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渓谷を行く

 精霊の里がある森は人間の生活圏からべらぼーに離れている。深く長い渓谷を越え、寒暖の差が激しく果てしない砂漠を経てようやく人間の国の端に出ると言う。

 で、俺達迷宮開拓団は数日徹夜で飛び続け精霊の森を抜け、大渓谷に差し掛かっていた。空間転移が使えればいいんだが精霊に魔法は効かないしそもそもレジステルを輸送しているのだ。えっちらおっちら地道に飛ぶしかない。

「にしてもでっかいなぁ。グランドキャニオンみたいだ」

「なにそれ」

「前の世界にあったドでかい渓谷」

 シルフィにグランドキャニオンの説明をしつつジングルスの背から下を見下ろすと、深い渓谷の底を蛇行して流れる河が見えた。現在進行形で大地を削り取っている河は千メートルは下を流れている様に見える。むき出しの赤みがかかった岩肌にはポツリポツリと木がたくましく根を張り枝を広げている。いいねぇ、雄大な自然って心惹かれるわ。

 そしてそんな大自然が創り上げた渓谷にはびょうびょうと強い風が吹きすさび、それに乗って色とりどりのドラゴンが飛んでいた。黒とか白とか青とか赤とか、鱗の色が違えば尻尾の形や翼の形状もいろいろ。ドラゴン博覧会か。

 ドラゴン。ファンタジーの代名詞。思えばバリバリのファンタジー世界にファンタジーの塊な転生をしてきたってのに今までドラゴンを見た事は無かった。呆れるわ。

 かたまってわいわい喋りながら飛ぶ俺達の一団に一匹の……一頭の? ……どっちでもいいや。一匹のドラゴンが寄ってきて、ゴツい爬虫類顔に強い好奇心を浮かべ鼻でレジステルを詰めた袋を押してくる。

「こらっ!」

 一際強く押されたシルフィが叱ってぺそんとドラゴンの額に平手を見舞うと、ドラゴンはあからさまにテンパってヒヨヨヨヨと細い声で鳴きながら離れていった。意外と鳴き声が可愛い。

「ドラゴンって喋らないんだっけか」

「喋る奴もいるけどこの辺のは喋らないねー」

「なんだつまらない」

「喋らせてみる?」

「いやいや、自分から話しかけてくる所に意味があるのだよ」

「ふーん」

 凶暴なドラゴンも良いけど叡智の龍も良くね?

 それから時折ドラゴンが群を離れて寄って来たが、同じ様なやり取りで逃げていく。

 ファンタジーの例に漏れず精霊以外だと最強種らしいドラゴンも精霊の前では単なる空飛ぶ爬虫類だ。バカスカほとんど無限に魔法をぶっ放し、絶対不壊で(意思を持つレジステル=精霊は物理的に破壊できない)、食べても消化できず、魔法耐性マックスな精霊を襲う種族はこの世界に存在しない。襲われても一瞬で返り討ちだし。

 超厨二生物、それが精霊だ。老いず死なず無敵とか馬鹿じゃなかろか。あ、やべ、自分を馬鹿って言っちゃったぜ。

 いちいち追い払うのが面倒臭くなったシルフィが性懲りもなく寄って来た一匹体格の良い深緑の鱗のドラゴンにお願いしてみんなで背中に乗せてもらう。しばらく自動輸送。こいつぁ楽だ。

 俺はドラゴンの頭の上に陣取り、角を操縦幹に見立て童心に帰ってブーンとかやっていたが、前方に変なドラゴンを見つけた。

 いやドラゴン自体は何も変じゃない。普通の茶色っぽいスタンダードな西洋竜だ。

 でもさ、ドラゴンの背中の上で鎖鎌を肩にひっかけて雑誌読んでる半透明のスーツの人、あれは死神さんに見えるんだけどどういう事なの。

「ちょ、みんなみんな」

 手招きして呼ぶと皆がおしゃべりを止めてなんだどうしたと前の方に来た。頭に重量が集中したドラゴンが嫌そうに鳴く。ごめんね!

「あれ見える? 茶色いドラゴンの上にいる半透明の人」

「見えん」

 グノーは首を横に振る。

「見えんなぁ」

 マンダは目を細めているが見えないらしい。

「分かんない」

 シルフィは俺の頭に顎を乗せて言った。

「半透明って人じゃなくないかしら。見えないわ」

 もっともな事を言うレイラも見えない、と。

「以下略」

 おい略すなディーネ。

 とにかく全員見えないっぽい。本物の死神だ。この世界にもいたのか。精霊の里で死者が出る事は無いから今まで気付かなかった。

 あのスーツは全死神共通なのかなとどうでも良い事を考えているとディーネがハッと閃いた様に言った。

「え? って事はあそこに今死神さんがいるの?」

「いるいる」

「ふぅーん。見たいけど見えないのは仕方無いかな。トーゴ、転生代おごって貰った御礼言いに行って来たら?」

「いや、あれは俺を転生させてくれた死神さんとは別人」

 あの死神よりスーツがパリッとしてるし。草刈り鎌じゃなくて鎖鎌だし。そもそも女だし。キャリアウーマンっぽい。

「へぇ、死神にも色々いるんだねー」

「俺も見たいなぁ」

「無理だ無理、さっきから不可視看破の魔法フルで使ってるが全然見えん」

「トーゴにしか見えないって事?」

「トーゴいーなー」

 わいわい騒ぐ精霊達に気付いたのか、死神さんが雑誌から顔を上げて振り返る。

 クイッと人指し指で眼鏡のつるを押し上げてこちらを見た死神さんに俺はぶんぶんと手を振った。死神さん怪訝そうな顔をする。

「ちょっと話してくる」

 俺は側で待機していたジングルスに飛び乗り、茶色いドラゴンに向かって駆けた。

 宙を駆けるネズミに乗った精霊に驚いたドラゴンがびくっと身体を震わせるが、魔法で害意は無い事を伝えると安心して悠々と飛行を続行する。

 でも死神さんがいるって事はもうすぐ死ぬんだよね。なむなむ。

「こんにちはー」

 死神さんの正面に着地し、ジングルスから降りて挨拶すると少し驚いた顔をされた。

「これは珍しい。私が見えるのですか」

「見えますよ。前世から死者を見る目が引き継がれたみたいで」

「前世?……失礼ですが貴方の――――前世のお名前は?」

「鈴木藤吾ですけど」

 死神さんはなるほど、と呟いて納得する。なんだ。何がなるほどなんだ。

 よっぽど俺が不思議そうな顔をしていたのか、死神さんは肩をすくめて説明してくれた。

「貴方に徳貨幣を譲渡した死神は私の同僚でして、貴方の話は伺っていたのですよ。記憶を保持して転生する者は全次元世界で見ても極少数ですから、このあたりの次元の死神の間では比較的有名です」

「え、俺有名人なんですか」

「はい」

 知らない間に俺の存在が超グローバルになっていた。次元単位で有名ってお前……死神限定だけどさ……

 何か恥ずかしいというかムズムズすると言うか、そんな感覚にもぞもぞしつつも、それからしばらく(茶色いドラゴンの死亡時刻になるまで)死神さんと雑談に花を咲かせた。

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