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思い出を喰らう悪魔

マズイことになった…。


俺『浩介』は頭を抱える。


まさか流石の裕一も、岬が化粧をしたからといってあそこまでロコツな反応をするとは思わなかった。



昼休みの一見の後、岬は泣きそうになりながら『…保健室…行ってくる…。』と教室を出ていった。


その後、俺は愛と2人で教室で会議中をしている。


「…はぁ。」


「…厄介だな…。」


「ここまで来たら私達に出来ることはないんじゃない?後は本人達に任せるしかないよ…。」


愛はそう言うと、グラウンドで無邪気にボールを追う裕一を見つめた。


あっ、また決めた。

本当無駄に運動神経いいな…。


「岬も大変なヤツに恋しちゃったねぇ…。本当あんなバカ、そうそういないよ?」


「…確かにな。ただ岬は俺より前からアイツと一緒にいたんだし、アイツの良い所も誰よりも知ってるんだろ。」


俺はそう言いながら愛の髪を撫でる。

愛はそのままジッと裕一のことを見ていたが、ふと怪訝そうな顔を俺に向ける。


「…ねぇ…裕一の良い所って……ドコ?」




「………。」
















(思考中)






















「…まぁ…色々だ。」


俺はフッっと笑う。


もちろん俺達にとっても裕一はかけがえのない存在だが、実際迷惑をかけられたことの方が多い。


例えばあれは中学3年の時、俺と愛が付き合い始めたばかりの話だ。







―――――――――――










学校帰り。


俺と愛は2人で帰っていた。


もちろんその頃は普通に手を繋ぐのも気恥ずかしくて、微妙な距離を保って歩いていた。


「なぁ、愛はさ。俺のドコに惚れたの?」


俺がそう言うと愛は顔を赤らめた。


本当に初々しい反応だったな。


「いきなりそーゆーコト聞く?第一その質問デリカシーないよ。」


「ん?そうか?」


他愛ない会話、でも俺にとってその会話一つ一つが重要で、何よりも愛すべき時間だった。


その時、後ろから聞き慣れた声が聞こえた気がした。







「浩介のドコに惚れる要素があるのか…フム、それは実に興味がある。」


「ちょ、ちょっと裕ちゃん!気付かれちゃうって!」







俺と愛は顔を見合わせると後ろを振り向く。


しかしそこには誰の姿もない。俺達は、不思議そうに首を傾げた。


が、そのまま歩き出す。

今思えばその声の存在を追求しなかったことが大きなミスだったのだが。










しばらく会話しながら歩いた後、俺達は愛の家の前まで辿りついていた。


「どうする?浩介、あがってく?」


愛は少し顔を赤らめながら俺に言った。


今思えばあがっておけば良かったとつくづく思う…。


「ん?いや、今日はいいや。」


「そう…わかった。」

俺は少し落ち込んだような愛しい彼女に手を伸ばすと、そっと髪に手を通す。


「ごめんな、次はあがらせてもらうから。」


「うん、良いよ。」


俺指は愛の頬を撫でていたが、やがてその指は愛の顎をそっと押し上げる。




「こ、浩介。」




愛がゆっくりと目を閉じると、俺はそっと彼女に顔を近付けていった。






「キャー!裕ちゃん裕ちゃん、見て見て!」


「うるさい、しっかりと見ている。しかし成程…雰囲気作りとはこういうことか。」




何か聞こえた様な気がしたが、俺達はそのままゆっくりと口付けを交す。







それはとても短い時間だったが、あの時の俺にはとてつもなく長く思えた。







それにしても…。




「キャー!スゴいよ裕ちゃんちゃん!ちゅうしたよ!ちゅう!」


「だからうるさいと言っている!そんなもの見ればわかる。」


「はぁ〜、いいなぁ…。あたしもあんなロマンチックなちゅうしたいなぁ…。」


「…まったく…あんな口の引っ付け合いの何が良いんだか。まったくもってわからんな。しかもだ、もし女がキスの時に口紅なんぞつけててみろ。俺の口にアレが侵食するかと思うと寒気を通り越して、吐気がする。」


「もー、裕ちゃんは本当にデリカシーがないなぁ。女の子の夢を汚さないでよ!って…こ、浩君!?」






それだけ騒いで気付かれないと思っていたのか?


このバカ二人は









「デリカシーがないのは…」













「てめぇら両方だ、このウスラボケどもめ!!!」













『その時のヤツは、近年まれにみる怒りっぷりを見せた。その形相は…そうだな…小学生時代、ヤツが一ヶ月かけて作った粘土の怪獣を俺が図工室でサッカーをして壊した時と同じような顔だったな(裕一談)』




「…岬、こんなことしてどうなるかわかってるわね?」


「ひゃう!?」


岬は笑顔で近づいてくる愛から必死に逃げようとしている。


「おい裕一…今日という今日は絶対に許さんぞ!」


俺は裕一を睨みつけるが、ヤツは俺と愛を交互に見ると不適に笑う。


嫌な予感が頭をよぎる…。


「なぁ浩介、これなーんだ?」






「なっ!!」







ヤツが手に持っている携帯には、




…俺達のキスシーンが鮮明に写っていた。




さらにヤツが携帯のボタンを押すと、数枚の連続写真が展開する。


…俺が…愛の髪に指を絡めた辺りから、キスをするまでの…。


裕一はにやけた顔を崩さず続ける。


「さて、俺がこのボタンを押すとこの写真は自他共に認める噂好き。『中嶋』の携帯に送信されるわけだが…さぁどうする?」




その時ようやくわかった。


コイツは人じゃない…悪魔だ…。



「よし、岬。今のうちに逃げるぞ」


「で、でも裕ちゃん…。」


「いいから行くぞ。」


裕一は呆然と立ち尽す俺達を置いて、岬の手を掴み走り出す。


「浩君ー!愛ちゃーん!ごめんねぇぇぇぇ!」







仲良く手を繋ぎ走り去る二人の背中を見ながら、俺達は抱き合って…







泣いた。






―――――――――――









「思い出したら腹立って来たわね…。」


「確かに…後で一発殴ろう。」


俺達はボールを追う悪魔を見つめた。


「それにしても…いくら化粧嫌いだっていっても、岬がちょっと化粧したぐらいであんな態度とるなんて…。信じらんない!許せない!女の敵よ!」


どうやらさっきの思い出話で愛の怒りに火がついたらしい。


「まぁ確かにな…けどさ、アイツの化粧嫌いには本当に深い理由があるんだ。困ったことにな。」


俺は今日何度目かのため息をついた。

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