ずっと一緒に
「…なんでイキナリ私の好きな人の話なの?」
「……別になんだっていいだろう。」
「良くないよ!」
岬は声を荒げる。
何故だ?岬は何故怒っているんだ?
「あたし…裕ちゃんが良くわからないよ…。」
「………。」
「裕ちゃん、最近あたしの顔見て話してくれない。化粧してきたことにも気付かなかったのもきっとそのせいでしょ。」
俺は…何も言うことができなかった。
「…化粧だって、裕ちゃんに嫌われるの、怖かったけど…それでも何か言ってくれるかなぁって少し期待してた…。けど化粧に気付いたって…、拒絶の言葉さえ言ってくれなかった。」
岬は目を伏せる。
俺の行動が…こんなにもこいつを苦しめていたのか…。
『俺が絶対に岬を守る』そう決めていた俺自体が…。
本当に笑えない、な。
「…あたしの好きな人、なんで知りたいの…?」
簡単な、ことだったんだ。
「…好きな人を聞いて、あたしとその人…付き合わせてみるとか…?」
俺は逃げてただけなんだ、わからない気持ちから。
あのリビングから駆け出したあの時と、同じ様に。
「ね、ぇ…あたし、はぁ…裕、ちゃんにとっ、て…何、なのかなぁ…?」
唯一つ、あの時と違うことがある。
あの時は気持ちの『呼び方』すら知らなかったが、少し大人になった今。
俺は目の前で涙を流す岬に対する気持ちをしっかりと言葉に出来る。
「…裕ちゃ…ん…!」
あれだけ毛嫌いした行為を、まさか進んで俺からやることになるとは思わなかった。
俺は岬にキスをしていた。
「…ゆ、裕ちゃん…。」
岬は涙に濡れた瞳で俺を見つめた。
俺は微笑むと岬の髪を指で持て遊ぶ。
「ってええぇぇぇ!?何!?なんなの!?夢!?いや、でも…ええぇぇぇ!?」
「落ち着け、アホ。」
俺は岬の頬を引っ張る。
「い…いたひ…。」
「当たり前だ。これは現実だからな。」
まったく…こいつはどれだけ抜けてるんだ…。
「で、でも裕ちゃん…なんで?」
「したかったからに決まっているだろう。」
「したかったからって…なんでしたかったの?」
「お前を愛しているからに決まってるだろうが。」
「……う〜ん。」
「…まだ何かあるのか?」
俺はため息をつく。
これ以上何を聞く気なんだ…?
「最近あたしの顔を見なかったのは?」
「顔を見るのが…その…恥ずかしかったんだよ…。」
俺は急に恥ずかしくなり、視線を泳がす。
「じゃあ…、あたしの化粧のことを無視したのは…?」
「あれは…中嶋ですら気付いたのに俺が気付けなかった事に腹が立ってな。すまなかった…。」
岬はようやく満足したのか、微笑みを浮かべた。
「ところで岬、お前の好きな人をまだ聞いてないぞ?」
岬は俺の唇に自分のそれを重ねた。
「これが…答えにならないかな?」
俺は小さく笑う。
「…充分だ。」
「ただ、その化粧は落とした方がいいな。」
「…やっぱり似合わない?それとも化粧自体嫌かな?」
岬は苦笑いを浮かべる。
俺はそんな岬の耳元に口を近付けた。
「いや…そうじゃないんだがな。涙でメイクが中途半端に落ちて、かなりブサイクなことになってるぞ。」
岬は顔を真っ赤にして布団の中に潜った。
布団の中から
「最低!」と叫ぶ声が聞こえる。
本当に、人生何が起こるかわからないものだ。
あんなにも小さかった俺達が、今はこうしてお互いに愛を伝え合っている。
あんなに嫌いだった化粧も、岬が俺の為にしてくれていたのだと分かると、まったく嫌ではなかった…俺も現金なもんだ。
「岬…?」
今度は、俺が言う番だ。
「俺は…お前とずっと一緒に居るぞ…。」
「…うん。」
「…あの…二人とも…?入って良いかしら?」
俺はそこでようやく廊下に追い出した保健の先生の存在を思い出した。
そして、今まさに授業の真っ最中ということにも…。
俺達は授業に向かうべく廊下を歩く。
まぁ既に一時間サボってしまっているのだが…。
「岬、一つ聞きたいんだが、いいか?。」
「…何?」
岬は不思議そうに首を傾げる。
「浩介と愛はお前の好きな男は『俺』だと知っているのか?」
「うん、二人には凄い前から相談してたから。」
「そうか…それだけわかれば充分だ。」
成程な…『性格の悪い、真正の変態』か。
「ククク…あいつら…俺を敵に回すとどうなるか、教えてやる…!」
次話で完結です!
予定より随分と長くなってしまいました…(^_^;)