親方!墓場に男の子が!
初めて予約投稿機能使った。とりあえず三話分予約、そして多分この勢いのまま五月中に完結する
死神さんはドラゴンの魂を刈ると、
「では次の仕事がありますので私はこれで」
「あ、そうですか?またいつか話をしましょう」
「縁起でもない」
という会話の後ふっと消えていなくなった。
絶命して落下していくドラゴンを別のドラゴンが空中キャッチし、飛び去っていく。レイラによるとドラゴンの墓場に捨てられるらしい。ドラゴンの墓場……なにそれ胸熱。
「ちょっと墓場見物行ってくる。シルフィ、レジステルよろしく」
「いいけど先行ってるよー?」
「俺も久しぶりに行くか。シルフィ、レジステル頼む」
「あ、じゃあ私もー。シルフィ、レジステルお願いね」
「ちょっとなんで私にばっかり押し付けるの?レイラ、グノー、手伝って」
「はいはい」
「だが断らない」
レジステルをドラゴンの背に置き、ディーネとマンダと一緒にドラゴンの死体を運んでいくドラゴンを追う。興味があれば何にでも首を突っ込む、それが精霊クオリティ。
道中マンダが語った所によると、ドラゴンの墓場は神聖な場所なのだそうだ。
ドラゴンは精霊の次に強大な魔法生物で、死体から入手できる骨や皮や牙は人間の手によって強力な武具や美しい工芸品になる。しかしドラゴンにとってはそれが猛烈に気に食わない。人間だって人間の皮でできたタペストリーや人間の骨でできた鎧を見て良い気分はしないだろうさ。
んで何千年か前からドラゴンの死体は同族が出来る限り回収して墓場に持って行く事にしたんだと。 時々人間が墓荒らしに来るが大抵墓守ドラゴンにズタズタにされているとのこと。
「そんな場所に入って大丈夫か」
「大丈夫だ、問題無い」
「精霊だからね」
精霊ぱねぇ。ネタの侵食度もぱねぇ。
だらだら喋りながら飛んでいると、前方のドラゴンが下降し始めた。下に見えるのは大渓谷からほど近い岩山で、草一本生えていないゴツゴツした岩肌を晒している。岩山の周りはぐるりと巨大な白蛇もとい龍が取り囲みとぐろを巻き、片目が潰れた頭を俺達に向け鎌首をもたげていた。なんだこの龍デケェ。白いシェンロン?
中腹にぽっかりと口を開けた洞窟にドラゴンを追って中に入ろうとすると、シェンロン(仮)が精霊語で声をかけてきた。
「ハカバのナカではオシズカニ」
「ヒャア! 喋ったぁぁあ! カタコトだけど!」
「セイレイゴはムズカシイのデス」
それだけ言うとシェンロン(仮)は頭を下に下げ小岩に乗せ、目を閉じる。入るなとは言わないのか。
「あれが墓守?」
「そう。五千歳ぐらいだったかしら?」
「六千だった気がするが」
「……ヨンセンサンビャク、デス」
「あらそう? まあ誤差の範囲内よね」
俺達は好き勝手言いながら墓の中に入る。入れ違いにさっきのドラゴンが出てきて、俺達を見ると少し驚いた様子でキュルキュル鳴いてすれ違った。ちょっと可愛い。
洞窟は入ってすぐに巨大なすり鉢状の大空洞になっていて、天井に所々開いた裂け目から差し込む日の光に無数の骨が照らされていた。長い骨短い骨、大きな頭蓋骨小さな頭蓋骨、大剣が突き刺さった骨もある。なぜか宝石や金貨も転がっていた。なんで?
「ドラゴンの胃の中に入ってた物でしょうね。ドラゴンは光り物が好きだから」
「ほー。んじゃあの赤ん坊は? 光ってないぞ」
「えっ」
「えっ」
「えっ?」
なんか小山を作っている骨の間に人間の赤子が落ちてた。天井へ向けて突き出したちんまい手しか見えないが、人間の手のように見える。
なんだなんだと覗きに行くとやっぱり人間だった。男の子、というか男の赤ん坊。
なにも身につけていないマッパの体。クリーム色の薄い髪。つぶらで真っ赤な目。そしてぴょこんと生えたウサミミ。兎人だった。
この世界の人間は兎人、竜人、魚人に分けられ、ひっくるめて人間と呼ぶ。兎人はウサミミ、竜人は肌に浮き出た鱗、魚人は下半身が魚なのが特徴だ。三種族はそれぞれ激しくいがみ合っているが割とどうでもいい。
今はそんな事より目の前の赤ん坊。こいつどこから入ってきた?
「迷子かしら?」
「ドラゴンの墓場のド真ん中でか? ありえないだろう」
「分からなければ調べればいい」
俺はジングルスがふりふり振る尻尾を手で捕まえようとしている赤子に魔法をかけた。どこから来たのかなっと。
魔法が発動すると、赤ん坊の頭上に高い城壁に囲まれた立派な西洋城のホログラムが展開された。赤ん坊はいきなり現れたホログラムにびっくりしたようだが、すぐに目を輝かせてホログラムを触ろうと手をばたばた振る。好奇心旺盛だ。
で、なにこの城?
「ディーネ、マンダ、これどこの城?」
「さあ? 私は見たこと無いわ。最近できた城じゃないかしら」
「尖塔にハートの中にバツ印が入った旗――――兎人の旗が立っている。兎人の城だろう」
「ふーん」
続けて魔法発動。この赤ん坊がこの城から墓場に来るまでの時間帯の情景を映し出す。
初めに映ったのは豪華なシャンデリアが目を引く石造りの一室だった。煌びやかなドレスに身を包んだウサミミ女性が窓辺で赤ん坊を抱えてあやしている。その頭には小粒の――――精霊石が嵌ったティアラが乗っていた。
なんだただの王族か。あれぐらいの大きさの精霊石を装飾品として身につける人間は王族しかいない。らしい。
しばらく子守唄を歌っていた女性は不意に耳をぴくぴく動かし、困惑した表情で部屋のドアに顔を向けた。
次の瞬間爆炎と共に吹き飛ぶドア。血濡れの武器を手に雪崩れ込むぎらついた目の兵士。なにやら喚きながら切りかかってきた兵士は素早く状況に適応した女性の前蹴りを股間に喰らって悶絶した。うひゃあ、鎧の上から潰すって相当だぞ。
しかし撃退できたのは一人だけで、わらわらと湧いて出る兵士に多勢に無勢だと判断したのか女性は赤ん坊を大切に抱え込み、窓を突き破って外に飛び出した。おおカッコイイ。
……が、地上数階の高さからふわりと地面に降り立った女性は槍を構えた兵士に囲まれていた。代表格っぽい悪どい面したウサミミおっさんと二言三言言葉を交わし、女性は哀しげに微笑む。
突如七色に光るティアラと、呪文を唱える女性。女性が抱えていた赤ん坊が消えるのと女性の腹に槍が突き刺さるのは同時だった。そして映像が切り替わり、骨の山が映る。
……なるほど分かりやすい。
兎人の王城でクーデター→せめて息子だけでも逃がさなければ! →緊急ランダム座標で転送→ドラゴンの墓場に現れる、って流れか。
こんな辺境のこんな場所に飛ばされるとは運が良いのか悪いのか。まあかべのなかにいる!なんて事にならなかったのは幸運なんだろうなあ。
「うーん、厄介事の香りがするわねー。ワクワクするわ」
「クーデター。生き残った王族。辺境の地、ドラゴンの墓場にて精霊と出会う。素晴らしいな」
テンションを上げる二人を尻目に、再びひゅんひゅん動くジングルスの尻尾を捕まえようと手をめちゃくちゃに動かしている赤ん坊に聞いてみる。
「なあ、ママのとこに帰りたいか? 殺されてる気配濃厚だけどさ、帰りたいなら転送してやる」
赤ん坊は尻尾を追う手を止めキョトンと俺を見て言った。
「や!」
「え、嫌?」
「や!!」
「あ、そう」
聞かれた事の意味が分かったのかは怪しいが拒否されたので止めておく。まあ避難させるために転送したっぽいのに送り返したら虐めだよなぁ。
「どうしようか。放置したら餓死かドラゴンに見つかってズタズタにされるか」
「いっそ一緒に連れてったらどうかしら?」
「俺は賛成だ。面白そうだしな」
「だぁー!」
「じゃ、全会一致で」
サラッと決まった。精霊の保護、即ち世界一安全。赤ん坊のママさんも浮かばれるだろう。
遠隔魔法でママさんを生き返らせてここに呼び寄せるのも一応可能だが、精霊のしきたりに反するので止めておく。別に破ってもペナルティーも何も無いが、しきたり破りは精霊が毛嫌いする「嘘」に近いものがあり身体が拒絶する。
「あうー」
「ジングルスの尻尾が気に入ってるみたいねー。この人間が喋ってるのって人間語?」
「多分な。ほとんどまっさらのようだが」
「まっさらとな? それなら精霊語教えてみるか……リピートアフタミー。精霊」
「せぇれー?」
「ノゥ。精霊」
「せいれー」
「ノンノン。精霊」
「うあー……せいれい!」
「グッド!」
褒めると赤子が丸っこい顔を輝かせてきゃらきゃら笑った。
「わぁ、なにこれちょっと面白いわねー。さあ言ってごらん私の名前。ディーネ」
「いーね!」
「ディーネ」
「いーね!」
「ディーネ」
「うー……いーね!」
「(´・ω・`)」
「お前の名前は難しいんだろう。さあ俺の名を呼べ。マンダ」
「まんた!」
「俺はオニイトマキエイじゃない。マンダ」
「おにいとまきえい!」
「(´・ω・`)」
狙ってやってるのか素なのか。俺達はしばらく赤ん坊に名前を言わせるのに熱中した。
精霊魔法と書いてなんでもありと読む
兎人→(・×・)