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就活

 ダンジョンを創って五年になった。攻略状況は四層三分の一ほど。

 三層ボスを倒したのは三種族混成パーティーだった。兎人がその俊敏さで敵を翻弄し引っ掻き回し、竜人が頑強な身体と強い肉体で中衛を受け持ち後ろに攻撃を通さない。そして魚人が後方から強力な魔法を叩き込む固定砲台となる。

 戦闘中に半ば偶発的にできた配置だったが、種族の特徴を生かした役割分担は高い効果を挙げボスを倒すに至ったのだ。

 以降仲の悪い三種族もダンジョン内に限ってはちらほらと「べ、別にアンタのためじゃないんだからね! ダンジョン攻略のためなんだから!」という空気で異種族パーティーを組む者達も現れるようになった。不承不承感に満ち溢れているが取りあえず喧嘩はしなくなった。四層にもなるとモンスターとの戦いにも余裕がなくなり人間同士で足を引っ張り合っていると裏ダンジョンでひっそり幕を閉じる事になるからいがみ合ってる暇も無いだろうさ。

 そしてパーティー効果がさり気なく地上にまで波及したのかダンジョン付近にできた街、ダンジョン街でも種族対立が和らいでいるようだった。ダンジョン街は精霊指定都市の外なので別に争いが禁じられている訳ではなく言い争いが殴り合いに発展してそのまま骨になる例もあったが、同じテーブルで静かに酒を飲んでいる異種族も割と見かける。

 生死を賭けたダンジョンで同じ目的に向かって邁進する内にそこはかとない仲間意識が芽生えてきているらしい。発芽率はあんまり高くないけどさ。

 別に俺達は人間の仲直りだの三種族パーティープレイだのその辺りを狙ってダンジョン創った訳じゃあ無いんだけど、まー結果オーライ。

 俺達精霊は日がな一日水晶を通して冒険者達の様子を眺めてニヨニヨしている。

 アレクも一、二年は俺達と一緒に観戦していたが、三歳になり肉体的に成人するとダンジョンに挑む様になった。トラウマを克服したかったのかそれとも別の理由があったのかは知らない。

 自分一人で頑張りたいとの事だったので贔屓はせずに見守っていたが、俺達の力を借りるまでも無くアレクは案外堅実に初心者の塔から力を蓄えていき、冒険者二年目にして単騎で三層まで行った。呪文が自由に作れるってのはやっぱり強烈なアドバンテージだったらしい。魔法に必要なレジステルの調達は三層後半の核から交換可能になるレジステルでなんとかしていた。えらい。

 で、三層ボスは流石に一人じゃ無茶(ボスは倒しても1ヶ月で復活する)だったのでパーティー組んで作戦立ててタコ殴り、勝利。

 ボスって一回倒されるとパターン組まれてハメ殺される事に最近気付いた。一層ボスなんて毎回復活した瞬間に集中放火喰らって倒されてるしさぁ……いやまあ仕方ないんだけどね。なんかね。釈然としないというかね。

「ただいまー」

 精霊達で額を寄せ合ってボスの行動パターンランダム変更を検討していると、ボスを倒してきたアレクがひょっこり戻ってきた。アレクには地上と最深部の水晶部屋を結ぶ直通転送魔法がかかったペンダントを渡してある。

 冒険者は皆最下層目指して四苦八苦してるのにアレクが自由に最下層に出入りしているのはおかしい気がしたような気分になったけど気のせいだったぜ。

 現在のアレクの身長は170くらいか。白髪を肩にかからない程度に伸ばし、ぴょこんと生えたウサミミはイイ艶をしている。兎人の特徴としての細身はアレクにも適用されているが適度についた筋肉がひ弱さを感じさせない。白地に紅のラインが入ったズボンと赤地に白のラインが入った膝丈のローブを着たアレクは精霊に育てられたせいかどことなく神秘的で人間離れした雰囲気を出していた。

「おかえりー。食べる?」

「食べる」

 シルフィが差し出したポップコーンをむしゃむしゃやりながらアレクは自分用の水晶球の前に陣取った。

 以前はでっかい水晶球が一つあっただけなのだが、どの階層のどの位置を映すかでテレビのチャンネル争いの如く揉めたので今は一人一台が実装されている。ちなみに録画も可。

 ダンジョンで人間が魔法を使えばマステルが溜まり魔法が使いにくくなっていくため、俺達はレジステルを吸収して回収しダンジョン内のマナ濃度を一定に保っている。お陰で俺の身体は随分成長して今では人間の大人と同じぐらいの大きさになっていた。もうジングルスには乗れない。むしろ乗られる。今も乗ってる。

 先程アレク達がボスを倒してがらんどうになった三層ボス部屋を抜けて四層に降りていくパーティーをぼーっと眺めていると、いつの間にか俺の後ろにやってきたアレクが水晶球を覗き込んだ。

「おー、この人達良い装備してるね。四層半分くらいまでなら行けそう」

「死ぬよ」

「えっ?」

「この構成じゃ死ぬ。背後に死神さんが見える」

「なにそれこわい」

 アレクはまじまじとパーティーを観察した。アレクが助けに行かないのはモンスターに殺されるのを防いでも死神さんが来た以上は何か別の要因で死ぬのが確定しているのと、単純に今から行っても間に合わないから。

 パーティー構成は竜人二人とその背中に水を張った樽に入って担がれている魚人で計四人。

 兎人がいない。機動力がある撹乱役の兎人がいないパーティーに未来はにい。いくら装備が良くても包囲され物量で押されて捌ききれずに壊滅するのは確定的に明らか。

「そっか兎人がいないのか。あのパーティー、僕が入れば余裕で全滅回避できたのにね」

 キャーアレクサーン!

「……まああのパーティーの顛末はどうでもいいとして」

 ギャーアレクサーン!

「あのさ、今日知ったんだけど冒険者って職業として認められてないんだって」

「あー知ってる。休日に宝探しに行く感覚で浅い階層に潜りに来る連中多いから。本気で攻略してる連中は一割程度、あと二、三十年もすれば職業として確立されそうではある。んでそれとその深刻な顔にどんな関係が?」

「つまりさ……僕って今……無職だよね……」

「…………」

「…………」

 なん……だと……

「トーゴ、どうしよう僕この歳でプーさんだよ」

「いや待て待て、アレクまだ五歳だろ」

「兎人は四歳で成人だよ」

 なんて種族だ。

「核の褒賞で充分稼ぎはある」

「今日パーティー組んでた竜人にギャンブルやってるようなもんだって言われた。冒険者って人生を冒険してる者(笑)って意味なんだって」

「誰がうまい事を言えと」

「ちゅ?」

「あ、ジングルスとトーゴ達はいいんだよ、人間じゃないから」

 俺達が話していると案の定他の精霊達が水晶球をしっかり録画モードにしてからなんだなんだと寄って来る。

「なになにどうしたの?」

「アレクが無職だった」

「な、なんだってー」

「そう言えばアレク、職業訓練なんにもしてないよね」

「うん……」

 鍛治や商取引は言うに及ばず、農業だって種を蒔く時期や収穫タイミングなどの知識ゼロで始められる職ではない。誰かの小作人の様な立場なら就職できそうだが、この時代の小作人は奴隷と大差無い。

 俺達が養えばいいって? 馬鹿、それじゃニートだろうが。

 しばらくあーでもないこーでも無いと話し合っていたが、レイラがふと思い出した様に言った。

「王様は? あれって血筋さえあれば就職できるんじゃなかったかしら」

「それだ!」

 忘れてた。アレクって王子だったわ。クーデターが起きただけなら国そのものはまだ残っているはず。

 アレクに職業についての専門知識は無いが、俺や他の精霊が異世界のものを含む歴史の話を寝物語に語ってたから国がどんなものか、政治がどんなものかは大体分かっているだろう。それだけで国を上手く回していけるほど簡単でもないだろうが、愚王にはならない確信がある。

「忘れてた。言われてみれば僕王子だったね。うん、王様になってみる。まずはお城に行けばいいのかな」

「あ、じゃあ俺アレクと契約して一緒についてく。皆はどうする?」

「パス」

「スルーパス」

「キラーパス」

「ダンジョンの方が面白そうだ」

「気が向いたら遊びに行くよー」

「あ、そう。それじゃまたその内」

 俺と俺の肩に乗ったジングルスとアレクはさらっと皆に別れを告げてダンジョンを離れる事にした。

 つけっぱなしにしていた背後の水晶球から冒険者達の断末魔が聞こえてきたが誰も気にしなかった。









そうだ、王様になろう

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