呪われた青年アメシスと潜入使用人 ②フードの下の素顔
②フードの下の素顔
昼食を運んだとき、声をお掛けしてみることにした。
ノックの後に、手が出るのを待った。
扉から出てくる赤い手。痛々しい。
「アメシス様!」
声を掛ける。
手は、跳ねるようにびくっとしてすぐ引っ込んでしまった。
これでは、コミュニケーションが取れそうにない。
次は、お手紙を書くことにした。
食事とともに差し入れる。
『私は、最近お手伝いに入った、パルと申します。
私は、父が医者で、少し医学の心得があります。
アメシス様の症状を緩和することができると思います。
お力になりたいので、夕食をお持ちしたとき、お話させてください
パル・マーレ』
ドキドキする。
拒否されるかもしれない。
でも、アメシス様がこのままいられることを望まないのであれば、お互いに希望があると思う。
夕食を運んだ時、ノック二回の後に、声を掛けた。
「アメシス様、私、パルです。手紙の件で……」
扉が、キィッと軋んだ音で開く。
いつもならば、手だけが出て、すぐ閉まる。
でも、今回は違った。すき間が開いたままになっている。
これは、”入っていい”ということだと私は認識した。
「失礼します」
中に入る。
床には、本がたくさん積んであった。
そして、窓の光を背に一人の男性が立っていた。
窓から見えた、あの背の高い青年。
黒いフードで顔を隠そうとしているが、皮膚は赤くただれて、ボロボロだ。
剥がれた皮膚が粉をふいていた。
その中の目は紫色で、深い悲しみをたたえていた。
「……アメシス様?」
私が、数歩中に入ると、アメシス様は、私にボソッと言った。
「……私に近付くと、病がうつるぞ……呪われるかもしれない」
そう言いながらも、私を中に入れてくれた。
警戒というより、きっと心配してくれているのだろう。
今まで何度も嫌な思いをされてきたのだろうと思うと、胸が痛んだ。
「大丈夫です。うつりません。近くで見せてください」
私は、ゆっくりと、アメシス様に近付いた。
そっと、フードをめくる。
ただれているだけでなく、何度も掻きむしったような跡が見える。
アメシス様は、かなり居心地が悪そうだったけれど、抵抗するようなことはなかった。
私は、手を離して、話しかけた。
「咳は出ますか? 息苦しいことは」
「ああ……」
「いくつか原因が想定できます。順に調べていきたいのです」
「調べる?」
アメシス様が、怪訝そうに呟く。
「ええ、しばらくご負担かもしれませんが、私が責任もって対応させていただきますのでご協力ください」
「……分かった」
アメシス様は、半信半疑……疑いが九割といった様子だったけれど、逆に言えば、少しは期待してくれているかもしれないと感じた。
何とか希望になりたいと思う。
使用人の統括責任者に、アメシス様の専属担当にしていただけないかと願い出たところ、最終的な許可はアメシス様のお兄様であるノール伯爵様にいただく必要があると言われた。
伯爵様のお部屋に伺う。
初日にご挨拶したけれど、お忙しそうで一瞬しかお会いしていない。
伯爵様は、お父様のご逝去で跡を継がれてまだ二年だという。
領地経営や慈善事業にも多く携わられているようだから、当然なのだろう。
伯爵様は、二十代半ばくらい。体も大きくて元気そうだけど、机には帳簿や手紙が積まれていて、慌ただしく書類に目を通しておられた。
伯爵様は、汗を拭いながら、私に言われた。
「アメシス専属の世話を?」
「はい。父が医者でございましたので、少しでもお力になりたいと思いまして」
「そうか……。私も心配しているのだが、使用人たちからも関わるのを止められて。本人も私に害が及ぶことを気にしているらしくて、話もなかなかできなくてな。アメシスを助けられるならそうしてほしい」
伯爵様の、弟アメシス様への深い愛情が感じられた。
◇
次の日の午前中に、私はアメシス様の手を取って、窓の近くに誘った。
「いや……」
アメシス様は、躊躇する。
「私の姿を見たら、驚くものがいるから……」
私が見上げていた時、アメシス様が慌てて姿を隠したことを思い出す。
「アメシス様は、何も悪くないですよ」
そうは言っても、せっかくフードを被られているし、悪化する可能性もあるので、お顔を日に当てるのもはばかられる。
窓から差し込む日差しが柔らかく当たるところへ椅子を運んで、アメシス様に座ってもらう。アメシス様の手を日差しにかざして、しばらく待った。
アメシス様は、フードのすき間から、私の方を黙って見ていた。
しばらく日に当ててその後も様子をみたけれど、アメシス様の手の症状に変化は見ら
れなかった。
「いつもフードを被られていて、外に出られていないから、可能性は低いかと思っていましたが、やはり日光が原因ではないようですね」
「そうか……」
アメシス様の表情は、やはり暗い。




