彼女の朝
朝、起きると私はすぐ洗面所へ向かい顔を洗う。
冷たい水が眠気を飛ばしてくれる。
顔をタオル拭いているとふと鏡が目に入る。
水泳部に入っている私。
少し焼けた顔に塩素で色が落ちた茶色めの髪。
普通の女の子なら顔の色を気にするところなのだが、生憎私は普通の女の子ではなかった。
というよりも…恋の相手が普通ではないのだ。
「はぁ…。」
私はため息をつきながら茶色い自分の髪を撫でた。
彼はいつも私の髪を見るなり『非国民め』と言ってくる。
そう、彼は極端な化粧やオシャレを嫌うのだ。
特に化粧に関しては嫌悪していると言ってもいい。
理由については聞いたことはないが、出会ったころからそうなのだから気にはならない。
彼は小学生時代、担任の女教師に、『仮面みたいな化粧して顔を近付けるな。気持ち悪い。』と言って、先生に怒られたのは有名な話だ。
といっても、先生が『親を呼ぶ』と言ったら必死に謝る、子供らしい1面もあったのだが。
「岬ー!ご飯よー!」
「あ、はーい!」
私はお母さんに呼ばれるままに制服に着替え、リビングへ向かった。
――――――――――――
「ねぇ岬?」
「何?お母さん。」
私は目玉焼きをほうばるとお母さんに目を向ける。
「好きな人とかいないの?」
ブッ!
「あらあら、汚いわよ?」
「お母さんのせいでしょ!?」
私は汚れたテーブルを吹きながら顔を赤らめた。
「で、どうなの?カッコいい子が周りに2人もいるんだから、浮いた話がないわけでもないでしょ?」
「…それって浩君と裕ちゃんのこと?」
「そうそう。」
お母さんはニコニコと笑っている。
「…浩君は彼女いるよ?」
「じゃあ裕一君?」
「ち、違うよ!裕ちゃんは女嫌いだもん。」
私はお茶を飲んで顔の熱りを抑える。
「あらぁ、そんなことないわよ?お母さんこの間、裕一君に口説かれちゃったもん。」
「……………え?」
「えーー!!!なんで!?ってゆーかナニソレどういうこと!?」
お母さんは
「フフフ…」と不適な笑みを浮かべる。
「この間の朝、裕一君が岬を起こしにくるって言うからお洒落して待ってたのよ。」
私はお母さんが年甲斐もなくしっかり化粧をしていた時を思い出した。
「そしたら裕一君『相変わらずお綺麗ですね。俺おばさんとなら不倫してもいいです。』って。フフフ!」
私は唖然とした。
まさかあの裕ちゃんがそんなことを言うなんて…。
「あら岬、どうしたの?」
「なんでもない!」
「あら、妬いてるの?」
「妬いてない!もー…歯磨きしてくる!」
「はいはい。」
私はお母さんの笑い声を背に、洗面所へと向かった。
読んでくださってありがとうございます。
全5〜6話程の短い作品ですが、最後まで読んで頂けると嬉しいです(^_^)