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精霊主義

 さて、アレクと契約するにあたり、しきたりに従って俺がアレクに貸す属性を限定する事にした。

 火だの水だの他の精霊と被る属性にしても何も問題は無いがそれでは面白くないので新しい属性の開拓に挑む。時間停めたり過程を吹き飛ばしたり色々候補はあるけどやっぱこれ。

 属性決定、運命。ベートーベンの交響曲第五番。

 ではなく。普通にディスティニーとかフェイトの方だ。

 具体的には契約者の因果に常に干渉し続ける事でなんとなく物事が良い方向に転がる様になる。ハードラックって言葉を母の胎内に置き忘れて生まれてきたアレクにゃ必要ないかも知れんけどね、持ち前の豪運と精霊の補強があれば最強に見えるからさ。

 それでまあ精霊指定都市を離れ、魔法で兎人城の方角を調べて出発。アレクが持っているのは大振りのナイフが一本のみ。水も食糧も魔法でなんとかなるからね。

 精霊と契約してても普通は呪文のバリエーションに限りがあるからこう上手くはいかないもののアレクは呪文を作れるから以下略。

 魔法に頼り切ってるように感じるし事実その通りなんだけども、実際荷物が少なく身軽な分不測の事態に素早く対応できるから悪い事ばかりでもない。第一スーパーラッキーモード入ってるから早々不測の事態なんて起こらん。

 だから俺達は貧相な草がまばらに生えている凸凹した荒地をぴっぴき口笛吹き歌を歌いながらのんびり歩いていくのだ。精霊指定都市から真南、兎人の領土を。

 石が退けられているから辛うじて道と分かるものの、舗装もへったくれもない道。三種族一の身軽さバランス感覚を持つ兎人の領土は外敵の侵攻を妨害するためにわざと道を整備していないとか聞いた事がある。他種族が移動するのに四苦八苦する道でも兎人ならひょいひょい進めるから。兎人は忍者タイプだから障害物が多いのもプラス要素。ちなみに竜人の領土は逆に見晴らしが良いらしい。魚人は言わずもがな水辺と水中、河の中にもたまにいる。

「しっあわっせはー」

「ちゅー」

「あーるいてこーなーいー」

「だーから歩いってこっさせっるのー」

「ちゅー」

「いっちにっち三歩」

「みぃかで九歩」

「きゅーうほ進んでもういっぽー」

「ちゅー」

 そしてあとは口笛になる。歌詞覚えてないんだよね。別世界の歌の歌詞を魔法で知ろうとすると身長が数センチ縮むからやりたくない。やっぱ次元に穴開けるのはキツイのか、それともやりかたが不味いだけなのか。今度死神さんに聞いてみよう。

「トーゴ、リピート飽きた。別の歌ー」

「えぇー……そうだな……うーさぎうさぎー、何見てはーねーるー十五夜おーつきさーまー」

「別に僕達は月見ても跳ねないよ」

「だまらっしゃい、俺の前世だと月にはウサギが居るって迷信があったからその関係。あと月の模様がウサギに見えるから」

「ウサギ? 亀じゃなくて? どうすればウサギに見えるの?」

「確かにこの世界の月の模様はまんま亀だけどそもそも世界が違う、模様が違う」

「ふーん」

 毒にも薬にもならない雑談を挟みながらのんびりのんびりと。飛ぶと風情が無いから歩きオンリー。急いで王様にならにゃならん訳でなし、いくらでも時間はかけられる。

 新しい社会体制が確立して王様なんてもういらねー、なんて事になってたらどうしようかと思ったけどアレクの調べによれば軍部の強行政策が民衆の反感を買っているらしく。王族の近衛が突然暴走、軍が早急にこれを鎮圧したものの国王夫妻は死亡、行方不明の王子が発見されるまでの間軍が政治を預かっているって話になっているらしい。

 突っ込みどころ多すぎてどこから突っ込めばいいのか分からん。そんな簡単に反乱起こす連中が近衛に抜擢される訳ねーだろとか、なんで文官じゃなくて武官がさらっと実権握ってるんだとか、他にも色々。

 民衆も当然そんな戯言信じちゃいない。軍は懸命に王子の捜索活動をしてるとかほざいているが生後数日の子供がランダム転送で突然放り出されたら普通死ぬし、運よく人間に保護され育てられたとしても一生涯自分が王子だと気づく事は無いだろう。転送時は裸で身分の証明になるものを見につけていなかったし、別に王族と言っても特有の身体的特徴がある訳ではないから。

 しかしアレクは天文学的確率で他の何でもない精霊に発見され、今こうして王城へ向かっている。軍部の連中も寝耳に水だろう。感覚としては普通に通学してたら角で食パン加えた女の子とぶつかってその女の子が転校生だった、ってぐらいか。つまり確率はべらぼーに低いがお約束。

「やっぱ人間って面白」

 俺の右耳に尻尾を引っ掛けてぷらぷらしているジングルスの腹を指先でくすぐりながらなんとはなしに呟いた台詞をアレクが拾った。

「トーゴも元人間でしょ」

「……ああ、そういえばそうだった。よく忘れる、というか今のはネタ台詞だから。半分本気だったけどさ」

 健全な精神は健全な肉体に宿るという。ならば精霊の肉体に引っ張られて精霊的思考になったのか。思い出してみれば人間だった頃は人間を観察して爆笑するような事はなかった。当たり前だが。

 面白いのは精神が精霊的になってしまったのに違和感も恐怖も感じない所。恐怖を感じなくなってしまった事に恐怖を覚える事も無い。生まれた時から精霊だった気すら、って生まれた時から精霊だったわ。

 精霊は理論上絶対無敵の存在だから、命の危機感が薄く、更に食べなくてよし繁殖しなくてもよし眠らなくてもよしな存在。人間と似ているのは姿だけ。考えてみれば精霊になって人間の思考を保っている方がどうかしてる。

 そんな精霊が世界の主役ではなく世界の香辛料的存在に収まっているのは我ながら奇跡的だと思う。精霊の気性が荒かったらこの世界終わってた。

 そうして柄にも無い考え事に没頭している内に日が暮れ、荒地の中で適当に平らな場所を探して野宿の準備にかかる。といっても夕食の用意だけだ。

 アレクは岩場の中に確保した平らな寝床の中心に立つと、ナイフ片手にその場でぐるぐる回り、適当な方向に投擲した。

「そぉい!」

「ギギョッ!?」

 悲鳴が聞こえた。なんか当たったっぽい。アレクは満足げに頷いて岩場の奥に消える。

 少し時間を置いて戻ってきたアレクがずるずる引きずっていたのはアレクの背丈の倍はある鶏冠があるこげ茶色の巨大な蛇だった。脳天のド真ん中に見事にナイフが突き刺さっている。適当に投げてこれとか……

「トーゴ、大物狩れた」

「アレは狩りって言わねぇ」

 魔蛇バジリスク、その能力は魔眼。効果:相手は死ぬ。

 いや眼を見なけりゃ大丈夫なんだけど。あと精霊も大丈夫。

「010110110100(炎よ)」

 アレクが手のひらを地面の石ころに向けると握りこぶし大の火が灯った。肉はエビに似た味で美味というバジリスクを手際よく解体し、細切れにした肉を手近な所にあった枯れ枝に刺し、焼く。

 精霊は食事の必要がないためこのバジリスクはアレクとジングルスのためのもの。可食部のみが切り出され三分の一ほどになったバジリスクだが当然アレクとジングルスで食べきれる量ではなく、残りは保存魔法をかけて次の日に持ち越しとなる。

 焼きあがった肉を美味しそうに頬張るアレクとジングルスがちょっとうらやましかった。精霊は物を食べても意味が無いし、味覚が無い事も無いものの極端に鈍いし、魔法が効かないから味覚を鋭くする事もできない。ガッデム。

 腹いせにぱんぱんになったジングルスの頬袋を突いて吐き出させたら指に噛み付かれた。折れたのは指じゃなくてジングルスの歯って所にさりげなくチートを感じる。

 食事の後は灯した火が消えるまでアレクと魔法で創ったトランプでポーカーをやったがやっぱり一度も勝てなかった。くそ、運命属性になんてするんじゃなかった。なんだよロイヤルストレートフラッシュ二連続って。乱数仕事しろ。

☆数学の勉強しようよ! ~精霊物語式呪文の作り方~




①日本語で詠唱を書く


②母音ごとに対応した数に直す


a……1

i……2

u……3

e……4

o……5

ん……6


③二進数に直す


上記で出した数をxとし、


(2のn乗)-1≦x≦{2の(n+1)乗}-2


の形を作る。ここで呪文はn桁になる事が分かる


③´


0をn個並べておき、


x+1-(2のn乗)=y


の式を作る。


y=(2のk乗)+z


として並べておいたn個の0のうち(k+1)桁目を1に変える


z=(2のt乗)+r


として(t+1)桁目を1に変える


以下繰り返し。

念のため書いておきますが2の0乗は1です。


④完成



 もっと簡単な計算式もありそうですが私はとりあえずこの式を使っています。要は二進数にできりゃあいい。なおk、tの値の範囲指定が不足していますが察してください


ex.「硬化せよ」を呪文にしたい場合


硬化せよ=こうかせよ=koukaseyo=ouaeo=53145


(2の15乗)≦53145≦(2の16乗)-2

   15桁


53145+1-32768=y


20378=(2の14乗)+3994

 100000000000000


3994=(2の11乗)+1946

100100000000000


100111110011101(硬化せよ)


追記、感想欄でもっと効率の良いやりかたがあると発覚


Xを2進数に直す場合

X÷2=X'…余り1or0(仮にaとする)

X'÷2=X''…余り1or0(仮にb)

X''÷2=X'''…余り1or0(仮にc)

・・・

と答えが0余り1になるまで続けて

・・・・cbaとなるように余りの部分を下から並べると変換できる


今までの苦労は一体なんだったんだ畜生


※この小説を読む上で呪文の作り方を覚える必要は全くありません。

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