紫水晶の涙 ― 呪われた青年アメシスと潜入使用人 ①地獄の扉と赤い手
①:地獄の扉と赤い手
その屋敷には魔物が閉じ込められていると、言われていた。
その魔物は、近付く者に奇病や不幸をもたらすと噂になっていたため、使用人も逃げ出すのだという。
お陰で、私が潜り込むには最適だった。
私はパル・マーレ。16歳。
昔、ほんの短い間だけ男爵令嬢だった——今はただの平民だ。
しかも、最近は犯罪に手を染めているから、普通以下かな。
父の贖罪のために罪を重ねる娘。
自分でも妙に感じる。
使用人としてノール伯爵家に入った。
まずは、毎日食事を運ぶことから仕事が始まった。
皆が拒否する仕事なのだそう。
二階建ての大きな建物の奥。
重々しい二重扉は、ギギギ、と屋敷中に響くような大きな音を立てる。
まるで地獄の門のよう。
その扉の、内側にある部屋の扉。その前に、食事を差し入れる。
そして合図にノックを二回。
しばらくすると、手が出てきて、食事を中に引き入れる。
食べ終わると、外に出してあるので、食器を回収する。
奇妙な仕事だと思った。
数回見えた手。赤くただれて、ボロボロだった。
(どういうこと?)
他の使用人に尋ねると、身震いしながら教えてくれた。
中にいるのは、この伯爵家の次男アメシス様だという。
肌が崩れる奇病に掛かり、あの部屋に閉じこもっているのだそう。
その後周囲に不幸も続いたため、呪われていると噂になって、誰も近付かないらしい。
不幸については分からないけれど、私は、あの手の症状には覚えがあった。
私の父は、医者だった。
小さい頃から、薬草や病の話を聞いて、患者さんのお世話を手伝いながら育った。
もし、私の見立てが合っていれば、アメシス様の状況を改善できるかもしれない。
そして、この屋敷を清掃しながら気付いたことは、私の目的のものは、おそらくアメシス様の部屋の隣、厳重な鍵がかけられた部屋。
扉は分厚くてそうそう破られそうもない、金庫室というのかな。
ある意味、アメシス様は二十四時間在中の金庫番なのかもしれない。
庭掃除の間に、外から屋敷の作りを確認する。
金庫室は、アメシス様の部屋からバルコニーが繋がっている。
その窓は表の戸より簡素なもの。
あの窓から入る方法はないだろうか?
そう、考えている時、
「キャ!」
一緒に掃除をしていた使用人仲間が悲鳴をあげた。
二階の部屋の何かに気付いて、慌てて逃げていく。
女性は、建物の陰で自分の家族が病気になるかもしれないと震えている。
部屋の窓に黒い人影が見えた。一瞬だった。
そこそこ背が高い男性だ。黒いフードを被っていた。
フードのすき間から、顔の一部が見える。手と同じように赤くただれていた。
ハッとした様子で部屋に隠れてしまった。あれがアメシス様なんだ。
やはり、そうだ、と思う。私は、アメシス様をお救いできるかもしれない。
そして、ここにきた目的を果たさないといけない。
新王即位式までに完遂しなければ、この国の平穏が脅かされるのだから。




