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ダンジョンメイキング

 なにやら大騒ぎになっている街を後にして、俺達は南の草原に降り立った。吹き抜ける風にざわめく緑の絨毯はなだらかな丘の向こうまで続いている。

 俺達は誰ともなく頷き合い作業に入った。

「そぉい!」

 まずは俺が気合いを入れて真下に掘削魔法を放つ。地響きを立て不可視の超巨大ドリルが土を巻き上げぐんぐん掘り進み、一分ほどで停止した。円形の底無し穴の縁を更に削り五百メートル四方の正方形にして基礎は出来上がり。

「ぬーん!」

 グノーが穴の側面と底に永久硬化魔法をかけ、

「よいしょっと」

 ディーネが掘り上げた土を少し使い十階層に区切りこれまた硬化をかける。

 余った土はダンジョンの地上の横に円柱形に積んで塔にした。勿論硬化をかける。塔はビギナーダンジョンにする予定。

 グノー、シルフィ、ディーネ、レイラがレジステルを担いでいそいそとぽっかり口を開けたダンジョンの入り口に潜っていくのを横目に俺は一抱えのレジステルを持って塔に入る。

「さて」

 がらんどうの塔の入り口で、上を見上げる。ビギナーダンジョンだから迷路はやめておくと決めてある。あくまでもここはダンジョンシステムとモンスターとの戦闘に慣れてもらうための塔だ。

 まずはこの薄暗さをどげんかせんといかん。適当な間隔で採光窓を開けて、と……あー、やっぱ大規模な魔法連発したせいでマステルが増えて魔法効率落ちてる。効率落ちても量で補えるからいいんだけどさ。魔法効率低下を見越してレジステル多めに持ってきた訳だし。

 次は塔の内側の壁に沿っててっぺんまで緩やかな螺旋階段を作る。幅は三メートル程度。そしててっぺんに塔の頂上部分を丸ごと使った大部屋を作る。ぶっちゃけボス部屋だ。

 うむ、大枠完成。ここからが面倒な所。

 初心者用だからトラップも無ければ宝箱も無い訳だけど、モンスターは必要。当然だ。

 従って疑似生命体/スライムを創造。うぉおおお燃え上がれ俺の妄想!

 ありったけの妄想とアツい何かを込めて魔法を使うと、虚空からモロンと一匹のスライムが零れ落ちた。

 半透明のぷよぷよした身体と、その中心部に透けて見えるビー球ぐらいの大きさの黒い核。全長は大型犬程度? 未だに手のひらサイズな俺からしてみると見上げるほどでかい。メインダンジョン一階にも同じモンスターを配置するが、そっちは嫌がらせ度を上げるために牛乳で汚れて数日経った雑巾の臭いをさせる予定。うひひ。

 俺はプルプルしているスライムに人間を襲う様に魔法をかけた。攻撃方法はスライム体当たりとスライム触手(一本)。脅威度としては動きの鈍い人間の大人ぐらい、倒すのは難しくない。

 でも体当たりで階段から突き落とされたら墜落死するよね。手すりどころか柵も無いし。

 俺はもったんもったんゆっくり上下に伸縮しながら階段を登っていくスライムの後ろについていきながら塔の壁にスライム発生ポイントを作成していく。何の変哲も無いからスライムがむにょんと染み出してくる光景はちょっと面白かった。

 どいつもこいつも元となるスライムのデータをコピーしただけなので姿に差異は無い。色違い差分でキャラ数を稼ぐのはメインダンジョンだけだ。

 ちなみにスライムの身体の材料は塔の壁が変化したものだ。倒されると核だけ残して塔の壁に吸い込まれる。

 塔内部のスライム数が一定の範囲内で変動するように設定したり、スライムが塔の外に出ないように設定したり、魚人用の水場を所々に設置したりしつつ階段を登っていく。塔そのものにレジステル精製機能を付与してあるので一度創れば何度も魔法をかける必要が無いのが嬉しい。

 大体塔の機能を整備し終わった所でてっぺんの大部屋に着いた。そこにはスライムはおらず、天窓から差し込む光が部屋の中央をスポットライトの様に照らしていた。

 俺はそこにスライムキングを創造した。アフリカ像ぐらいの図体で、通常のスライムよりも若干動きが早く、五本に増えた触手がいやらしい。触手の先端からは無機物のみを溶かす不思議強酸が出る。

 この部屋に入れるのは一人だけで、ボスとの一騎打ちを行う。勝てば宝箱をゲット、負ければ死あるのみ。殺伐とした、命のやりとりの世界。

 ただし裏技として降参すると無数の触手であんな事やこんな事をされた後にダンジョン入口に強制送還される仕組みになっている。このアイデアを出したのはグノー。渋い顔してる割になかなかやりおる。

 えーと倒されたボスは一日で復活するようにして、ボスドロップの宝箱の中身は武具か宝石で、ボスを倒すと倒した人間はもう初心者の塔に入れなくなる仕掛けにして(強い人間が独占してボス狩りするのを防ぐため)。

 他になんかあったかな? 不具合があれば後で直せばいいとは言え出来る所はしっかりやっておきたい。

 ……あっ、核の補充があった。

 モンスターは倒されると核を落とす。スライムの場合は丸見えになってるアレの事。この核を集めてダンジョンの各階層に設置された祭壇に捧げると褒賞を受け取れる仕組みだ。より深い階層でより質の良い核をより多く捧げるほど褒賞の質は良くなる。

 一番低いランクが無意味にまん丸な石ころから始まって、黒パン、酒、風邪薬、ギターやら安眠枕やら、交換品目は多岐に渡り、ダンジョン管理役の精霊が気が向いた時に更新されていく。

 一番下の階層で質のいい核を捧げれば、万病を治し頑健な肉体に作り替える霊薬とか、一度だけ身代わりになって死んでくれる藁人形とか、若返りの薬とか、城とか、そんなものが手に入る。ラスボスの核を捧げれば肉体にレジステル精製機能を付与したり死者蘇生したりもできる。ダンジョンの褒賞ならなんでもアリというのが精霊の新しい共通認識だった。

 まーラスボスは一撃で山一つ消し飛ばすような奴にする予定だし、初のダンジョン制覇者がでるのはさて何百年後か何千年後か。ダンジョン内では精霊契約が一時解除されるから自前の魔法でなんとかせにゃならんのがネックだろう。

 ダンジョン創造部隊のトトカルチョだと最短でシルフィの十年。大穴狙い過ぎだろ、二番目がレイラの三百年だぜ?

 ……あれ、何をしようとしてたんだったか……ああそうだ核の補充だ。核も塔の壁から生成される訳だから、人間が核を持ち帰ると塔の壁が薄くなっていく。核を捧げれてくれりゃあその分を回収して補填もできるが、人間が記念品としてとっておいたりダンジョン外で紛失したりと回収漏れも出るだろう。

 まあ適当に塔周りの土と空気中の炭素で補充するようにすればいいか。精霊のほとんど念じるだけで何でもできるご都合主義も甚だしい魔法にかかれば無から創るのも余裕だが、ベースになる物質があった方が効率がいい。

 さあこれで全部終わった。塔の内部はもはやマステルだらけ。

 ああ、残り日数ひたすら深呼吸してレジステルを吸収する作業がはじまるお……

 暇だから壁面に手作業でレリーフでも彫っていよう。





※精霊は深呼吸するとレジステル吸収効率が劇的に上昇します


精霊マジ精霊

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