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青天の霹靂

昼休み、私は机につっぷしていた。


理由は『彼』、裕ちゃんのである。


まさか彼があそこまで化粧を嫌悪しているとは思わなかった。


まさかあれだけ愛してやまなかった『清楚さん』すらも、あの良くみないとわからない程の化粧で一瞬にして彼の中からいなくなってしまった。


「はぁ…。」


「…おい…。」


「む〜…。」


「オイ!岬!」


私は

「へ?」という間抜けな声を出した。


顔をあげるとそこには浩君が立っていた。


「…浩君。」


「…どうやら裕一には気付かれてねぇみてぇだぞ。」


浩君は少し疲れた笑顔を向けた。


そう…私は今日、人生で最大の失敗を犯していたのだ。








―――――――――――








「むー…やっぱり裕ちゃんもなんだかんだ言って大人の女性が好きなのかな…。」


私は歯磨きを終えると鏡の中の自分を睨んだ。


健康的と言えば聞こえはいいが、どうにも子供っぽい顔。


化粧にも興味がなかったわけじゃない。


ただ裕ちゃんと仲良くしていくことを考えると、どうにも化粧に手は伸びなかった。


「ただ…。」


私は先ほどのお母さんとの会話を思い出した。







『お母さんこの間裕ちゃんに口説かれたわよ?』









「くっ、くそぅ…悔しい!!」


私がそう呟いた直後…


「あらあら、何が悔しいの?」


何時の間にか洗面所の後ろのドアからお母さんが覗いていた。


「お、お母さん!?」


お母さんは焦る私を見てクスクスと笑う。


「なんだー、やっぱり裕ちゃんのコト好きなんじゃないの。」


「そんなんじゃないってば!」


「いいのいいの♪で、お化粧したいんでしょ?付き合ったげる。」


私は自分の右手の中を見た。


そこには無意識のうちに握られたお母さんの化粧ポーチ。


「そ、そんな…。」


「さ、始めるわよ〜♪」


お母さんは笑顔で私に近づく。


「い、いやぁぁぁぁぁ!!」






―――――――――――






というわけで朝から私の顔には薄い化粧が施されていた。


「どうやら裕一も朝は加藤さんのことで頭一杯だったみたいだな。」


浩君はそういいながら私の前の席に座る。


「さっきもブツブツと『加藤さんはゾンビ化してまだ日が浅い…周りのゾンビどもを駆除すれば何とかなる筈だ…。』とかあぶねぇこと呟いてたしな。今のところは大丈夫だ。」


そう言って浩君は去っていた。


私はチラリと窓際に座り本を読む彼を見る。


黙っている分には本当に良い男だ。


少し長めのサラサラな黒髪と中世的な相貌。


しかしもったいないことに…。


「オーイ裕一!!一緒にサッカーやんねぇ!?」


「うるさい中嶋。ただでさえ暑苦しい貴様とサッカーなんぞやってみろ、汗でグラウンドが水浸しだ。


彼は本から眼を話さずに言う。


「まぁスプリンクラー要らずで体育課の花山先生は喜ぶかもしれんがな、生憎俺は花山先生が大嫌いだ。そしてお前も大嫌いだ。よって他を当たれ。」


凄まじい毒舌なのだ…。


しかし中嶋君は何故か笑顔を浮かべると、

「相変わらずいい口してんじゃん、やっぱ一日に一度これがねぇとな!!また誘いにくるなー。」









まぁ…中嶋君が変態なのは置いておいて、学年内で彼は『毒舌王子』と呼ばれている。


理由は言わなくてもわかるだろう。


彼は万人に対してあの態度なのだ。


しかしあれでいて優しかったり、可愛かったりする部分があるため、同性にも異性にも比較的好かれている。



ホラ、今も…本とグラウンドを交互に見てソワソワしている。


恐らく先ほどは断ったが、サッカーがやりたいんだろう。


その姿を見ていると自然と笑みがこぼれてくる。



「重症だねぇ〜、岬。」


「あっ、愛ちゃん!?」


私に声をかけた女の子は『愛』ちゃん。


浩君の彼女、黒髪の美人で私や裕ちゃんの親友だ。


ちなみに唯一裕ちゃんの毒舌に対抗するほどの毒舌を持つ数少ないお方でもある。


「まったく…岬といい他の女子といい、あんなヤツのどこがいいのかね?」


「…本当にね?あたしもわかんないや…。」


私はまた「はぁ…。」とため息をつく。




「ってか何よあのバカ。ソワソワして…むかつくわね…!」


愛ちゃんは裕ちゃんを睨みながら呟くと、立ち上がり裕ちゃんに向かっていく。


そして彼の前の席に座るとにっこりと笑顔を向ける。


「クソ王子、何ソワソワしてるんですか?気持ち悪いから消え失せて頂けません?」


恐るべき暴言。


しかし裕ちゃんもこれまた笑顔で…。


「うるさい、このカス。俺がどこで何をしようと俺の勝手だろう。大体隣のクラスに在籍している貴様がこの教室で堂々とモノをいえる存在か?わかったらとっとと自分の巣へ帰れ。」


「どうせ『さっき中嶋には断っちゃったから行きづらい…。』とか考えてたんでしょ?女々しいねぇ、『裕ちゃん』は。」


「くっ…別に俺はサッカーがしたいとは一言も言ってない。」


裕ちゃんは愛ちゃんの攻撃に少し目を泳がす。


と、私と目が合った…マズイ!そういえば私は今日は…。



ジーーーー…



凄い見てる!


どうしよう…ばれちゃうよ…。


「オーイ裕一!!また誘いに来たぞー!!」


ナイス中嶋君!!


それとさっき変態とか言ってゴメン!!


「…用事が入った。」


「まったく…そうやっていつも素直にしてれば可愛いのに。」


「うるさい。」


裕ちゃんは本にしおりを挟み始める。


良かった…どうやら気付かれないですんだようだ。



「あれ?岬ちゃん、化粧してる?」













「え?」









「へぇ〜似合うじゃん、何時にもまして可愛いよ!じゃあ裕一待ってる…あべし!!!」


浩君がものすごい勢いで中嶋君にラリアットをかましているのが目の端で見えたが、私はそんなこと考えられなかった。


私は…裕ちゃんの方を見ていた。


「……。」


彼は数秒私を見て固まっていたが、すぐに立ち上がり何事もなかったかのように歩みを進める。


「ちょ、ちょっと…裕一?」


「なんだ、愛。用事が出来たといったろう?」


「いや、何でもないんだけど…。」


「なら呼ぶな。」


裕ちゃんをそのまま私の目の前まで歩いてくる。


どうしよう…何か言わなきゃ…。


「あ…あの…。」


「………。」


裕ちゃんは…私の顔も見ようとせずに通り過ぎてしまった。


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