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ラプラスの瞳  作者: 若槻 幸仁
プロローグ
6/78

天羽杯

 ラプラスシステムの制御を教える学校の間で毎年行われる天羽杯あめのははいと言われるトーナメントがある。

 これは、株式会社、「スカイ・ウイング」が主催するイベントであり、ラプラスシステムを使った戦闘の技術を競う大会である。

 株式会社「スカイウイング」、ラプラスシステムと呼ばれる機器を製造、販売している会社である。

 それはさておき、兼光学園ももちろん天羽杯に参加することになる。


「そういうわけで、学内予選を行う」


 葉桜小船がクラスの全員を前に、宣言した。


「通常、毎年志願者を募るのだが、今回は学内予選を大規模に行うため、諸君ら全員に参加してもらう」


 クラス全員が、特に成績が悪い生徒がブーイングをする。

 葉桜は、じろっとクラスを一瞥し、威圧的な眼光を放った。

 途端にクラスが静まり返る。


「天羽杯の概要は知っているな? スリーマンセルでの戦闘だ。ファイター二人、サポーター一人」


「その三人はどうやって選ぶんですか?」


 生徒の一人が質問する。


「通常の訓練で組んでいるメンバーと同じだ。スリーマンセルには、連携が不可欠だ。そのため、気心の知れたメンバーで組ませることにしている。どこかの三人組が一緒になるのは不安だが、まあ、いいだろう」


 葉桜が目を閉じ、ため息をつくように言うと、例の三人組みを見て、クラスが沸いた。


 葉桜が教室を後にし、チャイムが鳴ると、直刃は、柄叉のもとへ行き彼の机に手をつくと聞いた。


「柄叉、どうする?」


「ああ、俺は、学内予選、出来れば優勝したい」


「大きく出たね」


 さやが不思議そうに首を傾げた。


「柄叉くん、天羽杯に出たいんですか? 何で?」


「いや、別に……。ちょっと、な」


 柄叉は時々こうやって、はぐらかす。直刃とさやは、それにはもう慣れっこだったが、何となく壁を作られているような、そんな気分になるのは、今になっても変わらない。


「まあ、僕は、柄叉がそう言うなら、精一杯力を貸すよ」


「私もです! がんばります!」


 直刃はやれやれといった調子で、さやは、ぐっと拳を握り、元気一杯に、己を鼓舞するように言った。


「足手まといにならないようにするから。協力してくれよな」


 柄叉は、二人に向かって笑いかけた。


「そんな! 柄叉くんは足手まといなんかじゃ無いです! もしそうだとしても、私達がカバーしますから!」


「そうだよ! 柄叉! 大丈夫だよ!」


 二人は、必死と言ってもいい態度で、不自然に柄叉をフォローした。


「分かってるんだ。俺は足手まといにしかならないことくらい。そんなふうに気を遣ってくれなくていい」


 軽く笑いながら、そんなふうに、柄叉は言った。

 柄叉は何も話してくれない、自分の事や、家族の事も、全く・・・・。

 何も、何もだ。柄叉は、何も言わない。壁がある。壁を感じている。

 いつも、いつもだ……。

 それでも、二人は文句を言ったことは一度もなかった。

 柄叉は真っ白な笑顔を二人に向ける。

 二人は、その笑顔を前にすると、何も言えなくなる。

 柄叉はいつもその笑顔で言うのだ。


「ありがとな、二人とも」


 遠くの誰かに言うように、人事のように……。


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