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まほうこうざ

 ジングルスに乗って精霊の里に戻り、隣に住む緑髪緑目の精霊――シルフィを訪ねてダニを駆除してもらった。快くダニ退治を承諾したシルフィは指先の温度を上昇させ、ちょいダニをつつく。つつかれたダニは面白いぐらい簡単にポロポロ落ちていった。

「それ魔法?」

「そーだよ」

「だよなあ。シルフィ、俺に魔法教えてくれない?そろそろ使いたい」

「あれ?トーゴまだ魔法使えなかったんだ」

「別に使えなくても困らなかったしさ」

「まあそうだね」

 シルフィは頷き、嬉しそうに鼻を擦りつけてくるジングルスをあしらいながらどこからともなく小さな黒板を取り出した。黒板を部屋の壁に立て掛けて手品の様に博士帽やらチョークやらをだし始めたので、俺はジングルスの背中に座って傾聴の姿勢をとる。ジングルスも心なしか真面目表情になっていた。

 皆の話には当然の様に魔法という単語が出て来ていたが、ウン十年精霊やっていて未だ具体的な発動法は知らなかった。精霊としてそれはどうなんだと自分でも思う。

「さて」

 黒板に「特設魔法講座」と書いたシルフィは指示棒を片手に俺達を振り返った。

「先に結論を言うとね、精霊は念じるだけで全ての魔法を使えるんだけど」

「なんだそれ!」

「いやホントに。精霊嘘つかない」

「それは知ってるけどさあ……じゃあなんで今まで空を自由に飛びたいなとか思っても飛べなかったんだ」

 矛盾してるだろ。念じるだけで全てが思いのままだったら世話無い。

 訝しむ俺にシルフィはわざわざ口でチッチッと言いながら指示棒を左右に振った。

「甘いよトーゴ。あれだけ皆の冒険譚聞いてたんだから魔法に必要な物ぐらい分かるんじゃない?」

「魔力」

「正解」

 即答した俺に頷き、シルフィは黒板に大きく「魔力」と書いて丸で囲んだ。

「こんな理屈を説明しなくても割とフィーリングでいけるんだけど、トーゴは理屈が好きだから理屈っぽく教えてあげましょう」

「……ありがとうございます」

「いえいえ」

 頭を下げ合う。

「えーとね、この世界にはトーゴが元居た世界には無い二つの魔法要素があるんだよね。と言うか二つしかない。この二つの魔法要素以外は全部トーゴの世界と同じ……はず。一つは魔法発現要素のマナ」

 シルフィが「魔力」の下にMと書く。

 ちなみにが今俺達が喋っているのも書いているのも精霊語だ。Mは精霊語でアルファベットのMにあたる記号だと解釈してくれれば良い。

「もう一つは魔法妨害要素のレジステル」

 Mの横にRと書く。

「マナは効率の良い魔法発現を促す世界中どこにでもある要素なんだけどね、特に生物の中に多いかな。空気中よりも森の木とか、人間とか、ジングルスの中にも多いよ。周囲のマナが多いほど魔法のコストパフォーマンスが良くなるから、人間なんかは自分の体を強化する魔法を頻用するわけ」

 シルフィはMを指示棒で叩き、次にRを指した。

「レジステルは魔法の発現を阻害する要素だね。マナは感じられるけど見えないし触れない。でもレジステルは感じられない代わりに見えるし触れる。沢山集まれば結晶化もする。レジステルの結晶に当てた魔法はどんなに強力な魔法でも消えるよ」

「……あれ、魔力の話は?」

「急くな若者。今からするから」

 シルフィはMとRの間に+記号を入れ、矢印を引っ張りその先にMRと書いた。更にMRの横に魔力、と書き込む。黒板には




M+R→MR+↑魔力




 という式が現れている。なんのこっちゃ。

「つまりマナとレジステルを合成した時に生まれたエネルギーを魔力と呼ぶんだよ!」

「な、なんだってー!」

「ちゅー!」

「……ジングルス空気読めるなぁ」

 ジングルスは得意気に髭をぴくぴく動かした。

 シルフィは床に叩き付けた指示棒を拾い、咳払いをして続ける。

「とにかくそうやって生まれた魔力を`てやー´ってすると魔法が発現するのね」

「いきなり抽象的になったなぁ」

「いやいや、精霊は皆こうだよ。誰に聞いても`てやー´とか`そいやあ´とか`どっせい´とか言うし」

 適当だ。本当かよと思うがシルフィに限らず精霊は嘘をつかない。てやー! で魔法が使えるのは事実だろう。とても呪文には聞こえない。ナンテコッタイ……ん?

「マナがどこにでもあるのは分かったけどさ、ならレジステルはどこにあんの?」

 レジステルが無いとてやー! 以前の問題だ。尋ねるとシルフィはまっすぐ俺を指した。

「トーゴ」

「何?」

「トーゴ」

「いや、だから何?」

「いや、だからトーゴがレジステルの結晶」

「…………」

 なん……だと?

 驚愕する俺を楽しそうに見ながらシルフィは説明する。

「魔法を使うとMRが――単純にくっつけてマステルって呼ぶんだけど――出来るでしょ?MRは特に利益も害も無いん要素なんだけどね、MとR合成してMRを作るばっかだと世界がMRだらけになってMとRが無くなるじゃない?」

「え、ああ。まあ確かに……あれか、酸素と二酸化炭素みたいなイメージか」

「そうそう、そんな感じ。それでどーして世界がMRだらけにならないかって言うとね、精霊とか魔法生物がMRを取り込んで分解して、Mを放出してRを取り込んでるからなんですよこれが。まあ物質を含まず純粋なレジステルだけで体を構成してる生物なんて精霊だけなんだけどー」

「えー……ちょっとストップ。整理する」

 世界には魔法を補助する要素マナと、魔法を妨害する要素レジステルが存在する。マナとレジステルを結合させると魔力が発生して同時に無害なマステルが出る。で、魔力は念じると魔法になる。

 マステルは精霊やら魔法生物が分解してレジステルを取り込みマナを放出。光合成みたいだ。

 なんか高校で習った酸素と二酸化炭素の循環図を思い出した。

「OK、理解した。でもさ、それだと精霊は自分の身体削って魔法使う事にならないか」

「ああ、その通りだけど大した量じゃないから大丈夫。一ヵ月超強力な魔法を使い続ければ背がほんの少し縮むかも知れない、ぐらいかな。普通は成長の方が早いよー」

「そりゃ良かった」

「うん。じゃ、魔法使ってみようか。ほらほらまずは合成!」

 シルフィが手を叩いて促すがよく分からない。

「そもそもマナがどこにあるか分からん」

「だからどこにでもあるんだってば。てきとーてきとー。考えるな、感じろってやつ。あ、なんだったらジングルスにくっついてみたら? マナが濃いからやり易いと思うよ」

「あなたと合体したい……!」

「ちゅー」

 抱き締めようとしたら言葉に不穏な気配を察したらしく後ずさって拒否られた。傷つく。

「いやあのごめん、合体ってかマナを貰うだけだから。頼むジングルス」

 頭を下げるとそろそろ前足を差し出してくれた。その足を握り、目を閉じて集中する。

 えーと……なんか来い! 弾けて混ざれ!

「あ、できた」

 超感覚的にやったのにあっさりできました。

 ジングルスから出た何かが俺の体表を微かに削って放出された何かと合わさり、威圧感を伴う力の塊が膨れ上がった。

「なんかすげー」

 ハウスキノコ一杯に……いや、ハウスキノコから溢れ出してたゆたう魔力にただただ圧倒される。魔力は暖かい様なな鋭い様な香しい様な白い様な甘い様な変な感じだった。五感のどれにも当てはまらない感覚でそこに魔力があるのが分かる。一度魔力を合成を経験したからなのか、空気やジングルスが持つマナも感じ取れる様になっていた。

「発生した魔力は放置すると拡散して消えるからね、拡散する前に早めに魔法使いなよ。まあ里はマナが多いから拡散しにくいんだけど」

「マナは拡散も防いでくれるのか」

「そう。言って無かった?」

「言って無かった」

「どんまい!」

 それは俺の台詞だと思ったが言わないでおく。あれこれしている間に拡散してハウスキノコ内に納まる程度まで減ってしまった魔力に、なんかこう……気合いを叩きつける。

「I can fly!」

 宙を舞うイメージを付加された魔力は変質しながら勢い良く俺の身体に入り込んで来た。よっしゃあ俺は風になる!

 そして片手を上に突き上げて飛ぼうとして、

 ……無様に転んで床に転がった。あれ、なぜだ。

「トーゴ……精霊には魔法効かないんだよ」

「え、それじゃ皆が空飛んでる様に見えたのは俺の目の錯覚?」

「あれは靴に飛行魔法かけてるの」

 なんという落とし穴。精霊は間接的に魔法を使わないと飛べないのか。

 お前はよくやったよ……という雰囲気で慰める様に前足で肩を叩くジングルスの優しさに全俺が泣いた。




 シルフィが指に熱を集めていましたが、あれは正確には指の周囲に熱を集めているだけです。魔法熱なので火傷はしません。

 精霊はデフォルトで服を着ていますが裸足です。靴は自作。


 あといつの間にか無意識に話にネタを組み込もうとするようになった自分の指に驚愕中



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