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みちづれ

 ネット上の関係を除くと、私には創作仲間と呼べる相手がいない。親も私が小説を書いていることを知っているし、友達の中には創作について理解のある人もいた。ただ“理解がある”という程度のもので、一緒に活動しようというほどの熱意はなかった。また、高校には文芸部があったが入部はしなかった。だから、私が誰かと共同制作・活動をするときは、専らネットだけの関係の人達になる。

 例外として、最初の話で述べた漫画が挙げられる。私が創作をするきっかけとなった『龍犬鬼星の大冒険』は、妹二人との共同制作だった。あっさりやめてしまったので大したものではないのだが、この「二人を巻き込んだ」という事実が、人生における分岐点だったのではないかと思う。

 というのも、妹達はそのまま漫画を描き始めたのだ。先に挙げた『龍犬鬼星の大冒険』の続きを、ではない。彼女らが考えた、独自の物語を構築していたのである。特に勉強はしていないから、四コマ漫画風の単調なコマ割りと単純な構図だけだったのはご愛敬というやつである。

 本人に話を聞いていないので、最初の漫画が本当にきっかけになっていたのかは私にはわからない。ちまちま小説を書く私を見て触発されたのかもしれないし、あるいは設定を見るに、ただ単に中二病を発症しただけという可能性もある。時期と漫画という媒体から考えて、あの作品がきっかけになったとするのが一番妥当だというだけだ。いずれにせよ、自分でストーリーを考えそれを表現するという、創作の道に片足を突っ込んだ事実には変わりがない。


 妹達は漫画という形で創作を始めたが、その活動はかなり内輪的なものだ。自分たちで描いて自分たちで見せ合う。その小さな輪の中だけで楽しんでいた。ネットで作品を多数公開する私とは、その点でも違う。

 その輪の中に私は含まれておらず、妹が自分から見せてくれることは稀だった。対照的に、年の近い従妹には積極的に見せ、その上で楽しんでいたようだ。妹二人のうち、漫画をよく描いていたのは上の妹、つまり姉妹の真ん中だった。下の妹は自分が描くと言うよりは、設定を考え二人で話し合うことの方が多いように見えた。そして下の妹が一人で、あるいは協力して二人で描いた作品を、従妹に見せるというのが常だったようである。

 奇人のごとく一人で黙々と書き続ける私と違い、妹達の方がリア充、いや創作充であるように見える。姉のくせに何やってんだと言うかもしれないが、私と妹達とはトシが離れているので仕方がない。

 私と妹とは、上の妹でも4歳、下の妹に至っては6歳も離れている。これを長いとみるのか短いとみるのかは人次第だが、少なくとも子供においては重大な年齢差だ。4歳離れていれば中学や高校の三年間をすっぽりまたぎ、6歳離れると同じ時期に小学校に通うことすら叶わない。それだけの時間があれば背丈も考え方もかなり変わっていってしまう。

 一方で、妹二人は2歳、誕生日も考慮すれば1歳半しか離れていない。ついでに、先述した従妹は下の妹の1つ下である。その三人でグループができてしまうのは、想像に難くないだろう。

 ともかく、妹達はそうやって仲間内だけで楽しむ創作をしていた。ネットどころか、姉の私や親にも見せることは滅多になかった。

 強いて言うなら、ブログで作品を公開し始めた私が、妹の設定を使って物語を少しだけ書いたことがあるだけだ。序盤しか書いていない上に表現そのものは私が行っているが、当時の妹の世界観が垣間見えるものであるだろう。

 わざわざ過去形で書いたのは、別に妹達が創作をやめたからではない。今は少し状況が違うからだ。端的に言うと、今はある作品が公開されている。ただし、それは漫画作品ではない。


 私は高校生の頃には、すでにいくつか作品を書いていた。その上市外の高校に通っており、電車通学だった。その電車というのが一時間に一本くらいの田舎のローカル線なので、時間が合わず1時間近く暇をもてあましたこともあった。そのときによく、駅近くの本屋やブックオフに立ち寄ったものだ。

 そしてある日、ブックオフにてとある中古ゲームを見つけた。『RPGツクール』というタイトルのそれは、すでに創作に関心を寄せていた私にとって魅力的な響きを伴っていた。気になって手に取り、説明を読む。タイトル通り、「ゲームを自分で作るゲーム」であった。つまりイベントやキャラクター、敵の設定を作ることでRPGを作ることができるのだ。

 今も当時も、私がよく書くのはファンタジーだ。もともとRPGに影響されていた部分もあり、その『RPGツクール DS』を衝動で買ってしまった。正確に言えば、最初に見つけたときは結局買わなかった。しかし後で買わなかったことを後悔し、もう一度覗いた時には見当たらず、何度か足を運んでようやく購入した記憶がある。

 とにかく買えて満足した私は、家に帰ってから妹達にそのゲームを見せびらかしたりもした。けれど妹達には「なにそんなくだらないもの買っとるよ」などと一蹴されてしまった。とはいえ私が欲しくて買った物なので、少しはしょぼんとしたものの早速起動したりした。まあ私は飽きっぽい性格なので、数日したらすぐに飽きてしまったのだが。

 そうして飽きてほぼ放置していたら、何故か妹達も『RPGツクール』で遊んでいたことが判明した。何を言っているんだと思われるかもしれないが、当時の私も何故だよと思っていた。先のように一蹴された記憶があったのでなおさらである。たぶん妹達は一度は突っぱねたことを覚えていないのだろう。悪口や軽口というのは言われた側はよく覚えていても、言った本人はあまり覚えていないということがよくある。

 あるいは最初はめんどくさくてぞんざいな反応を返したが、あとで気になって遊んでみたのかもしれない。見方を変えればツンデレなのかもしれない。が、私はそんなの認めたくはない。

 話が逸れたが、それで妹達はRPGツクールにハマっていた。一目惚れで買ったはずの私よりもハマっていた。改良版の『RPGツクール DS+』も買ったくらいである。買ったときに私もお金を出したのか否か、記憶が曖昧なので何とも言えないが、買った後よく遊んでいたのは私より妹達だった。

 こうなったのは私が小説をメインでやっているというのも、一つの理由かもしれない。RPGツクールでゲームを作ろうと思うと、それ相応に時間を消費する。だから、書きかけの小説もあった私はゲーム作りに傾倒出来ない。一方で妹達はちまちま作っているだけだったから、漫画からゲームにシフトするのも簡単だったのだろう。

 そうしてゲーム作りに興じた妹達だったが、その頃はやはり内輪だけで楽しんでいた。というか、DSという媒体だったが故に、そう広く遊べる物ではなかった。一応、Wi-Fiを使えばネット上にゲームを投稿することができる。しかし中古ゲームなのでサービスはほとんど終わっており、利用価値は低かったのだ。

 私自身はほとんど遊ばせてもらってないが、二人がよく作っていたのは、弱くて足手まとい同然のキャラ・ペルギローンを主人公に添えたシリーズだ。魔法の使える幼なじみ(女の子)と旅をし、戦士や仮面の変な人と出会ったりと、だいたいそんな内容のゲームである。遊び心満載で、本編よりエンディング後の遊び部屋の方がゲームオーバーが多い、なんてこともあった。


 さて、そうしてゲーム作りに熱中した妹達だったが、熱中するにつれてDSのスペックでは満足出来なくなっていったらしい。作れるには作れるが、パソコン版のRPGツクールに比べれば設定出来る内容には制限があった。ついでに実況動画にも影響されていたのだろう。親にねだって『RPGツクールVX Ace』を買ってもらった。

 パソコン版を手に入れた妹達が、さらに熱中したのは言うまでもない。しかしそこで、一つの変化があった。ネットへの作品公開である。

 パソコン版では、手順さえ覚えてしまえば作品の公開は楽だ。しかも圧縮したゲームファイルを無料で配布してくれるサイトもある。何より今もフリーゲーム界隈は活発で、「乗り遅れた」という感覚になることもない。だから妹、特に上の妹が配布用ゲームを視野に入れたのは、ある意味当然のことだったのだろう。

 それまでのペルギローンシリーズのような身内用ゲームだけではなく、上の妹は配布出来るゲームも作り始めた。つまり、身内ネタがなくても遊べる作品を作り始めたのだ。そうしてゲームは完成し、『蒼白の雪』として配布している。今は状況が違うと言ったのはこのためである。

 この『蒼白の雪』は人気フリーゲーム『青鬼』や『魔女の家』などに影響されたのか、探索ホラーゲーム風で、しかもマルチエンディングだ。しかしその実体は、理不尽な理由でよくゲームオーバーになる死にゲーだったりする。身内時代の癖みたいなものだ。その辺、まだまだ修行が必要なんじゃないかとも思う。


 こうして振り返ってみると、二人が創作活動をするようになったのは、やはり私が原因だったのではないかと思うことがある。あのとき漫画を一緒に作ろうと言わなかったら、あるいはブックオフでツクールを見つけてこなかったら、もっと違う道を歩んでいたのではないか、と。

 もちろん、真相は私にはわからない。私が与えた影響なんてほんのちょっとかもしれないし、私が何かしなくても自分で始めた可能性だってある。現に、上の妹の友達には腐女子がいる。妹二人はフリーゲームの実況を見るのが好きだ。だから、他の可能性だってあるのだ。

 けれど今のルートにおいて、神でもない私の視点からは、あの二つのフラグが際立って見えるのだ。自分一人はまるのは自業自得だが、妹達を連れ込んでしまったというのはなんとも複雑な気分になる。妹は姉の真似をするものだ。いや、姉妹に限らずどんな兄弟においても言えることだろう。それに、人の幸せは本人が決めることで、他人がとやかく言うべきではない。そんなことはわかっている。わかってはいるが、やはり妙な気分になってしまうのだ。

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