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ラプラスの瞳  作者: 若槻 幸仁
プロローグ
5/78

回想1

 七年前、日本某所、


「ねえ、私たち、これからどうなるのかな?」


 柄叉は、不安げな表情の、赤毛の少女に問いかけられた。

 その、綺麗な光を湛えた目は涙を溜めながら、不安に、こちらに向けられ、華奢な身体は震えていた。

 無理も無い、太陽の光も届かない、地下の牢獄、二人を照らすのは、薄い、蛍光の光だけ、それも、檻の先の通路の更に遠くから差し込む光のみ、


「大丈夫だよ、きっと、僕のお父さんたちが助けに来てくれる。せっかくの可愛い顔が台無しだよ、だから、泣かないで」


「でも、ここに居た子供、あの人たちに連れて行かれて、帰ってこない……。きっと、殺されてる」


 二人は、ぼろぼろの服を着ていた。随分、長い間、ここに閉じ込められていたのが分かる。


「大丈夫、君を連れて、僕が逃げる。秘策があるんだ。だから、大丈夫、たとえ、お父さんが迎えに来なくても、きっと、君だけは守ってみせる」


 そう言って、柄叉は笑って見せた。

 すごく安心する笑顔。赤毛の少女、レーナは、泣くのを止め、「うん!」と頷いた。

 その直後、足音が響く。再び、レーナが身を強張らせ、柄叉は緊張した面持ちになった。

 やがて、ライトの光が二人を刺し、思わず彼らは目を伏せ、手で覆った。


「立て」


 ライトを持った薄らでかい大人にそう言われた。

 柄叉の目は、爛々と輝いていた。殺意と、そして、大切なものを守りたいという、決意によって……。

 足枷と、手錠が掛けられ、自由に動けないのに……。

 確かに柄叉には力があった。それでも、それはこの状況をひっくり返せるほどの力ではなかった。

 それは、子供っぽい妄執。自分のちっぽけさに気付けない子供は、直後動き出した。

 当然のことながら、大人を子供の力で倒すことは不可能、となれば、真っ向から挑むという下策は考えられない。柄叉はいつの間にか男の後ろに回りこんでいた。

 足枷と言っても、普通に歩くことは出来る類のものだ。もちろん、完全に邪魔にならないかと言われれば、否定は出来ないだろうが、それでも、走ることくらいは出来る。

 柄叉は、ネズミのような俊敏さで回り込み、男の膝の後ろに移動すると、回転し、手錠を叩き付けた。

 男がバランスを崩し、昏倒する。

 やっと、この時が来た、他の子供を檻から出すときには、柄叉が出口に行こうとすれば、警戒されただろう。柄叉はずっと、自分を呼ばれるのを待っていた。確実に逃げるために……。

 だが、運が巡って来ず、柄叉は結局最後に回された……。

 それでも、一番仲がよかったレーナと共に逃げることが出来るチャンスを掴んだのは、不幸中の幸いだった。


「レーナ! 逃げよう!」


 柄叉が叫んだ。

 レーナは、はっと眼が覚めたように頷くと、走り出した。

 柄叉は走り続ける。

 自由のために……。

 生きるために……。

 いや、生きるためにではない、生かすためにだ・・・・。


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