親指精霊
死神さんは大体の異世界に魔法があると言っていたが、俺は無事魔法がある世界に転生したらしい。こうして回想できているということは記憶も滞りなく引き継がれたという事だ。
さてなぜ魔法が存在する世界であるか分かったかと言うとなんの事は無い単純な話。
同族が生身で空を飛んでいる。以上。
更に言えば俺は「精霊」なる種族(男)に転生したらしく人では無くなっていたが、これにも特に驚きは無い。そもそも前世からして幽霊が存在するファンタジーまではいかずともオカルトチックな世界だったのだ。今更魔法ぐらいで、ねぇ? 異世界転生を希望したのも更なる不可思議の体験を期待しての事だったから驚愕より喜びが先に出た。
前世でついた超常現象への耐性はありがたいとつくづく思う。冷静に周囲の状況を把握できる。
まずこの世界での俺の出自だが、精霊石と呼ばれる宝石から生まれた。赤ちゃんはコウノトリが運んでくるのよ的なアレではない。読んでそのまま宝石から生まれた。
精霊は一定以上体が大きく成長すると宝石吐き出す事ができるらしい。それがそのまま精霊石である。
吐き出した精霊石の大きさと反比例して母体となった精霊は小さくなり、精霊石は数百年かけて新たな精霊を生む。俺もそうして生まれた。精霊の里の倉庫にまとめて乱雑に放り込まれていた精霊石から生まれたので親が誰かは分からない。精霊は親が誰かなど気にしないらしい。俺もそんなもんだと納得して気にしない事にした。
出自を把握した所で次は自分の体とスペック。生活圏にある植物や生き物達と比較して考えて分かったのだが、体は人間の親指ぐらいの大きさ。そのくせ体格は大人と同じだ。
灰色の髪に灰色の目。イケメンでは無いがなんというかその……落ち着いた、神秘的? な顔立ち。ちなみに神秘的な雰囲気は精霊全てに共通する。精霊的に見れば平凡な面だ。あと生まれた瞬間から着ていた灰色のローブは体の一部らしい。
自分の体だが、生活圏にある植物や生き物達と比較して考えると人間の親指ぐらいの大きさのようだった。生まれたばかりの精霊は皆これぐらいの大きさで、年月と共に成長する。ネズミサイズから狼サイズ、人間サイズにキリンサイズまで精霊の里には様々な大きさの精霊が住んでいる。全員体格だけは大人なので少し不気味だ。でもまあここではそれが常識なんだろう。ファンタジーだし。
俺が住んでいるのは深い森の奥にある精霊の里。ここにいる同胞はざっと数えた所四十人ほどで、各自自分のサイズに合わせてキノコの家や木の洞や地下や泉の中に住んでいる。俺はというと俺が生まれたのを最初に見つけた精霊の薦めで「ハウスダケ」なる安直なネーミングのキノコの中に住んでいた。
住み心地が良く、敵も居らず、仲間は皆心根が優しく話の引き出しが豊富で、退屈しない。
俺はしばらくはこの精霊の里でのんびり暮らす事にした。精霊に寿命は無いみたいだし、生き急ぐ事は無い。
年老いた太い木々の枝には蔦がからまり、頭上からの日の光を遮る。しかし全てを隠してしまう事は無く、木漏れ日が数筋漏れていた。しっとりとした森の優しい風が俺達と草木の間を吹き抜けていく。
「今日はシンデレラの話をしようか」
「おー」
「うむ」
「はーやくー」
今日も俺は自宅の屋根(キノコの傘)に腰掛けて、集まった仲間に物語を語っていた。
精霊というものは個人差はあるがアバウトな性格をしている奴が多く、転生初日に
「実は俺……異世界から転生したんだ」
と告白すると
「すげぇ!」
と驚かれた。疑う気配ゼロだった。この時は知らなかったが精霊は嘘を見破るらしく、俺が嘘を言っていないのを感じ取り素直に信じたそうだ。
とにもかくにものんびりとした精霊達は俺に前世の話をねだり、隠し事をする必要が無いと知り肩の荷を降ろした俺は毎日すこしずつ自分の体験談や頭に入っていた寝物語を語っているのだ。
「昔昔、ある国にシンデレラという人間の娘がおりました。彼女はいつも継母とその連れ子である姉たちに日々いじめられ、辛い思いをしておりました――」
分かりやすいように精霊風にアレンジして話を進める。
今語っているのは俺だが、仲間達も暇な時に代わる代わる俺に面白い話をしてくれる。ヒト族の少年と共に旅をした時の話。遠く離れた西の海の底で見つけた海底洞窟の話。仲間達の話に比べれば俺の話も(多少毛色は違うが)珍しく無い。ウン百年生きている先達は抑揚をつけ身振り手振りも交え惜しみなく知識を分けてくれた。
ガラスの靴を落としたくだりをハラハラして聞いている同胞を見ながら俺は思う。
この里には悪意が無い。皆俺に親切にしてくれ、適度に活気があり適度に静かだ。一人になりたければ一人にしてくれるしこちらが言いたくない事には踏み込んでこない。
人によって異論はあると思うが、俺にとってここは紛れもない桃源郷だった。
設定を小出しにするのが難しい
一気に設定を書き連ねてもうんざりするだけだから話に応じて上手く出していく形にしなければ……