彼の朝
女は化ける。
と言うか俺に言わせれば化け物だ。
俺の姉貴を例にあげる。
ヤツは毎朝起きてくるなり、『…だりぃ…眠みぃ…』と胸クソ悪くなる様な顔で呟いている。
それがどうだ?
メシ食って30分近く洗面所を占拠したかと思えば、出てきたときにはすっかり『生涯純潔を貫いたシスター』みたいな笑顔で『行ってきます♪』なんて言いやがる。
まぁ、俺からしたら後者の方が吐気がするのだが…。
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駅前はいつものように人でごった返している。
俺の通う高校は比較的都心にあるため、必然的に学校の最寄り駅も多くの人が利用する。
本当に気分が悪くなるが、この間学校まで定期を買ってしまった以上、使わないわけにはいかない。
「…ぁ゛〜〜。」
「…オイオイ…朝から死にかけのゾンビみたいな声だしてんじゃねぇよ。」
俺がその声に振り向くと、俺と同じ制服を着た赤髪の男と茶髪の女が立っていた。
「…出たな?日本人の心を捨てた非国民どもめ。」
愚かにも黒髪を捨てた日本人らしからぬヤツラ。
赤髪の男は『浩介』、茶髪の女は『岬』。
俺の小学生時代からの幼馴染みだ。
「第一ゾンビという時点でもう死体だ、アホめ…。貴様は『腐った納豆』でも食って一生ネバネバしてろ。」
「ずいぶんな挨拶だなコラ…。」
「そうだよ、裕ちゃん。それにあたしの髪は色素が落ちただけだって言ってるじゃん!」
俺、『裕一』は心底嫌そうな顔でそいつらを見る。
「うるさい。日本人は黒髪が一番なんだよ。浩介は論外にしろ、岬もプール部なんかに入ってるからそんな髪になるんだ。」
「プール部って何よ!水泳部だもん!」
「俺は論外かよ!」
俺は非国民どもの抗議を無視すると改札機に定期を通す。
「どうした、今日はいつにも増して毒舌じゃねぇか。」
浩介は俺の横に並ぶと無邪気な笑顔を向けてくる。
「なんだ?嫌なことでもあったか?そういう時は俺様に相談しろよ、な。」
「暑苦しい、寄るな。アホがうつる。」
「うっわ〜…本当に機嫌悪いね…なんかあった?」
岬も苦笑いを浮かべながら隣に並ぶ。
俺の機嫌が悪い理由…それは…。
「ゾンビ…。」
「は?」
「何だよ、お前さっき俺が言ったことでキレてんのか?」
浩介はケラケラと笑う。
「違う!…アレだ、アレ。」
俺の指した先には女子高生の集団がいた。
「…アレって、うちの学校の人達だよね?」
「わかった!あの中に裕一のお気に入り、二組の『清楚さん』こと加藤さんが…ってあれ?」
浩介はようやくそれに気付いたのか目を丸くする。
岬は気付いていないようだ。
俺は
「はぁ…」とため息漏らす。
「…気付いたか、浩介…。」
「あ…ああ。」
「俺が唯一認める黒髪美人、加藤さんが…」
俺は天を仰ぐ。
「化粧してるんだよ…!」
呆然とする2人を置いて俺は拳を震えさせる。
「いくらゾンビどもといつも一緒にいるからといって、加藤さんは化粧なんぞしないと思っていたのだが…!」
「け、けど裕一。加藤さんの化粧、良くみないとわかんねぇぐらいの薄化粧じゃねぇか。」
「そういう問題じゃない!もうあの可愛らしい顔は…ファンデーションに塗り固められてしまったのだ…。…嘆かわしい…。」
目頭を押さえ、ブツブツと呟く俺。
浩介は呆れかえったように学校に歩いて行く。
岬は遠い目をして
「あ、あははは…」と呟いていた。
完結と共にこの話を大幅に修正いたしました。
修正前に呼んで下さっていた方、大変ご迷惑をおかけいたします。