隼也はいつの間にか足が止まっていた。


「おい、何ぼっーとしてんだ?ほれ、行くぞ」

集落の光景に見惚れていると、竜胆の声が意識を引き戻した。見てみると、二人は関所と繋がった横長の平屋の引き戸を開けて今まさに入ろうとしている所だった。

「今行く!」

後でこの集落を回ってみようかな。





玄関に入ると右手に廊下、左手に引き戸が見えた。

「おい、隼也。一気にバッ!って開けてやれ」

竜胆がニヤつきながら小声で囁いた。

「え...?俺が?」

「思いっきり脅かしてやれ」

今にも吹き出して大笑いしそうな竜胆の横で、あやめは、いかにも呆れたと言った表情で溜め息を吐いていた。


あぁ、心配でたまらない。

そう考えながらも言われた通り戸に手を掛ける。

深呼吸して気持ちを整え、第一声を考える。

初めましてか?...いや、開口一番では可笑しいだろ。


「よし、行くぞ...。...3...2...1...行け!」


ガラッ!!


「おはようごさいます!」


「もう昼過ぎですよ、隼也さん」


..........


やめて、そんなキョトンとした表情で見ないで...

あぁ、この沈黙が痛い。椛の的確な口撃で心が折れそうだ...

いっそ笑えよ!笑ってくれよ!


「あぁ、おはよう」

「隼也って事は...あんたが新入りか!」

「やっと来たか、まぁ、座れよ」


「はいぃ...」



どこか気まずい。

とりあえず自己紹介となったので机を挟んで向かい合っているのだが、先程の一件で妙に居づらい気がする。

始めに見るからにリーダー格の様な男性が切り出した。

「先ずは俺達の紹介からか...俺は葵、累葵かさねあおいだ。呼び方は何だって良い」

最も右に座った男性が紹介をした。見た所一番大人びた感じのする男性だ。背もこの中では一番高い様で、それも大人っぽさに拍車を掛けているのだろう。

落ち着いた人がいて少し安心した。


「次は俺か!俺は星良蓮せいられんだ。よろしく!」

あぁ、この人なんだろうな...脳筋...

竜胆より若干若い位の年齢だろうか。

成る程、竜胆と蓮を見てみると、筋骨隆々と言った感じだ。竜胆に至っては何処に手首が有るか尋ねたくなる。蓮は竜胆と比べると細身だが、それでも充分な程だ。


最後に柱に寄りかかっていた青年だ。

「俺が最後か。俺は天城かおる。あやめの兄だ。あぁっと...隼也か、お前もここに来た以上それなりの実力は有るだろうし、期待してるぞ」


成る程...似ている。あやめと違い、目はあやめと比べて少し鋭く、耳もツンと立っているが、全体の顔立ちや雰囲気が似ている。流石双子と言った所か。

しかし、髪は見事と言うまでに正反対だ。

あやめは銀を基調とした黒の混じり毛なのに対して、かおるは逆に黒をが8割、銀が2割の髪をしている。

黒銀の比率が反対なだけで、こうも印象が違うものなのか...

「やっぱり、髪が気になるか?俺は母上似だからな。翼も出せるぞ」

そう言うとどうやって広げたか、背中から巨大な一対の翼が展開する。

「イテッ!」

蓮が顔を押さえながら、いっつも広げる時には周りに気を付けろって言ってんだろ...、とかおるに忠告する。

おそらく翼を広げた拍子に当たったのだろう。

「この翼と俺の得物の所為で、死神じゃ無かろうか?なんて噂をする阿保が集落に少数いてな。まぁ、俺にとって死神は誉め言葉だけどな」

そう言ってかおるが笑った。笑った顔は全くと言っても良い程にあやめと区別が付かない。瓜二つなどの程度では無く、同一人物と言われても信じてしまうだろう。

などと考えていると、葵が手を叩き注意を集めた。

「自己紹介は終わったな?では、今後の作戦の流れについて話す!」


トントンとあやめの肩を叩いて、隼也は目立たない様に囁いた。

「あの、作戦って?」

「良くこの山は外部からの侵入者に襲われるんですよ。恐らく妖気が多く集まっているからでしょうね。そこで、侵入者を私達が処理するんです。それを普段は作戦、と呼んでいるんです」


「...よし、続けて良いか?隼也」

「あ、はい」

「では、本題に戻る。皆も知っての通り、隼也の参加で人数が8から9に増えた。そこでだ、以前は4名2隊だったのを、3名3隊にしようかと思う。以前より作戦に小回りの利く状態になった。なので、以前は陽動で引きつけての奇襲を主としていたが、これからは状況により挟撃や十字砲火なども検討して行こうかと思う。誰か、ここまでで異論や質問は無いか?」




「特に無しだな。では割り振りについて話す。先ず一斑、全体に指令を出す神経系の役割だ。俺、犬走、大狼さんだ」

「まぁ、当然そうなるな」

そのオーダーに同意しながら、かおるは腕組みを解いて何処からか砥石を取り出した。


「次の二班は陽動だな。囮役から時間稼ぎまで、出来るだけ敵の注意を引いてもらう。先ずは、蓮だ」

「俺?!何で?」

「武器が喧しい。奇襲も何も、真っ先に見つかってしまう」

葵の評価に蓮はヘソを曲げてしまった。そっぽを向いた蓮に椛が必死にフォローを入れる。

「別に不向きなだけで、弱いとは言っていないですよ。現に大型の討伐数は蓮さんが一番じゃ無いですか。ですよね、葵さん」

「あぁ、その通り。二班には陽動及び、可能であれば討伐まで担当してもらいたいと思っている。よって、より討伐数の成績の良い者を選ばせて貰った。要するに、とにかく派手に暴れて敵をズタズタにして来いって事だ」

「そっ、そうかぁ?仕方ないなぁ!俺でなきゃあ駄目だってんならやってやろうじゃん?!」

あぁ、チョロいなぁ。蓮はおだてに弱いんだなぁ。


「本題に戻そうか。次に隼也が二班だ」


「俺ッ?!...ですか?」

「あぁ、そうだ。報告からの俺の考察だが、お前のその能力...条件さえ揃えば、どんなに硬かろうが大きかろうが、一瞬で倒せる力では無いかと思っている。俺の考えが外れているかもしれ無いが...巨大な可能性を警戒ばかりして潰すのも、愚かと言うものだろう?」


「おう!隼也!俺と同じだな!」

蓮が満面の笑みで後ろから肩を組んでくる。

「あぁ、良かった」

「よし!そういう事ならこれからは俺の事を、星良さん、って呼ぶと...」

「蓮で良い。蓮で。甘やかすと直ぐに付け上がるからな」

蓮の言葉を遮ったのは、かおるだった。

「ひでぇなぁ...まぁ、気軽に蓮って呼べよ」

「分かった、蓮。宜しくな」

「遠慮がねぇなぁ。ま、宜しくな!」


「挨拶は終わったな?では最後に天樹かおる。安定した戦いと蓮のお目付役、そして隼也に共闘のイロハを教えてやってくれ」

「了解。まぁ、順当に行けば俺だよな...。そういう事だ、隼也。これから宜しくな」

「こちらこそ宜しく。かおる...さん?」

「かおるだ、かおる。堅苦しいのは鴉共だけで充分だ...」


「済まないな...かおる。天樹兄妹は出来れば一緒にしてやりたかったが、今は隼也に経験を積ませる方が先決だ」

「良いって、葵さん。三班は俺たちの補助なんだろう?それなら、今まで通りだから...なっ、あやめ?」

「そうですね。今までも私が補佐、お兄様が討伐でしたし...あまり変わりは目立たないと思いますよ」


「そうか、分かった。では最後に三班だが...残った人員は分かりきっているだろう。紹介程度に読み上げるぞ。順にあやめ、樹、竜胆で、纏め役は大狼樹に頼もうかと思う。異議は?」


「無いです」

「無ーし」

「そうか。では三班には、二班の戦闘補佐、及び索敵奇襲或いは暗殺を担当してもらう。神経を消耗する役だが、頼んだぞ」


「りょーかい。任された以上、完璧にこなして見せるさ」

竜胆が湯呑みに注がれたお茶をグイッと飲み干して軽く答えた。


「良し、今日は解散だ!これからは自由行動で良いぞ。但し!連絡が入れば、即座にここに集まる事!良いか?!」

「「「はい!」」」

「解散!」




「おい、隼也」

解散の号令と共に人が散り散りになった詰所で、隼也の名前を呼んで手招いたのはかおるだった。

先程取り出した砥石の表面を透かすように見詰めながらお茶を啜っている。


「正直、不安だろ?」

予期していなかった質問。

不安?俺が?...いや...思い返すと、この土地に来てから不安は絶えなかったかもしれ無い。じゃあ今はどうなんだ?

「まだ、わからない...不安なような、そうじゃないような...」

薄っすらとだが、自分の居場所が出来たと言う意味では不安は無い。


どこか重たい沈黙が流れる...

やがてその静止を打ち砕いたのはかおるだった。

「ハハハッ...!だろうな!俺も最初は同じ気分だったよ」

「ま、どんな気分にせよ、これからは俺たちが居るんだ。命位は保証してやる。その代わりお前も早く背中を預けられる様になってくれよ〜」

天樹兄妹と隼也だけが残った詰所では、かおるの言葉にクスクスと笑うあやめの声が響いた。

「何がおかしいんだよ?」

「お兄様にしては格好良すぎる台詞だなって」

「偶には良いじゃないか。新顔の前位は格好つけさせろよ」

「はいはい。すみませんでした〜」

微笑ましい気持ちになる。仲の良い兄妹とは、この様な事を言うんだろうな。

「済まないな。見苦しいところを見せて」

「いや、大丈夫」

「そうか」


かおるが、反対の肩越しに左手を後ろに回した。すると淡い白銀の光が背後から溢れ出る。そして一気に抜き放った。

「そ、それは?」

よく分からない。何なんだろう?恐らく武器なんだろうが...1mは有る棒、あれば柄だろうか?

そうだとすると、こちらは刃の部分。なだらかな曲線を描くそれは大部分が深い黒をしており、そこに銀で細工が施されている。そしてその刃は柄と隣り合う様に折り畳まれている。

何かしらの折り畳まれた武器らしい。


「分からないか?じゃあ答えだ」

ギィン!と金属同士の擦れる音と共に刃部分が展開した。

「鎌...?」

「そう、鎌だよ」

お兄様の得物の方が禍々しいですよ...と言っていた、あやめの言葉を思い返すと、確かにその通りだと思う。

柄も刃も軽く1mは超える程の規模の大鎌。

全体的に弧の意匠が施された造形だ。

刃の内側には幾つもの鋭い返があり、また、普通の農業用の鎌とは違い、背まで刃になっており、巨大な返が三つ程付いている。

返一つでも人程度ならば軽く貫ける程の大きさが有る上にそれが三つもだ。返も全て同じ形では無く、一つ一つ形が違い、対象をより深くより残酷に引き裂くのだろう。


あの様子じゃ一度貫かれれば二度と逃げられないだろうな。貫かれても生きていられればの話だけど。

兄妹揃って恐ろしい武器だ。


「俺は大鎌だ。武器での斬り付けもだが、大鎌の形状を活かして、敵を突き刺し、投げて確実にトドメを刺す。そんな戦い方をして来た」

「敵を投げる...」

「そうだ、敵を自らの手足や武器で引っ掛けるなり掴むなりして、敵を投げて...姿勢を崩してから確実に仕留める。俺とあやめ、蓮と...樹もか、今の所4人だな、投げが得意なのは」


「恐らくお前が、俺や蓮と同じ班になったのは...葵さんはお前に投げなんかを学んで欲しかったからだろうな」

「そんな意図が...」

ただただ、隼也の戦い方が暗殺向きでは無いとの理由のみでの決定じゃ無かったのか...


「武器を持っているからと言って、それのみで戦う奴はただの阿呆だ。間合いが遠いなら、牽制程度でも飛び道具を、間合いに入れば武器を、近過ぎれば手足で打撃なり投げるなりした方が効率が良い」


「葵さんは...あんな風に無愛想に見えますけど、誰よりも貴方に期待をしているんですよ」

「あぁ、その通りだ。お前が来る少し前も...ン!ンンッ!...『新しい主力になるな』...って言っていたしな」

かおるが葵の表情や声色を真似して語った。意外な事に結構似ている。


先程から手に持っていた砥石で大鎌の返を研ぎながらかおるは更に語る。

「そう言えば、蓮に付いて話はしたか?」

「いいや...まだ、何も」

「そうか、それなら今の内に話しておくか。...星良蓮、武装は鎖剣だ」


鎖剣?あまり聞き慣れない武器の名前だな...

「鎖剣って言うのは、どんな?」

「まぁ、文字通り。鎖に繋がった剣だ。鎖鎌って知っているか?」

「あ、なんと無く....」

鎖鎌と言えば、あの

「あれからの派生だよ、見た目は大分違うけどな。鎖鎌が鎌に鎖分銅を取り付けた武器なのに対して、鎖剣て言うのは長い鎖の両端に剣が付いてる。鎖がどの位って言っていたか...?確か...2?いや...30mと言ってたか...?いや...もっとあるかもなぁ...」



「サンジュッ...えぇ?!」



「確かその位有って、状況で必要な長さだけ手元に呼び出すらしい」

「呼び出すって?」

「所謂、召喚。お前も見てただろ?皆が何も無い所から武器を取り出したり、仕舞ったりしていたの」

そう言えば...

確かに椛や大狼達も何も無い所から武器を取り出していたのを思い出す。

「何度かは見た事は有る」

「それを利用して必要な長さを召喚しているらしい。多分だが、本人以外、誰も蓮の武器の全容を見た事は無いんじゃないか?」

「デッケェ...」

「まぁ、その分豪快な戦い方するから目立つし、鎖だからジャラジャとウルサイけどな」

「あぁ、だから二班にか...」

「まぁ、一番戦って目立ってるのは葵さんだけどな」

「え?どういうこと...?」

かおるはニヤニヤしながら答える。

「見てのお楽しみだよー」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「ムムムム...」

「フッ...!」

ブゥン!

186本目...もう疲れ切った...

「隼也さん、そろそろ休みましょうか?」

「わかった...」

スゥ...と妖剣が溶け出して、鮮やかな青は宙に混ざりやがて見えなくなる。


連続で妖剣を作り出して、イメージを頭に叩き込む。


無数に反復練習をして、身に染み付いた技能は何時しか自身が意図せずとも無意識にこなす事が出来る...と、かおるが大鎌の手入れをしている間、ずっとあやめが監督をしていてくれた。

最初は形や大きさが不揃いだったものの、回数を重ねる毎に少しずつ細かい部分や大きさが統一され、瓜二つの剣を作れる様になって来ている。




何だろう?前よりも妖力に余裕が出来た気がする。


実際、隼也の妖気の絶対量は増えていた。それも僅かになどと言った量では無い。日に日に、目に見える程に妖気が増えてゆく。

また、隼也の妖気の扱いが僅かにでも向上した事にも原因がある。

以前より逃す妖気の量が減り、無駄や浪費が減った。

つまり、より少ない量で妖剣一つを作り出せるようになっている。


「中々の物だな」

鎌の手入れを終えたかおるが顔を上げた。

「僅か数日間とは思えない位の上達ぶりだ。それも来るべき日の為に...か」

「...?」

来るべき日の為に?何の話だろうか?



「おい、隼也隼也」

「ん?何だ...うぉっ!?」

呼び掛けられて、かおるの方を向くと、そこには大鎌を担ぎ、自らの黒羽で自身を覆ったかおるの姿があった。

「これが死神の正体」


周りの他人が、かおるを死神呼ばわりするのが分かった。

兄妹似通った色白の肌に所々に白の混じる黒髪。銀色の目に、翼を外套の様に纏って、禍々しい大鎌を担げばどう見ても死神である。

「驚いたか?」

「う、うん。まぁ...多少」

「そうか...。もう少し驚いてくれると思っていたが...まぁ良いか。よし、じゃあ死神と少し村を歩いて周るぞ」

そう言ってかおるは大鎌や翼を仕舞って、財布財布...と呟きながら奥の部屋に行ってしまった。


あやめがいつもの微笑みを浮かべる。

「良かったですね。この村が気になっていたんでしょう?ここに来る際に見惚れていた様ですし」

「そんなに見惚れてたかな...?」

「そんなに見惚れていましたね」

急な話だが、内心とても楽しみだ。初めて来た土地を散策するのは何時でも心が躍る。


そんなことを思っていると、「あー、あったあった」との声が奥から聞こえてきて、部屋から出てきたかおるは開口一番に「よし行くぞ!隼也、あやめ!」と言い放ち玄関に直行した。

双羽竜胆さんはウルヴ○リンを思い出すと分かり易いかもしれしれませんね

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