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死神さんとプロローグ

 俺は昔から霊感が強かった。

 家ではいつもネズミの幽霊が床を駆け回るのを見ていたし、学校では教室の天井から首を吊って白目を剥いている半透明の先輩から定期テストの出題傾向を教えて貰った。

 動物園へ行けばフラミンゴの霊が耳を啄んでくるし猿の霊が頭の上を陣取る。

 霊感がある上に霊に親しまれる体質だったらしい。墓参りに行った時に全身焼け爛れて顔が無い霊に愚痴を聞かされた時は勘弁してくれと思ったが、大体彼等は俺を楽しませ楽をさせてくれた。霊同士で姿は見えない様で、姿が見え触れないまでもコミュニケーションをとれる俺は有り難い存在なのだ、と市立病院に住むばーさんの霊は語った。あとなんか近くに居ると安らぐらしい。

 昔からそれが当たり前だった。

 幸い小さな頃から近所のおじさんの霊が着いていて(憑いていて?)色々アドバイスをくれたお陰で変な子扱いされる事はついぞ無かった。小中高と生きている友達も居た。





「と、こんな感じですかね。楽しい人生でしたよ」

「そうか」






 深夜の自室で俺は死神さんに身の上話をしていた。よれたスーツを来て煙草をふかし、腰に草刈り鎌を下げた半透明なおっさんである。

 一時間ほど前にネットサーフィンをしていたら彼が突然壁抜けしてパソコンの中から頭を出した。俺がビビって悲鳴を上げたら死神さんもビビって悲鳴を上げた。

 とりあえず二人で素数を数えて落ち着き、死神さんが警察手帳みたいな死神手帳を見せて怪しい者じゃないと自己紹介をしてくれた。

 常人ならツッコミ待ちかと疑う所だが俺は抵抗無く信じた。物心ついた時から色々見て来たので今さら死神ぐらいで驚きはしない。

 死神さんにあと一時間弱でお前は死ぬと言われても素直に受け入れた。死後の世界について一般人より若干知識があるので怖くは無いのだ。

 そして数百年ぶりに会話が出来る人間に会ったと言う死神さんに時間が来るまで軽く身の上話をして現在に至る。

「なかなか面白い人生談だったな……あと五分ぐらいか。死後のルールは分かってるか?」

 死神さんはベッドに腰掛けて新しい煙草に火を点けながら言った。短くなって放り捨てられた煙草は空中で霧散して消える。

「強い未練がある場合は現在にとどまり自縛霊。未練が無ければ生前積んだ徳を貨幣に換算して、その量に応じて天国行きか地獄行きか決まる」

「そーだな。お前は天国行きだ」

「やっぱりですか」

 死神さんは俺の心臓あたりを見ながらあっさり言った。確証を貰って少し安心する。

 霊の皆に死後のルールを教えて貰ってから割と善行を積んだので地獄行きだったら困る。俺の世話をしてくれた近所のおじさんにも申し訳が立たない。

 腰の草刈り鎌を撫でながら更に死神さんは続けた。

「天国行った後のルールは知ってるか?」

「いえ、そこまではちょっと」

「そうか。天国行くと徳を換算した貨幣を使って生活できるんだよ。貨幣を使いきるまで極楽浄土を体験できる。天国は良い所だぞ。で、使いきったら記憶を抹消してまっさらな魂に戻される。その後輪廻転生だな」

「はー……」

 なるほど。そういうシステムになってたのか。

「俺どれぐらいため込んでるか分かります?」

「平均の約三倍だ」

「っしゃ!」

 人生……じゃない死後生勝ち組! ひゃっふーマイムマイムでも踊りたい気分だ!

「おい落ち着け。ステップ踏むな。ウザイから」

「あ、すみません」

 死神さんに疲れた声で言われて落ち着いた。死神さんはじっと俺を見ている。何か悩んでいる様子だったが、腕時計を見てから決心した様に口を開いた。

「なぁ、お前転生する気あるか?」

「はい? ……天国行きの人間は皆転生するんじゃないんですか?」

 なんでそんな話を? まさか死神の前で踊ったら地獄行きとかそういう規則が!?

「いや、普通の輪廻転生ではなく記憶を保った転生だ」

「え、そんなんあるんですか?」

「ある」

「……マジですか」

「大マジだ」

 大マジらしい。

「徳貨幣を大量に消費すれば可能だ。滅多にそれだけため込む奴はいないがな。それを成し遂げた有名所を挙げればキリストとシッダールタだな。ムハンマドはギリギリ足りなかった」

 ムハンマドさん……

「ん? そんな話をするって事は俺もそれだけため込んでるって事ですか?」

「いや、今の三百倍は必要だ」

「なんだそれぇ!」

 期待させといてバッサリ一刀両断ですか! まあ記憶保持転生できなくても天国で楽しめれば良いけどさぁ!

 orzを作っているとおもむろに死神さんが立ち上がった。

「あ、時間ですか」

「まだ二分ある。話の続きだが……死神は天国に魂を護送する時に徳貨幣の一割を給料として頂く」

「はぁ、そーなんですか」

「俺は独り身でな、煙草ぐらいしか趣味が無いから随分と徳貨幣をため込んでいる――お前の三百倍ほど」

「……それって」

「お前にその気があるなら転生代を払ってやろう。どうせ使わん金だ、俺の姿が見える奴になら惜しく無い」

 一瞬降りる沈黙。

 そして次の瞬間俺は力の限り叫んで死神さんの手を取っていた。

「うぉお! ありがとうございます! いやありがとうってレベルじゃないなこれ! 感謝を表す言葉が出て来ない!」

「よせ、照れるだろう」

 上げて落としてまた上げるこの手際! 死神さんホント惚れるわ!

 俺が狂喜していると死神さんはまた煙草を捨てて頭を掻いた。

「あー、喜んでいる所すまん。残り一分切ったがまだ言う事がある。転生先は生前と同じ世界かランダムで異世界か二択なんだ。キリストは前者、シッダールタは後者を選んだ。今決めてくれ、どちらを選ぶ?」

「今ですか!?」

「早くしろ。あと四十秒だ」

 死神さんは腰から鎌を抜いて手に持った。俺は急いで頭を回す。

 彼女はいない。祖父母は既に他界、両親は一昨年交通事故で逝ってしまった。気に入っているゲームシリーズの続編は出ないらしいし……

 ……現世に未練は無い。つーかあったら自縛霊になってる。

「えーと、異世界って魔法あったりします?」

「大体ある。残り十五秒」

「決まりました!異世界にして下さい!」

「ふむ。異世界を選んだ場合人外に転生する可能性もあるがそれでもか?」

 はぁ!?

「ちょ、それ早く言って下さいよ! ミジンコに転生とか俺嫌ですよ!」

「いやそれは無い。転生先は一定以上の自我を持つ知的存在に限定される」

「なんだ良かった……なら異世界のままで」

「承知した……三、二、一、零……ではさらばだ」









鈴木藤吾、2010年6月7日午前零時二十分、心臓麻痺により死亡。享年二十二歳。

 設定は完璧にできていますがストーリーは骨子しかできていません。色々妄想を織り込みながらぬるぬる進みます。もう一方の連載が終わるまでは不定期更新。

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