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精霊指定都市

 赤ん坊の名前を魔法で調べたら命名の儀とやらが済んでおらず無名だったので勝手に名付けた。

命名、アレクセイ。名付け親、レイラ。八千年ほど前にレイラが契約していた兎人の勇者の名前だとか。

 アレクセイ略してアレクはたちまち精霊ダンジョン部隊の間で人気者になった。

 渓谷を抜けたら砂漠を越えて十日ほどで目的地に着くはずがアレクに構いまくったせいで二ヶ月もかかってしまったほどだ。

 兎人は離乳が早く既に野菜を食べれたためサボテンの実を食べさせてみたりオアシスの果物をジュースにして飲ませてみたり渓谷にとって返してフォレストドラゴンの背中に生えた究極の栄養食と言われる木の実をもいで食べさせたり。

 はたまた格言に従い千尋の谷に突き落としてみたり(上手いこと次々と木の枝に引っ掛かって奇跡的にほぼ無傷だった)、凶暴な肉食獣の前に置き去りにしてみたり(アレクを気に入ったらしく巣に持ち帰って育て始めた、勿論取り返した)、そのあたりを飛んでたフェニックスの羽を貰って服を作ってあげたり(体の成長に合わせて丈が変わる)。

 基本的に猫可愛がりしつつ思い出したようにむちゃくちゃをやっている内にアレクはぐんぐん成長し、見た目三歳ほどの幼児になっていた。ただでさえ成長が早い兎人を栄養状態最高で育てた結果だ。まあ多少魔法で成長を促進させたというのもある。夜泣きがうるさかったから。

「トーゴ、ここがせいれいしていとし?」

「らしい」

 右肩にジングルスを乗せ左肩に俺を乗せたアレクはふーん、と言って街の入り口に降り立った俺達を見て大騒ぎしている市民を面白そうに眺めた。

 精霊指定都市は精霊の里へ続く砂漠の渓谷と反対側の入り口にある精霊と人間の出会いの街だ。

 さて、この世界では魔法を使う動物を魔法生物と呼ぶ。彼等は体内でレジステルを精製し、固有の魔法を使う。フェアリーならテレパシー、ドラゴンなら飛行+α。その魔法行使に呪文も訓練も要らず、精霊の様に感覚的に使っている。

 対して人間の魔法は精霊と同じくなんでもできる。しかし七面倒な呪文が必要で、加えて人間は自力でレジステルを精製できない上に魔法効率も悪いし威力も低い。

 そこで精霊は面白そうな人間にまとわりつく代わりに、人間にお願いされた魔法を使ってあげたり自分のレジステルを使わせてあげたりする訳だ。ギブアンドテイク。これを精霊契約と言う。

 この契約により精霊は面白いモノが間近で見れるし、人間は強力な魔法がホイホイ使える様になる。代償として嘘つけなくなるけどな!精霊は嘘が大嫌いだから、嘘ついた瞬間契約破棄。精霊によっては去り際に呪っていったりもする。

 ところが精霊はなんでもできるため、人間の頼みを全部聞くととんでもない事になる。俺を世界の王にしてくれ! とか敵国の人間は皆殺し! とか。とんでもねーです。

 なんでもかんでも魔法で一発解決しても精霊としても面白くないし、言い方は悪いが人間が知恵を絞って四苦八苦するのを見るのが面白いのだから、精霊は人間のために使う魔法に制限をつけた。

 死者蘇生は受け付けない、不老化はいいけど不死化はダメ、行使属性と威力の限定など。

 行使属性の限定というのは大体そのままの意味で、人間のために使ってあげる魔法の種類を限定するのだ。例えばマンダなら炎系統、ディーネなら水系統。マンダに水を出してと頼んでも拒否されるし、ディーネに火をつけてと頼んでも拒否される。

 そして精霊は限られた手札を有効に使おうと奮闘する人間を眺めてニヤニヤするという寸法。

 話が長くなったが、精霊指定都市はつまりそういう契約を行う街なのだ。我こそはと思う人間はこの街に集まり、街の真ん中の広場で祈りを捧げる。精霊は里から出てくるとまずこの街に立ち寄り、面白そうな人間を見繕う。

 ちなみに街の中では一切の争いが禁じられている。……破ったらどうなるかって?

 ハッハッハ。

 勿論精霊はかなり好き勝手する存在だからこの街以外で契約する事もあるが、歴史的統計を見れば契約数はこの街が群を抜いている。

 それでも六人もの精霊が一度にやってくるというのは珍しく、俺達を遠巻きにしてざわ……ざわ……としていた。

 群集の構成は兎人、竜人が半々ぐらいで、水を張った樽に車輪をつけた乗り物に乗っている魚人が若干名。いがみ合っている三種族もこの街では休戦状態、表面上はなんでもなさそうな顔をしている。しかし兎人と肩が接触した竜人は肩を手で拭って民家の壁にこすりつけていた。小学生かお前は。

 ちょっとボーっとしてると代表者らしき小柄なウサミミが前に出てきた。

 ……ウサミミ美少女想像した奴はちょっと反省しろ。

 いいか?

 人間ってのは雌より雄の数が多いものなんだ。

 つまりだね、普段そのへんで見かける兎人は、

 ゴルゴにウサミミつけた様な渋いオッさんとか、アンゴラウサギを擬人化したようなでっぷり太ったオッさんとか、背骨もウサミミも直角に折れ曲がって杖つきながらぷるぷるしてるお爺さんとか、そんな連中。

 現実ッ……! これが現実ッ……!!

 んで、小柄でしわくちゃな爺さんが話し掛けてくる。

「えー、精れいあまどもにおーれましてあ本日おまぬきあんがとさん」

「精」

「霊」

「語」

「で」

「お」

「k」

「このおじさん、なにをふがふがいってるの?」

「ちゅー?」

 文が支離滅裂な上に訛りが酷過ぎて意味不明。爺さんは俺達の反応にしょんもりとウサミミをうなだれさせて言う。

「人間語を使っていただけないでしょうか。こんまちぃつたーる精れいごはくちゃくちゃなってんねんな」

 おお、今度は一文だけ流暢。I can’t speak Englishみたいなもんか。

「んー、でも私達ダンジョン創るよいらっしゃい! って宣伝しにきただけだしここで問答する意味あんまり無い気がするんだけど」

「確かに。念話魔法で一気に告知するか?」

「そう言えばまだどこに創るか決めてないわね」

「指定都市の南に草原があった筈だ」

「ではそこにしましょう」

「了解、知らせる」

 俺が集まった群集に念話で語りかけると一斉にびくぅ! と震えた後数秒沈黙し、すぐにヒソヒソ声で囁かれはじめざわめきが大きくなっていった。

 これでよし。

「トーゴ、ぼくはどうすればいいの?」

「ああ、しばらく街を見て回るといい。ダンジョン創りは二、三日かかるから、終わったら呼びにくる。ジングルスはどうする? 一緒に来るか?」

「ちゅう」

 否定。

「アレクの方にいるか?」

「…………」

 肯定。俺よりアレクの方がいいのか。ちょっと悲しい……

「分かった、それじゃこれ換金用な」

 俺はビーズ程度の大きさの精霊石を一粒アレクの手のひらに吐き出す。これだけあれば屋敷の一軒二軒建つくらいの金にはなるだろう。アレクはそれを大切に握りしめ首を傾げた。

「ありがと。でもかんきんってなに?」

「お金に替える事。お金の概念は教えただろ」

「うん。がいねんってなに?」

「物事の総括的意味のこと」

「そうかつってなに?」

「全体をとりまとめて締めくくる事。……なにこのエンドレス」

「えんどれすってなに?」

 やかましい。

 キリが無いのでグノーの肩に飛び移りながら適当になんとかしとけ、と言うと、アレクは素直にうんわかった、と答えた。

 精霊の無茶振りに応えて育ったアレクはニコニコ笑ってダンジョン建設場所に向かうためにふわりと浮いた俺達にぶんぶか手を振る。俺達も手を振り返してから飛び去った。

 早熟とは言え一歳にもなっていない子供を一人にするのは危ない気もしたが、まージングルスいるし魔法使えるし大丈夫だろう。













……多分。






「精れいあまどもにおーれましてあ本日おまぬきあんがとさん」=精霊様共におかれましては本日お招きありがとさん=精霊様、この街に来て頂き感謝致します



「こんまちぃつたーる精れいごはくちゃくちゃなってんねんな」=この街に伝わる精霊語はくちゃくちゃになってんねんな=この街に伝わり(私が習得している)精霊語は発音も文法も支離滅裂になっているのです


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