プロローグ
人にはそれぞれ、叶えたいと思う願いがある。
それは例えば、世界征服といった大それたものから恋焦がれるの人との恋愛であったりと実に様々であるが、どのような形であれ、人には少なからず願望が存在すると言っていい。
突然であるが、もしもどんな願いでも一つだけ叶えられるとしたら?
叶えられる願いをさらに増やす、死人を復活させるなどの願いですら叶えられるとしたら。
食いついてくる、欲望盛んな人間がいてもおかしくはない。
そのダンジョンは、奥底にどんな願いでも一つだけ叶えられる『宝具』が眠っているという。
世界最高峰の大予言者とまで言われた、とある詩人がそう言い残したのだ。
世界中は一気に沸き立った。
入れば戻ってこれない、帰って来たものがいない、神域とまで呼ばれたそこには、かつて滅んだと言われる魔族や妖霊の類、また神獣などといった強大な存在が多くいて、ダンジョンの奥深くへ進入するのを強く、拒んでいる。
神の陵、魔神の封印場所、命あるダンジョンと呼称される大迷宮、『世界』。
その名の通り、ダンジョンへ進入する為の唯一の手段である扉の向こう側には、『こちら側』とは全く異なった広大な世界そのものが広がっていた。
魔法が跋扈し、モンスターが徘徊する危険地帯。砂漠があれば海まで存在し、高くそびえる塔があるかと思えば地下深くまで根を張る洞窟も見受けられる。
町まで存在しているのでは、世界そのものがダンジョンであると言わざるを得なかった。
人は一人、また一人とそこへ進入し、願いを叶える『宝具』とやらを求めてダンジョン内を進む。
中には国を挙げてダンジョンへ入っていくところもあり、『世界』の人口は日ごとに上昇の一途をたどっていた。
そして、また一人、扉の前に立つ者が現れる。
内に願いを秘めた存在が、『世界』の扉をあけて、その足を踏み入れた。
初めに広がっていたのは、広大な草原。
「よし」
青年はそう呟いて、見たこともない、しかし柔らかい草の上に自らの足を踏みつけた。