悲劇
承知の上と思いますが、これは東方の二次創作です。苦手な方は注意をお願いします。それでも「構わん、行け」と言う方は、どうぞ、ごゆるりと。
休み時間の教室
次の時間の準備をする者や、笑いながら友人と話をする者、何の変わりもない一日。
ドゴオオオオォォォォンッ!
意図も簡単に平和は崩れ去る。
「よう!隼也ぁ!」
朝一番校門を通り抜けると大きな声がする。
変わらない日々
「はい、今日は教科書の64ページからなー、まずは…じゃあ神崎!一段落目まで読んでみろ」
何時もの様に始まる授業
変わらない日々
昼休み、今になっては立ち入れるのも珍しい屋上。青く透き通る空にアクセントを加えるように入道雲が流れていく。日陰を通り抜け程好く熱が奪われた風が心地いい。
「代わり映えしないよなぁ~」
「どうした?唐突に…」
隣に立っていた、少し小太りの男が質問してくる。毎朝登校の時声を掛けてくる。柊亮だ。いわゆる友達と言う奴で、どっちから…と言う訳でもなく、いつの間にか友達に為っていたと言う感じだ。
「いいや…何にも無いなぁって」
「だから…どうしたって?」
足が速い以外に特技は無い。成績も中の上下をフヨフヨするばかり。人並みに友達関係も有る。別段裕福でも貧しくもない。
「普通過ぎるんだよなぁ…」
「良いじゃん、普通って。それとも何かな?アニメみたいな波瀾万丈な人生がお望みで?」
少しニヤつきながら亮が質問してくる。
「お前、本っ当にアニメ好きだな」
「アニオタを舐めるではない。って、それは良いとして、どんな人生が良いの?」
「どんな人生を、って訳じゃないけど何か普段と違う時が有っても良…」
ドゴオオオオォォォォンッ!
グラリ、と大きく建物ごと揺れ一階の方から日常とは大きくかけ離れた音が響いた。
「隼也!」
「行ってみよう!」
二人が屋上から校舎内部へと繋がるドアに手をかけようとした瞬間。
ガラガラと大きな音を立てて、校舎ごと北向きの生徒玄関の方に大きく傾いた。
「うぐっ!」
突然の事に二人は傾いた床を転がり鉄柵に強く背中を打ち付けた。亮はかなり強く打ったようで咳き込んでいる。三階建ての校舎の屋上、転げ落ちれば命の保証は出来ない高さだ。幾ら命拾いしようと障害が残るだろう。
「亮!大丈夫か!」
「あぁ、すりむいただけ」
傍らから聞き慣れた声が聞こえて来て酷く安心したと同時に周りの状況がはっきりと見えるように為ってきた。
「「と、とりあえず逃げよう!」」
二人は屋上から校舎に飛び込んでいった。
「……なッ…」
「……ッ」
言葉が出なかった。形容するのに余計な言葉は要らなかった…『地獄絵図』その一言に尽きた。何が行われたのだろうか…壁床柱全て、一見廃墟かと見紛う程にボロボロに破壊され、大穴が至るところに空いている。
爆発物や小銃等によって見る影もなくなっている。
それだけならば良かった。まだ救われていた。
いとも簡単に平和は崩れ去る。
己の目を疑いたかった…信じたくなかった。
たった、たったの数十分前まで笑いっていた仲間が、もう二度と、恐怖、苦痛、絶望、それら以外の表情を浮かべることを許されなくなっていた。
両腕を切り飛ばされて血の海の中央に倒れている、いつもクラスで皆を先導していた竜希だ。
腹部に大きな血のにじみが出来ている、何をされればここまで流血するのだろう。恐らくクラスで一番剽軽者だった秀人か。
非情にも逃げる暇も無かったのだろう、胸をナタで叩き割られている、名前は確か優奈だ。
二人の時間が止まった、体が棒の様に動かない。
今現在目撃した事柄の整理が全く追い付いて居なかった。
「優奈、ごめん…」
「隼也!?なにを!?」
隼也はこれから先、何が有ろうとも僅かにも動かない優奈の胸部からナタを引き抜いた。大きく裂けた胸に真紅の液体が滲む。
「人間ってさ…こんな時、悲しみより、絶望より、恐怖より、憎しみが湧くんだな…」
ナタの木製の柄が音を立てて軋むほど強く握っている。
「おい…隼也…」
隼也が今何を思い、何を行おうとしているのか…亮に痛いほど伝わった。
「隼也!無駄だ!一先ず逃げよう!」痛いほど伝わった。いや、だからこそ絶対に引き留めたかった。此処で今復讐しに行っても恐らく…いや、絶対と言っても良い!返り討ちにされる。
バキィ!
「お前は、憎く無いのかよ…」
遂にはナタの柄が砕けた。隼也の手から血が滴る。
「………ツッ…………」
何も言い返せなかった…
校舎の壁に空いた大穴が風を呼び込み、亮をからかう様に頬を撫でて行った。
「……隼也…………」
もう其処には隼也の姿は無くなっていた。恐らく報復するために元凶を探しに行ったのだろう。
…冷静に考えると現実離れし過ぎた状況、現実離れしていたために自身は巻き込まれておらず全くの無関係ような錯覚を覚えていた…が、違った。嘘偽りなく事実であり自分はその場に立っていた。今更、足に力が入らなくなり、激しい嘔吐感に見舞われた。
『殺される』その一言が浮かぶ。
無意識のうち、逃走の体勢を取っていた…
「に…逃げ……」
「あぁ、やっと見付けたわ…」
背後から突然女声が聞こえた。冷や水に放り込まれた様な感覚を覚え、ゆっくりと後ろを振り返った。
黒いスーツを着た大勢の男たち…2~30人程が廊下に隙間なく並んでいる。そして全員がお互いの体の合間から、マシンピストルの銃口を亮に向けていた。
その前にこれまた黒いスーツの細身の女性が立っていた。声の正体なのだろう。
「どうしたの?大丈夫よ、安心して良いわ」
その女性の声はとても妖しく美しく一音一音が心に絡み付いた。そして何より、酷く安心出来る様だった。
「……あ………………う…ぁ…………」
恐怖に押され気付かない内に後退っていた。足元に力が入らず産まれたての馬の様にガクガクと震える。
「大丈夫、大丈夫よ…」
女性が圧倒され動けない亮の元へゆっくりと歩み寄って来た。そして亮の肩に手を掛け、反対の手で頬を撫でながら耳元に顔を近付け囁いた。
「一瞬で終わるから…」
ズンッ!
「グッ…!ウ…ァ…」
その瞬間腹部に今まで感じた事の無いような激痛が走り、一気に熱を持ったような感覚を覚えたと同時に体が動かなくなった。
「……………え?……」
亮は己の身に何が起こったのか、理解を出来ない。
何故突如自分を痛みが襲ったのか。
何故腹部に何時もとは違う感覚が有るのか。
そして
何故自分の腹部を鉄パイプが貫いているのか。
「あら…貴方じゃ無かったのね」
「………ガッ…………ハ……」
声が出なかった…眼前はモノクロームの砂嵐が吹き荒れ、音も酷く湾曲して聞こえる。意識が朦朧とし、呼吸も激しく乱れ大切な何かが抜け出ていくのが分かる。
「亮!」
聞き慣れた声が僅か遠くにだが聞こえた。視界の隅に駆け寄ってくる黒い影が見える。
しゅ…ん…や………
声を出そうにも息が掠れ弱々しく唇が震えるだけだった。
「りょ………う………」
声が出なかった、小さな羽虫の羽音にすら掻き消されそうな声だった。
「は……ぁ…?」
身近な人の死、この校舎の混乱、全く理解の及ばない所で俊也の思考は堂々巡りした。
亮の視界には立ち尽くす黒い影、色もなくなり更には光さえ消えようとしている光景。体も動かず末端から温かみが消えていくのが分かる…
あぁ…死ぬんだ………
「だめ……だ……………………に………にげ……ろ…は……や……」
亮は渾身の力を込め、自身の生涯の中でどんな時より強く強く叫んだ。傷口から血が吹き出し辺りが血塗れになり、命が削れてゆく…もう助からない命ならば今際の際に友へと何かを遺そうと言う決意の現れだったのだろうか、しかしそれを最期に彼の言葉は隼也には届く事は無かった。
亮の死に動けず立ち尽くす隼也へ女性がゆっくりと振り返った。
「ミッケ…」
女性が駆け付けた隼也を見て初めに口にした言葉だった。
女性は冷たい笑みを湛えながら続けた。
「幸運だった。少し遅れれば此方の損害が大きくなるところだったわ。未だD地区にこんな化け物が残って居たなんて、私の判断ミスね。だけど…死と言うモノは誰にでも平等に訪れるモノよ。人も獣も化物も全く例外は無いわ」
女性が、大きく右手を挙げた。
ガシャン!と一斉に揃った音が聞こえた、見てみるといつの間にか廊下を埋めるように並んでいた黒服達が、一般的にサブマシンガンに分類される小銃を構えていた。勿論銃口は、隼也の方向に向けられていた。
「これ以上、無駄な死は此方だって避けたいわ。カバーストーリーも、修復も手間が掛かるの。速やかに消えてちょうだい」
全てが早すぎて何が何か隼也には理解が出来なかった。但し、確実な事は目の前の奴等は敵で自分の命を奪おうとしていること。そして亮を、クラスメイトを、自分の周りの人間を殺した元凶であるだろうということ。自分から何もかも奪おうとし、実際に多くが奪われた事。
これらの理由は駿也を動かすには充分過ぎる理由だった。
「う…うあァァァーーーーーー!!」
何故か分からなかった、傷付いたのは赤の他人のはずなのに、憎しみが感情を押し上げていた。それは『死』の恐怖を握り潰し、足を腕をそして体を無意識の内に動かした。
鉈を肩に構え走った。あの何より憎い女を同じ目に合わそうと…
「用意」
ガシャッ!
「Fire」
女性の右手が勢い良く振りおろされる。
何の躊躇いもなかった。隼也を殺すため、意図も容易く指令が下された。
目の前が白く染まった。轟音が轟く、自分の聴覚が対応出来ない程だった。
同時に身体中が熱を持った。何か分からない絶えず積み重なる衝撃に身体は憎む相手に近付く事すら儘ならず押し返されていく。
廊下を埋め尽くしていた黒服が構えた小銃が火花を散らしていた。
照準は全て…
「隼也」
隼也を捉えていた。
「貴方は、どれ程耐えるかしら?」
どれ程の時間続いたか分からない。一瞬の様で長い間だった様で…
音が止んだ。スン…スン…と機械音のみが鳴り響く。
隼也は血の池に倒れていた。
もう、とうに痛みは消え失せている。精神を守る為に無意識下に現実逃避でもしているのだろうか、冷静さが残っていた。
「早めに手を打っておいて良かったわ。もう弱いけど力が発現してるなんてね。貴方の力は何かしら?頭部に胸部…致命傷となるところばかりに銃弾が当たってない」
…ク…ソ…もう終わり…かよ………
「でも、いくら致命傷を避けたとて、所詮…まだヒトね。出血多量で動けないでしょ?」
女性の言う通り体を動かすのは微塵も叶わない、景色もほとんど見えず、明暗だけが判断できている。
影がうっすらと映る。何だろうか…
「眉間から後頭部にかけて主要部を撃ち抜き、首を刎ねて終了という形にしようかしら」
あぁ、目の前にいるのか…
音さえ全く聞こえなかった。しかし、分かる。今すぐにでも打ち殺してやりたい奴が目の前にいる。
キリリと、小銃の引き金の音のみが鳴る。
雰囲気を察したかのように、一切の音は、鳴らなかった。
「D地区完了♪」
バァン!
-完-
嘘です。すみません。
拙作で見苦しいとは思いますが、細々と続けていきますので、気が向いた時にでも。




